【深いヨミは、深海を探るが如くにの巻】
■「定石は覚えて忘れろ」という。
有名な囲碁の格言である。
元祖人間コンピューター・石田芳夫は
「定石はたった二百ほどを覚えるだけでアマ三段になれる」という。
昭和の棋聖・呉清源は
「定石は基本形を覚えるだけで十分。むしろ死活やヨセの筋をしっかり覚えるべし」という。
これは別のことを言っているようであるが、
実はどちらも正解なのだろう。
アマ三段程度までであれば、そこに至る道はいくつもある、というわけだ。
それを柔軟に考えることによって、万年級位、万年初段からの脱出がかなう、と思う。
■碁は、相手のヨミ筋の裏をかいて、
有利な流れを作らねば、
なかなか勝てない。
我慢と反発の使い分けができるか、どうか。
■先日の例会で、始めて5年で入段のY初段が、
ため息をついていうには、
「T初段は苦手。切れる所はどんどん切ってくる」
「碁は断にあり」
相手を分断し、弱くして攻める。
これは戦術として極めて有効である。
判断を支えるのはヨミである。
◇
■12月8日ブログ投稿「今日の蛤は重い」で、
橋本昌二九段を長考派と書いた。
誤解のないように説明しておくと、
橋本は早碁も得意である。
テレビ囲碁3回、早碁選手権1回などの優勝経験がある。
強い人は、どちらも強い。
なぜか?
彼らは一目で百手、千手を読めるのだが、
時間を掛けて、
読んだ先の膨大な変化図を比較検討・評価しているのだ。
われらヘボ碁打ちのように、
ヨミ切れない、
ヨミの速さがない、
迷っている、
のとは全く次元が違うのである。
橋本昌二(1935~2009年) 関西棋院設立時から若手筆頭格として活躍し、「天才昌二」の名をほしいままにした。入段から11年で九段に昇段。十段、王座などのタイトルを奪取し、関西棋院第一位決定戦では12回優勝し「関西棋院名誉第一位」の称号を持つ。棋風は深い読みの力戦型で、長考派としても有名。重戦車の異名を取った。 1994~98年、関西棋院理事長。