裸の拍車
  監督 : アンソニー・マン
  製作 : アメリカ

  作年 : 1953年
  出演 : ジェームス・スチュワート / ロバート・ライアン / ジャネット・リー / ミランド・ミッチェル / ラルフ・ミーカー

 

 

アンソニー・マン 裸の拍車 ジェームス・スチュワート

 

重い、如何にもひとを殺す道具の、重い決断を引き絞るように鋼の撃鉄を引き上げると相手に気取られぬように腰を屈めた姿勢に銃は自ずと草原を攫うように忍び寄る男のあとをついていきます。(そう言えば赤木圭一郎に拳銃捌きを指南して万にひとつこの瞬間に弾詰まりを起こすかのしれぬ自動拳銃は使うべからず、殺し屋たるものその万が一こそ用心しろと回転式拳銃を手渡しながら垂水悟郎は説いたものです(牛原陽一監督『紅の拳銃』日活 1961年)。『ダーティハリー』にしても如何にも彼の過剰な男性性を象徴するような巨大な回転式拳銃を携えてあの銃こそが名前通りに組織のなかの厄介者、横紙破りの生きざまをずっしりと見るものの手に乗せます。しかしいつからか主人公が手にするのは<ひとを殺す>無骨さから(まあそれを体よく言い換えた)<ひとを制圧する>スポーティなデザインになって当然回転式拳銃から自動拳銃になると(ぱっと見テレビのリモコンでも握っているみたいに)片手どころか両手に二丁、まっすぐ立てて持っていたかと思うと<ハ>の字に構えたり寝かせてみせたり気取りも格段に上がってやたら撃ち何か薬莢で足許が埋まるぐらいに撃ちまくって... 撃たれることの痛みというか命を吹き飛ばされる重さは遠退いたように思います。それからするとダブルアクションでもなく撃鉄を上げて引き金を引くという(まさに決断と逡巡の)二動作が重い一発一発を発射すると(まだごろんと弾倉ごと横倒しに引き出せず)何か一種の深い悟りのように銃身の下部に添えられた棒を押して空の薬莢をひとつ抜き落とすと弾倉をひとつ回転させて同じことを繰り返して今度は弾を一発一発(勿論相手の弾が飛び交うその最中に)込めていくんですから如何に撃つことが撃たれるということと権利上隣り合わせだったということです。)さて草原で野営している男に主人公が近づくと(近づく一歩ごとに)目的のお尋ね者とは違うことはわかりますが...  しかし追跡と知って痕跡を消しつつ逃げ始めたらしく広大なアメリカの辺境にすっかり見失って血眼になっているのは主人公も同じ、何か手掛かりはないかと男に挙手させたままあれこれ物色します。突きつけられた銃に縮み上がりながら同時に主人公のひと柄をさっと値踏みすると危害を加えられる恐れはないことを見抜いて何とも気のいい山師の老人でして、道々見かけた野営の跡まで半金10ドルで案内を買って出ます。まさにそこで彼らの尻尾を掴むと見れば岩場にまだ宿営している様子、しかし断崖に陣取られると近づくのも容易ではなく銃声を聞きつけて元騎兵隊の、(まだ制服でそこいらをうろついているような)幾分軽佻な青年まで物見高く集まって... いやいや寄せ手も三人になるといっかなお尋ね者も死角に隙を作ってやれもやれも御用と相成ります。あとはカンザスまでお尋ね者を連行するだけ、青年と老人には協力に感謝してお引き取りを願うところにお尋ね者の高笑いが響き渡ります。ふたりが保安官だと信じている主人公は単なる賞金稼ぎでしかも自分には安くない賞金が掛かっていると自ら手配書を広げるとその額なんと5000ドル。先程の10ドルなんかつっ返してきてもはや山分けを一歩も引かない老人に青年です。まだまだ映画は始まったばかり、三つに砕けた主人公の思惑と縛り首までの遠い旅路をいまは大人しく連行されていくお尋ね者のにたり顔が揺れながら... しかし主人公には5000ドルをびた一文欠けさせるわけにはいかない苦い苦い理由があるのです。

 

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