オン・ザ・ミルキー・ロード
  監督 : エミール・クストリッツァ
  製作 : セルビア・イギリス・アメリカ

  作年 : 2016年
  出演 : エミール・クストリッツァ / モニカ・ベルッチ / ミキ・マノイロヴィッチ

 

 

さすがにしたたかな映画作りでして本作が<3つの実話に基づき多くの寓話を盛り込んだ物語>であることが冒頭で告げられます。むくむくと盛り上がっていくこの物語の、さてさてどれが実話なのでしょう。何とも監督の故国を思わせるような戦争の真っ只中で乾いた砂礫の谷間を一杯に満たして見渡す限り暴力の洪水に呑み込まれております。主人公は飛び交う銃弾を蝙蝠傘ひとつで身を守りつつ毎日麓から山高い陣営まで牛乳を運び続けています。いつ終わるともなく来る日も来る日も砲撃が続くわけですからそれらが着弾する爆裂の下ではわが陣営もおそらく敵の陣営ももはやそれが唯一の愉しみである旺盛な食欲のためにうずたかく積まれた食料は銃弾以上にせっせと卵が割られ芋が剥かれていきますよ。短い停戦の合意もそれぞれの消費におっつかせるためにヘリで食料を運び込むためでして見れば豚もおりアヒルもおり(おっと、主人公が飼い慣らす猛禽類が鷹か隼かの区別がつかない身としてはアヒルと鵞鳥の区別なんて以ての外ですが)牛も鶏もあってひとが食うという下世話で笑いさんざめく何かが世界に剝き出しになっています。銃弾に軍隊式の簡素で頑丈な容器は穴だらけにされてこぼれ落ちる牛乳が道の穴ぼこに水溜まりを作るとどこからともなく蛇がやって来てはそれを飲みます。破壊と殺戮そして死が跳梁しながらそれを掻い潜り時間を刻一刻先に蹴り出すようにひとが今日も生きていまを生きていてそして生きるためにひとは豚を殺し乳を絞り鶏がひねり出した卵を頂くのです。それにしても何が実話なのでしょう、父を探してこの戦争の地へ足を踏み込んだヒロインが収容所に放り込まれつつ結婚の斡旋業者のために戦争の英雄の花嫁としてそこから抜け出すことでしょうか、それともあでやかな結婚式が村ごとというより村人ごと軍隊によって焼き払わされることでしょうか、それとも巨大な樹木のてっぺんへと逃げた恋人同士が手に手に鳥のように天に羽ばたいたことでしょうか。考えてみれば戦争こそ巨大な寓話のようでこれほど複雑でこれほど単純で機械仕掛けにすべてを呑み込みながらガタゴトと動き続けてそのなかではすべてが寓話でありすべてが実話なのかも知れません。いまはただ戦争のあともまるで消えない燎原の火のように主人公とヒロインを追い続ける悪しきしがらみから彼らの運命が逃げ切ることを祈るばかりです。たらふく牛乳を飲み干した欲深き叡智の蛇よ、彼らを助けたまえ。

 

 

 

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エミール・クストリッツァ オン・ザ・ミルキー・ロード モニカ・ベルッチ

 

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