けものみち
  監督 : 須川栄三

  製作 : 東宝
  作年 : 1965年
  出演 : 池内淳子 / 池部 良 / 伊藤雄之助 / 小沢栄太郎 / 小林桂樹 / 黒部 進

 

 

須川栄三 けものみち 池内淳子


女に待ち受けているのは数奇というには些かひとの手の湿り気を帯びていて月の手当が3万円、寝たきりの夫に付き添いの女性に支払う分だけで働くさきから羽が生えたように消えていってひと月ひと月、いや夫が寝るこの家に帰るたびに茫洋と広がるこれからに自分が泥濘んでいくようです。夫にしても治る見込みもないまま半身の自由が利かず日がな布団のなかで生きていることを持て余して甘えと卑屈な暴君ぶりで付き添いの女性とも自堕落な関係を結んでいます。挙句に女の襦袢を寝巻き代わりに着込んでは外に働きに出る妻への妄想にわが身ごと襦袢を掻き抱き身悶えて女が自分のことを身震いするほど毛嫌いすればするほどそう仕向けずにはいられないのです。そんな人生の吹き溜まりで女に残されているのはひと並み以上の美貌ですがそれがそのままなにがしかのものをもたらしてくれると思うほど女も若くはなく仮にそんなことを見込んで耳許で囁かれる話が通り一遍のことで済まないことも承知していながらそれでも池部良の申し出に心が動いたのは臆することなく女を金で値踏みする率直さに却って彼なりの誠実さを見たからで端的に言ってそれに賭けなければ(自分を掴んで離さない夫に底なしに引きずり込まれて)浮かぶ瀬はないのです。この覚悟があり値踏みされた自分の価値を自分で数えてみる強かさもあって初めて美貌が武器になり(そうなればますます男たちはそれに魅了されて)そういう一切を見越して池部は池内淳子を世話しようというのです、それも自分の女ではなくあるひとへの慰みものとして、まるで(いまも魅惑に微笑む)古美術でも売り渡すように。金はあるところにはありあるどころかあり余るほどあってそれを鷲掴みにする幸運が切り立つ東京の夜となって女の足許にみるみる開けてあとは目を瞑ってそれに身を投げるだけです、獣のように揉み合う夜の息遣いに抱かれなければそれを泳ぎ渡ることはできません。失うものを失いそうして得るものを得るのです。彼女はまだ知りませんが程なく彼女が向かう粛然な屋敷の、奥の間に横たわる老人は日本の戦後を裏から指導して政界、財界、官僚、暴力組織までを掌中に転がしては日本の運命を云々している小沢栄太郎です。それに手足のように使われている伊藤雄之助に池部良がこの小沢の重力に沈み込んだ一蓮托生の悪党たちで、本を正せば満州の利権の泥沼に腰まで浸かった者同士であってそれを知るや高度成長に堅固に立ち並ぶ東京が満州の亡霊に幻のように立ち揺らいで... そこに足を踏み入れるには女にも悪党の血塗られた証が求められるでしょう、そうです、彼女の足にまといついた夫を自分でどうにかするように背中を押されます、震える手に火事を偽装するアルコール燃料を握りしめて獣道の暗闇に女の顔の物凄く。

 

須川栄三 けものみち 池内淳子

 

こちらをポチっとよろしくお願いいたします♪

 

須川栄三 けものみち 森塚敏

 

 

関連記事

右矢印 映画ひとつ、須川栄三監督『野獣死すべし』

 

右矢印 石井輝男の純情

 

右矢印 落花に唇を寄せて : 高島忠夫、突き出した唇

 

 

須川栄三 けものみち 池内淳子 池辺良

 

須川栄三 けものみち 伊藤雄之助

 

 

2年前の記事

右矢印 杉良太郎を少々

 

 

須川栄三 けものみち 小沢栄太郎

 

須川栄三 けものみち 池内淳子

 

 

前記事 >>>

「 なおなおまぎらわしい 」

 

 

 

 


■ フォローよろしくお願いします ■

『 こけさんの、なま煮えなま焼けなま齧り 』 五十女こけ