炭坑
  監督 : G.W.パプスト
  製作 : ドイツ

  作年 : 1931年
  出演 : アレクサンダー・グラナック / フリッツ・カンパース / エルンスト・ブッシュ

 

 

G.W.パプスト 炭坑

 

1906年に千人を越える死者を出した痛ましい炭坑事故の記憶をナチス躍進で風雲急を告げるドイツのいまに移し替えようというんですからなかなかにG.W.パプストのしたたかさです。時も第一次大戦後、場所はフランスとドイツの国境でしてまさに両国に横たわる長年の火種が大戦の勝敗によって新たに逆巻いているそんな火中です。地上では見渡す限り牧歌的な平地が広がって陽気に誘われるまま歩くに任せていけばドイツだフランスだと言い合ったところで同じ原っぱの道なりです。しかるに無粋な遮断機に検問所がピクニック気分を押し返します。挙句に何につけ戦勝国風を吹かすのが癪に触ります。めかしこんで乗り込んだフランスの酒場でも目の覚めるような美女を見つけて色めき立ち蛮勇を振るってダンスに誘ってみますが(美女に悪気もなくただ踊り疲れているだけにしても)断られるとドイツ人だからかと(僻む自分が弾けて)怒鳴ってしまい一斉に立ち上がるフランス男たちの間をすごすごと引き上げるんですから面白かろうはずはありません。そんな両国民の、袖すり合うたびに火打ち石のようにカッカッと打ち合う火種に引火したわけでもないでしょうに晴れ渡るある日フランス側で炭坑火災が発生します。ただならぬ気配に家族はわらわらと家を飛び出し駆け出して閉ざされた会社の門に詰めかけます。押し合うばかりの不安は空にまで渦巻いて事故発生はすぐにドイツ側にも知られます。やがて坑道から上がっては(いやあのちの歴史を知っている者からすれば何かアウシュヴィッツの、あのシャワー室を思わせる広大でのっぺりした四角四面に裸んぼうの男たちが高く天井吊るしのシャワーを一律に浴びながら... パプストのこの奮闘が次こそ実を結ぶことを祈るばかりですが)入れ替わりに坑道に入っていく者たちの間でもこの話が持ちきりで明日は我が身とあればあしざまに喜ぶひとこそいませんが所詮対岸の火事です。坑道に閉じ込められているのは600人、その家族たちの悲痛がここまで聞こえてきそうです。助けに行こう、主人公の決断の声です。実際にはドイツ人であることと同じ坑夫であることの間をずっと揺れ動いている皆の胸のうちです、そうだけに沈鬱に口を閉ざしてやり過ごしたい、自分はドイツ人であいつらはついこの間まで敵だったやつらだと自分の優しいところを塗りつぶしたくなります。主人公は語りかけます、同じことになればお前の母さんが嘆くことになる、妻もそして子供たちも... パプストがこの映画で何を掛けようとしているのかはわかります。本作のモデルとなった炭坑事故以降各国では炭坑での8時間労働が法制化されるなど労働運動が活発化するなか万国の労働者が団結して次なる戦争を国を越えて阻止することが燦然と語られたものです。しかるに第一次世界大戦の砲声はそんな団結を夢まぼろしにひとびとを再び国民に整列させて未曾有の戦禍に次々と放り込んだわけです。労働者が国という地平を言わば地中に穴を穿って団結するという賽をパプストはここにもう一度振ります。それがどうなったかは言うまではありませんが、同じ坑夫仲間を助けようと主人公の呼びかけに応える者たちはいまも雄々しく立ち向かっていきます。

 

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