歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

「ストーカー」の分類(ミューレンによる分類)

日本では「桶川ストーカー殺人事件」(1999年)や「三鷹ストーカー事件」(2013年)のように、元交際相手による事件が「ストーカー事件」としてイメージされやすいかもしれません。

 

しかし、そもそもアメリカで「ストーカー」の恐怖が知られる切っ掛けとなった「ローラ・ブラック事件」(1988年)では、加害者は被害者に片思いしていただけで、このパターンを「ストーカー事件」としてイメージされる方も多いと思います。

 

また、「ローラ・ブラック事件」と共にアメリカ初のストーキング防止法制定のきっかけとなった「レベッカ・シェイファー殺人事件」(1989年)は、熱烈なファンが女優をストーキングして殺害した事件でした。(この事件の加害者には、被愛妄想(エロトマニア)がありました。)

 

 

一口に「ストーカー」といっても、かなり多様なケースが想定されています。

 

ストーカーの分類としては、以前、福島章氏によるものを下の記事で紹介しました。ただしこちらのストーキング対象の分類では、軽い付き合いの「知人」「友人」という枠はなく、「元交際相手」という枠の中に含み込まれてしまっているようです。

 

echo168.hatenablog.com

 

 

ストーカー問題の本格的な研究書としては、P. E. ミューレン、M. パテ、R. パーセル*1共著『ストーカーの心理―治療と問題の解決に向けて』(サイエンス社, 2003年)があります。

 

 

日本での「ストーカー」の扱いに必ずしも一致しないケースも含まれますが、ミューレンらは、ストーキングを行う人たちと、その対象とを次のように分類しています。

 

 

ミューレンによるストーカー・タイプの分類

 1.拒絶型(元交際相手、元配偶者)

 2.憎悪型(恋愛感情や好意の感情は最初から一切ないケース)

 3.略奪型(日本では「性犯罪者」や「変質者」とみなされるケース)

 4.親密性追求型(被愛妄想その他の精神病があるとみなされるケース)

 5.相手にされない求愛型(交際に応じることをいくら断っても通じないケース)

 

 

ミューレンによるストーキング対象(被害に遭う人)の分類

  • 元配偶者、交際相手
  • 軽い付き合いの知人、友人
  • 職業上の接触(医療従事者、弁護士、教師といった人々)
  • 職場での接触*2
  • 見知らぬ他人
  • 有名人

 

 

日本の場合の疑問点

日本のストーカー規制法は、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」つきまとい等の行為を繰り返す者が対象になっています。

 

ミューレンが活動しているオーストラリアと異なり、日本では2.「憎悪型」はストーカー規制法の対象にならないことになります*3。しかし、たとえば、あまり面識のない相手に、何らかのきっかけで逆恨みをし、苦情、無言電話、中傷、脅しなどの嫌がらせを繰り返す人は、日本にもいると思います。

 

逆に、性犯罪目的の変質者でもなければ、純粋に「好意の感情」だけで付きまとうことが、警察沙汰になるほど危険なことなのかと疑問をもってしまいます。相手方に危害を加えているストーカーは、少なくともその時点では「好意」ではなく「憎悪」の感情をもっています。

 

*1:ミューレン、パテ、パーセルのクリニックは、オーストラリアのメルボルンにあり、精神鑑定と治療の両方に従事しており、外来の性犯罪者治療も行っています。

*2:組織改編や懲戒処分などに伴う怨恨、また、日本では「セクハラ」として処理されるケースなど。

*3:カリフォルニア州の法律では、ストーカー行為をharass(ハラス)という言葉で記している。ハラスとは、“相手を繰り返し困らせたり悩ますこと、絶えず攻撃すること”という意味だ。(中略)イギリスの法律においても、同様の考え方が見られる。ストーカー規制法などの独立した法律は設けられておらず、『嫌がらせ行為防止法』という広い枠組みのなかで、ストーカーも一種の嫌がらせ行為として取り締まっている(二〇一二年にストーカー罪を新設)。ところが、日本は、(アメリカの)反ストーキング法を参考にしたものの、ハラスの意味を恋愛にかかわる感情に限定してしまった。その結果、本来、ストーカー行為として取り締まるべき事案が、まったく別の取り扱いをされるといった現象が生じているのである。」(福井裕輝『ストーカー病―歪んだ妄想の暴走は止まらない―「恨みの中毒症状」の治療なしに被害者は減らせない』光文社, 2014年, pp.92-93)。