『FIGHTING GAME COMMUNITY NIGHT』レポート@2019/2/27 Red Bull Gaming Sphere Tokyo

2019/2/1から開かれている大須晶写真展『FIGHTING GAME COMMUNITY』を記念して、大須晶氏・アール氏・ハメコ氏・石井プロ氏(途中参加)による展示写真や秘蔵写真を見ながら、格闘ゲームに関する様々な話を繰り広げるトークショーが開かれました。

場所は写真展が開かれている中野Red Bull Gaming Sphere Tokyo、平日の夜にもかかわらず訪れた多くの来場者の前で、まさに“チーム業者”のメンバーによって裏話やディープな話題が語られました。

e-sportsフォトグラファーのスタート

これまで細かくは語られなかった写真家としての大須晶のスタート。
それは当時アルカディアから4Gamer.netに移ったハメコ氏が、ゲームレポートに大須氏の写真を使ってはと話に挙げたのがきっかけとのこと。

↑大須氏が4Gamer.netの仕事として初めて撮った写真のうちの一枚

まさに共にライターとして仕事をしてきたハメコ氏だから語れる(同時に大須氏が自分から語ることは少ない)、4Gamer.netのカメラマンとして活動を始めた時代を説明してくれました。

“撮る人”が必要

ハメコ氏が海外大会を取材して記事も書き写真も撮るという状況の中で、幸運にもプロゲーマーのときど氏をよく撮れた写真があったといいます。


↑ときど氏の本の帯にも使われたこの写真

その時、一枚の写真の影響力の大きさに気付き、撮る人間の必要性を痛感して大須氏を推薦。大会の配信や記事によるレポートだけでは伝わらない、現場のシーンを切り取り選手の活躍を伝える写真の大切さを感じたということでした。

こうして取材に行くとなればラスベガスなら経費で一人20万円近くかかる中で、4Gamer.netの理解もあり2014年EVOには大須氏も取材に行けたのです。

↑EVO2014で撮影された写真、通称“乙ザン”写真をバックに
 
 
 

さらにそこで、大須氏の写真にハメコ氏がテキストを付ける形のリアルタイムアップロードを行います。
今でこそ記事やTwitter、動画も見られますが、当時は通信事情も悪くサバイバル的な状況でした。
しかし、この取材が報われて情報も広がり、めざましTVにその写真がクレジット付きで紹介されるなど成果を得られたとのことでした。

そしてこの頃にはアール氏も渡航費のみで単身実況をしており、突然ハメコ氏にスマブラのプレイを依頼したり、飛行機に乗り遅れた大須氏&ハメコ氏がアール氏の部屋を訪問した、などのエピソードも語られました。

業者としての“現場”の裏事情

米国EVOなど、つい最近まではいわゆるPRESS席などは存在せず仕事をするためのスペースを確保するのも一苦労とのことでした。

そもそも、椅子もテーブルも用意されてない。
そこで開催会場のホテルのどこかから椅子や机を拝借してくるところから作業開始。
そうすると同様にかき集めてきた海外メディアの人間と椅子や机をトレードしてようやく作業スペースを確保できたとのこと。


この写真も、ハメコ氏が作業しているのは実は大会会場での野試合の机。
モニターの裏側でスペースと電源を確保していたというのが、“現場”の真実でした。

大会を撮るということ

格闘ゲームというカルチャーに触れ続け、そのプレイヤーをカッコよく撮ることを命題に活動を続けてきた大須氏。
その黎明期は混沌とした状況の中で、その裏側を伝えることにニーズがあった状況でした。

↑タイトル「勝利の喜びが、チームメンバーに加えギャラリーにも伝播していく」

コミュニティとのつながりもあり、そのシーンを撮れる立場はいわば独占的な状況。
(もちろん大須氏はそれが同時にニッチな需要であることも十分に危惧していますが)

それが徐々に大会も発展して環境も整えられくると、独占が薄れて誰もが同じような写真を撮れる状況に変わってきているとも言えます。

しかし、大須氏はそういった大会の発展を肯定的に捉えているとのことでした。
SFVの大会は海外中心でショーアップされて写真も撮りやすくなっています。

そんな中、日本人でも「自分も大会の写真を撮りたい」という人も出てきているが、国内の大会でそういった機会は少ないのでもっと増えて欲しいとのことでした。

この言葉には、自分がもっと良い写真を撮りたいという望みと、自分以外の写真を撮りたい人間を妨げる気は毛頭無いというフェアネスがあるのかと。

この発想はもちろん大須氏自身の品格もありますが、これには「自分は高みを目指すが、お前らも好きに上がってこい」という格闘ゲーマー的な潔さを感じずにはいられませんでした。

本当に楽しいのは興行的な壇上よりもオープン大会の予選風景

昨今のe-sportsブームもあり、日本では番組的なものや興行的なコンテンツとして格闘ゲームが取り扱われることが増えてきました。
しかし、それらはある意味写真を撮る立場としては差の付きにくい、誰でも同じ写真を撮れる環境でもあります。

大須氏は、そういった壇上写真よりも、誰もが自由に行き来するオープン大会の予選の方が好きで面白い写真が撮れると語りました。
混沌とした中で会場の熱を感じ「バグってる試合」を察知して駆けつけ、レンズを向ける。
そこには撮り手としても選択肢があり、個性が生まれるということにはハメコ氏も同意していました。


↑バグってる試合の一つ、開催後半に展示されているEVO2018マゴ氏の試合風景の写真

そして、「差の付きにくい壇上写真」であるはずの中で差を生むことができたのが、これまで何度も扱ってきたEVO2017のときど氏の写真である、と話が帰結していきました。
これに関しては、段取りがしっかりしていた……というかハメコ氏のトークプランが上手かったかと。さすがです、委員長。

「カメラマンはいるべき時にいるべき場所にいろよ」

今回のトークショーのトーンが切り替わったのが、ハメコ氏のこの言葉。

それはCapcomCup2018やDragon Ball FighterZ World Tour Finals 2018-19に、大須氏が不在であったことに対するいわば“ダメ出し”でした。

アール氏「お~っと、これガチダメ出しのトーンだぞ。怒ってますよ、委員長」
ハメコ氏「そりゃ怒ってるよ!」

大須氏は仕事の依頼が無かった、海外のカメラマンによって多くの写真が撮られると想定していた、と言い訳をしつつもかなりたじたじの様子。

ハメコ氏は、

CC2018やDBFZに来ていれば、間違いなく大須はいい写真が撮れたはず。
e-sportsフォトグラファーを名乗るなら、いるべき時にいるべき場所にいろ、その為の努力をしろ。
今回の写真展も大須氏の写真にニーズがあることが証明されたし、今までもいるべき場所にいたからこそいい写真が撮れただろ。

と、なかば計算された説教モードでした。

すでにさまざまなゲームジャンルで大会が開かれ規模が大きくなり、ゲームメディアが普通に追いかけるには限界が来ている。
その中で「FIGHTING GAME COMMUNITY」が望んでいるシーンを追いかけて撮る努力を怠ってはダメだろう、それを何とかするのがお前の仕事だろう、とあまりに愛にあふれた言葉でした。

アール氏も「君はまだ自分の役割を認識しきれてないよ。自分の担っている役割を」と、乗っかっていきます。


この辺りは、アール氏はおそらく詳しく段取りを伝えられていなかったはずなのに、機を見て意図的に被せてトークショーとしての意味と盛り上がりを見い出していく。
さすが格闘ゲームに長年携わり、パイオニアとして実況を続けてきた第一人者と言えるものでした。

もちろん、ハメコ氏もアール氏も、大須氏のカメラマンとしての実力は十分に認めています。
そして、現状e-sportsフォトグラファーとしてのビジネススキームがまだ存在していないということも分かっています。

だからこそ、その先駆者として大須氏が道を切り開かなければならない、これまで共に歩んできた者として切り拓いて欲しい、という叱咤激励に聞こえました。

特に、ライター&実況&解説としてのハメコ氏、実況としてのアール氏がこれまでに自身で道を切り拓いてきたこそ言える言葉です。

この一連の流れは、ぜひ実際の映像も見て欲しいところ。後にリンクを貼りますが、1:06:10辺りからです。
何でこの人たち、パブリックなトークショーでここまで思いやりのあるガチ煽りや説教ができるのだろう……と。
格闘ゲームの変遷と成長は、それに携わってきた人間の変化と成長。
“業者”としての道を歩んできた3人の関係を垣間見ることができたシーンでした。

“課金は正義”

トークショーの終わりには、アール氏が持参した宝具や聖遺物の紹介や(こちらは映像の終盤をご覧ください)、来場者に対しての質疑応答もありました。
そこで僭越ながら「大会の写真を撮ってみたい初心者におすすめのカメラなどを教えて欲しい」と質問させてもらいました。

この質問には大須氏だけでなく、ハメコ氏や途中から参加した石井プロ氏も加わり詳しく説明してくれました。
基本的に大会会場は暗く、ISO感度の高いカメラやレンズが必要(もちろんフラッシュは使用できない)。で、それは必然的に高価になる。
つまり「課金ゲー」なんです。課金は正義、課金は嘘をつかない、と。
ズームの効かない単焦点レンズなら比較的安く済むが、それで撮るには立ち回りが必要となる(大須氏いわく「功夫が必要となる。自分も単焦点レンズを使って功夫が鍛えられた」と)。

とにかくe-sportsで写真を撮るというのは特殊な環境なのは確か。入門機として、立ち回りが必要だが中古の単焦点のレンズ、中古の一眼レフで5万円くらいから、など。

さらに大須氏自身の使うカメラを格ゲー的にリュウに例えるなど、“課金”も含めて大須氏らしい回答の数々でした。

まとめ

このトークショーでハメコ氏やアール氏をキャスティングしたというのは素晴らしいものだったと言えます。
大須氏はここまで壇上で二人に詰められるとは思わなかったでしょうが、面白くなるという勘はあったのではと。
そして二人も、それに応える心意気と能力があったと言えるでしょう。

ある意味、e-sportsや格闘ゲームを扱いながらプレイヤーはおらず業者のみで開かれたトークショー、というのも今回の写真展同様に世界初だったかもしれません。
しかし、それ故にまさに「FIGHTING GAME COMMUNITY」に寄り添ったトーク内容だったと言えるでしょう。

機会があれば、また数年後にこのメンバーの話が聞ければ幸せだなと個人的にも思えました。

今後の展開としては、

・写真展の開催はRed Bull Gaming Sphere Tokyoの好意で3/3(日)まで会期延長
・関西での写真展開催予定あり
・他にも2つほど、まだ言えない企画アリ

だそうです。

なお、会期の後半に展示された写真が10点ほどありますが、これらの写真は金属プレートが黒(前半から継続して展示されている写真は白)になっています。

では、最後に今回のトークショー映像や各Twitterリンクを貼っておきますので要チェック!
これからも大須晶氏の活動を応援していきたいと思います。

Twitch『FIGHTING GAME COMMUNITY NIGHT』映像
Twitch
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大須晶写真展『FIGHTING GAME COMMUNITY』公式Twitter

大須晶氏Twitter

大須晶写真展『FIGHTING GAME COMMUNITY』紹介記事
大須晶 格闘ゲーマー写真展[FIGHTING GAMER COMMUNITY] 紹介& “e-sportsフォトグラファー” 大須晶氏インタビュー @Red Bull Gaming Sphere Tokyo
EVO2017優勝後、壇上のときど選手。 今となっては大須晶氏の代表的作品と言ってもいい1枚。 (この写真に関するエピソードは後ほど語ってもらったので、しばしお待ちを) これら大須晶氏の写真30枚が、Red Bull Gaming Sphere Tokyo(以下、Sphere)の柱や壁面に飾られている。

では、最後に会期後半に展示された写真を数点掲載しておきます。
実物は是非、会場にてご覧ください!

追記:後半の追加写真の解説配信Twitch
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