9月16日、あまり注目されていないが、非常に驚いたニュースがあった。
山口3区には自民党で現職の河村元官房長官がいますが、林氏は自民党の公認を得られなくとも無所属で出馬する構えです。
(9月16日TBS)
林芳正氏は山口県(5回当選)から選出されている参議院議員だ。
あまり知られていないが、実は林氏は貴族院議員の高祖父から続く、安倍晋三氏に負けず劣らず筋金入りの世襲政治家なのだ。
記事中にあるように、林氏は長年衆議院に鞍替えする機会をうかがっていたというが、なにしろ7年8か月に渡って、同じ山口県の安倍氏が総理大臣であったのだ。
それは簡単に許されることではなかったと思う。
安倍氏と林氏の間では、その軋轢が可視化されたことがある。
それは2017年の下関市長選だ。
2009年3月から2017年3月まで下関市長を務めた中尾友昭氏は、林氏の支援で当選した子飼いの市長であった。
そこに、2017年の市長選で安倍晋三氏は自分の秘書であった前田晋太郎氏をぶつけてきたのだ。
総理大臣の支援で前田氏が当選したことで、林氏はずいぶん悔しい思いをしたはずだ。
ちなみにこの前田下関市長、あることで全国的に有名になったことがある。
桜を見る会が問題になったとき、あさっての擁護論を市長会見で開陳したこのくだりだ。
ああいう全くうその情報を流している野党を追及してくださいよ。変な伝票出てきたり。全部作りネタじゃないですか。おかしいですよ。
安倍氏に対する異常なまでの忠誠ぶりがよく表れている。
さて、ではこの林氏が次の選挙区に選んだ山口3区とはどういうところか?
実は安倍氏の選挙区ではない。
さすがに元総理とのガチンコ勝負はきつい。
山口3区から現在選出されているのは河村建夫氏である。
安倍政権下で2回予算委員長を務めた経験がある。
予算委員会運営で、棚橋泰文氏に次いで酷い議事運営をする議長であると記憶している。
面白いのがこの河村氏、二階派なのである。
次の衆院選で幹事長の二階氏が、自派閥の河村氏に横やりを入れてくる来る林氏にあっさり公認を出すとは思えない。
「林氏は自民党の公認を得られなくとも無所属で出馬する構え」
そこで、記事中にあるこの態度が、決意の固さをうかがわせるのである。
いや~面白くなってきた。
政治はこうでなくちゃ。
安定した政治など面白くもないし、実は小競り合いのない権力など安倍政権のように腐っていくのがオチなのだ。
これは国民にとっていいことでなのである。
安倍総理大臣という7年も続き絶大だと思われてきた政権が、あっさりと退き、権力のパワーバランスが大きく変わったことを象徴するような出来事だと言っていい。
パワーバランスと言えばまだある。
17日、ジャパンライフの山口会長他14名が詐欺罪の疑いで逮捕された。
中曽根時代から詐欺を疑われつつ、なぜかきちんとメスが入らなかったジャパンライフだが、ここへ来てとうとう逮捕されることになった。
これも、どこかのパワーマランスが変わったからだと思わざるを得ない。
もう一つある。
菅内閣が16日の初閣議で決定した基本方針で、東日本大震災からの復興と東京電力福島第1原発事故の記載が消えた。震災復興を最重要課題に掲げた第2次安倍政権は2012年の誕生以来、内閣発足や改造に伴う基本方針全9回で震災や福島再生に言及していた。
(2020年09月18日河北新報)
これも、全国紙では報じられない、実に地味なニュースであった。
これまで安倍政権下では必ず基本方針に入れられてきた「震災復興」「原発事故」の文字が、スガ政権になって初めて削られたというのだ。
2021年度からの予算組みや政策はこの基本方針に則って組まれることになる。
端的に言えば、来年度からは東北の復興界隈に付けられる予算は減らされる可能性がある。
安倍政権下で、安倍首相は実に足しげく福島を訪問し、選挙街宣の第一声を福島でするなど、非常に気を使ってきた。
訪問回数は、選挙区である山口県より多かったかもしれない。
そこにはなにか復興にまつわる大きな利権があったのだと、筆者は推測している。
しかし今回、スガ内閣の基本方針では「復興」の文字が消えたという。
これも、利権という意味でのパワーバランスが変化したことを示す大きな出来事だと思う。
スガ首相は「安倍政権を引き継ぐ」という表現で波風を立てないようにはしているものの、特に利権関係ではその勢力図は私たちが想像するより速く変化を起こしているようだ。
権力のバランスが変遷すれば、そこには隙も変化の余地も生まれる。
やはり、どんな形でも政権交代というのは必要だと改めて思うのだった。