甲賀屋敷
  監督 : 衣笠貞之助

  製作 : 大映・新演伎座
  作年 : 1949年
  出演 : 長谷川一夫 / 山田五十鈴 / 黒川弥太郎 / 杉山昌三九 / 河野秋武 / 山本礼三郎

 

 

衣笠貞之助 甲賀屋敷 長谷川一夫


口あけに掲げて<甲賀屋敷 第一部>とされていますが確か第二部は作られていないはずです。ですから目明かし、あばずれ、藩の悪党に腰巾着、姫に、乳母に、虚無僧が入り乱れていよいよこれら騒擾を糺すべくその震源にして固く他国に閉ざされた阿波国へと旅立っていくところで終わる本作にはその後のなりゆきが永遠にお預けです。言わば引っ掻き回すだけ引っ掻き回し気を持たせるだけ持たして観客の胸のうちをすっと掻き消えてしまった格好ですが因縁と欲と(やや思わせぶりに過ぎる)謎が絡み合う活劇であれば前段だけでも見応えに山あり谷あり最後は解き明かされる因縁は明かされ残されたものは後段に譲ってすっきりと結末を迎えて端物というよりもここで一度きちんと幕が引かれていてちょうど大歌舞伎の人気の段を一幕物で見るときの(やや後ろ髪を引かれながら)満足するあの感じです。何せ始まりからしてもうとっくに事件は動き出しているその疾走感が音もなく潜り込んできて朽ちた塀を越えて木暗い草間に飛び降りるのは河野秋武です。忍ばせた体を起こしながら辺りを伺う足取りで叢から渡っていくと(キャメラも忍び足に)だんだんとここが荒れ放題の屋敷であることがわかってきます、まさしく題名の甲賀屋敷。彼の潜入に合わせて(さすが甲賀の)からくり尽くしの屋敷には部屋から部屋へ押し合うように入り組んでいてそこを分け入るひと足ごとに波紋を作るようです。やがて新たな登場人物が(河野の息を潜めた視線に)捉えられると屋敷の謎にこの男の謎、そして河野自身が(われわれには)ひとつの謎でさらに(どうも物語を大きく遡るのらしいそんな遠い因縁に導かれて)山田五十鈴まで現れながら語りは濁るどころからどこまでも摺足に歩を進ませて見守る観客の胸を高まらせます。野心的でややそれが勝ちすぎることから来るずぼらさがとかく評判をしょっぱいものにしている衣笠貞之助ですが、講談調に大きく構えさせるとさすがの手並みで火がなくともぱたぱたと煙が立つものです。大映と提携して製作は新演伎座で戦中に(先細る映画を横目に)実演に道を開こうと長谷川一夫と山田が起こした一座ですがこのときには映画の製作会社に鞍替えをしてまあそれもあって本作の、山椒小粒の味わいです。とは言いましても長谷川を真ん中に錦絵のように織りなすのが黒川弥太郎、杉山昌三九、岡譲司といういづれも戦前の二枚目揃いにヒロインも山田に長谷川裕見子、河野秋武に山本礼三郎、薄田研二が脇を固めて山路義人、鳥羽陽之助、原聖四郎が芝居の弾んだところを飛び廻るという布陣は何ら見劣りするものではありません。(鳥羽なんて一応は真剣な活劇時代劇として陽気な相好をきりりと引き締めてはみたものの、虚無僧姿の長谷川と立ち会って尺八で小手をしたたか叩かれると(無念に刀を取り落とすどころか)アヒャフヒャと抜き身を放り投げてしまいそのときの、お手盛りの騒ぎように東宝で高瀬実乗で組んだときのアチャラカの物腰に一瞬立ち戻るのが何とも楽しい限りです。) そうそう忘れておりました、屋敷に隣り合う無縁仏の世話をして老嬢が何くれと話の要所を縫っていきますがこれが1949年の北林谷栄でして実年齢で28歳、折れ曲がる足腰は勿論のこと歯抜けを下口を窄ませて(まああれでよく滑舌を残したもので)流石に溢れる若さを押し込めるのに顔の見分けがなくなるほどのメイキャップをして老け役の若気を見る思いです。

 

 

 

衣笠貞之助 甲賀屋敷 山田五十鈴

 

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