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知れば100倍面白くなる美術館の見方(静物画編)-四季・技・ヴァニタスに注目し静物画を身近なものに

海外旅行やデートの定番スポットである美術館。美術館へ行く機会はあるものの、よく分からないから行きづらいという方も多いのではないでしょうか。身近にありながらも、どことなく敷居が高いイメージの美術館ですが、実は美術品の見方のポイントを抑えるだけで、その面白さは何倍にも膨らみます

今回はそんな「知っていれば100倍美術館が面白くなる豆知識」を「静物画」にスポットを当ててご紹介したいと思います。

 ※本記事は学術研究や理論に基づく記事ではなく、一個人の趣味の範囲で書かれているものです。

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Frans Snyders

 

知れば100倍面白くなる美術館の見方(静物画編)-四季・技・ヴァニタスに注目し静物画を身近なものに

美術館に行くと良く目にする静物画。一見難しそうに見えるジャンルの絵画ですが、見方のコツを知ると、とても面白いジャンルです。

この記事では静物画について、四季を感じること、画家の技術(質感)に注目すること、ヴァニタスに注目すこと、絵画からデザインへの変貌、の4つを中心に、静物画を100倍楽しむための見方をご紹介します。

 

画家の技術の結晶「静物画」

静物画とは、絵画のカテゴリーの1つで、果物や花、グラス、お皿、獣肉などの動かない、静止した物を対象とした絵画のこと。美術館に行くと必ずといっていいほど何点かは展示されている王道の絵画です。静物画自体は紀元前から描かれていたといわれていますが、盛んに描かれるようになったのは17世紀から。そしてその後現在に至るまで描かれ続けているジャンルです。

静物画の特徴として、画家の技量が物を言う絵画ということが上げられます。果物や花、グラスやお皿などを題材とする静物画は、本物そっくりなところに意味が見出されていたため、画家たちは競って静物画を描き、自分の技量を認めてもらおうとしました。謂わば画家たちが自分の技術を比べあうための格好の題材であったのが静物画でした。

 

市民台頭が鍵-静物画の歴史

何故17世紀から静物画が盛んに描かれるようになったのか、それはオランダでの市民階級の台頭に起因します。

絵画と言うのは元々貴族の偉い人たちのもので、教養ある貴族がその絵を読むためにありました(絵に描かれたギリシャ神話の内容などを絵を見て思い出しながら楽しむ)。また、教会が布教のためのツールとして、目で見て分かる絵画を利用していたことも絵画の存在意義の1つでした。

一方でオランダでは、スペインからの独立を機に市民階級が台頭し、絵画の購買主が市民階級へと変化。画家たちは市民が好んで購入したくなるような風俗画(市民の生活を描いた絵)、風景画、そして静物画を書くようになりました。

 

※風俗画の紹介はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

静物画が100倍面白くなる鑑賞法

そんな静物画ですが、私は実は「神話画」や「宗教画」、「風景画」などに比べてつまらない絵画だと思っていました。何せ、どれも同じに見えてしまう。これでもかと言うくらい画面に花や果物が詰め込まれた絵、狩られた直後の動物の絵、何の変哲もないグラスの絵…

しかし、そんな一見退屈に見える静物画もちょっとした見方の豆知識でぐっと面白くなるのです。

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Isaac Soreau

四季を楽しむ

17世紀から、オランダで購買主が市民に代わって言ったと前述しましたが、その購買主は購入した絵をリビングやベッドルームに飾っていました。その家に飾る用の絵画として要望したのが四季折々が詰まった絵画です。

現在では、温室などの発達から、春夏秋冬、様々な花や果物を観賞したり頂いたりすることができますが、17世紀には季節のものは季節の間でしか楽しむことができませんでした。そんな中、購入者の要望に多かったのが様々な季節の花や果物を同じキャンパス内に描き、絵画で四季を堪能すること。日本では茶道などで季節にあった茶花や掛け軸を準備し四季を楽しむという「わびさび」が伝統的ですが、ヨーロッパではまた別の美を楽しんでいたのです。

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Balthasar van der Ast

例えば上の絵を見ると、現実では起こりえないほど様々な季節の花や果物が描かれています。まず春を彩るバラやあやめ、初夏の味覚ブドウ、そして冬の果物洋梨とリンゴ。それに加えて海の幸も絵画を彩っています。 このように、どんな季節にも様々な四季を楽しむことができる静物画は、人々の生活を彩り、華やかにするために描かれた存在だったのです。

 

画家の技量が随所に

冒頭に静物画は画家の腕を見せる絶好の芸術だと書きました。この腕の見せ所となるのが、あのグラスやお皿の絵。私の場合、美術館で横を素通りしがちな分野です。しかし、この無機物の絵には、画家の技が所狭しと詰め込まれています。

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Sebastian Stoskopff

例えば上の絵のグラスの透け感。本当にグラスが目の前にある感じがしませんか?バケツやコップの金属の質感も画家が渾身の技術を込めて表しており、画家はこのリアリティを観客に味わってほしいと考えていたのです。ですから、私たちも画家が見てほしいと思っていた、このリアルさに注目するとより一層絵画が楽しくなります。

次の絵はフルーツと牡蠣の絵。牡蠣やフルーツの瑞々しさ、布の柔らかさ、ランプの光沢、食器の質感が表現されています。

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Laurense Craen

 このように、一見無機質な絵に見える絵画でも、実は随所に画家の技術が詰め込まれており、その絵のリアルさに注目してみることで無機質な絵が生き生きと見えてくるのです。

 

儚さの寓意ヴァニタス

ヴァニタスというのも静物画の見所。ヴァニタスは、絵のモチーフによってこの世の無常を表す表現方法のことで、例えば髑髏や熟した果実、泡、砂時計などを描くことで、時の儚さを表現します。

静物画には一見綺麗な絵に見えても実はヴァニタスだったということもあるので、これはヴァニタスではなかろうか?と考えながら静物画を鑑賞するのもひとつの楽しみ方です。

私が持っている写真の中にはヴァニタスの絵がないのでここでは紹介できないのですが、美術館に行ったときに、もし髑髏の絵や砂時計など描かれた絵画を発見したら、その絵を見ながらこの世の無常を感じてみてください。

 

 ※筆者お勧めの西洋絵画を学べる本の紹介はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

デザイン重視に変貌した静物

 印象派が活躍する19世紀になると、リアルな技巧派の絵画よりも、よりデザインを重視した静物画が登場します。その代表格がりんごの絵でお馴染みのセザンヌ。これまでの「どれだけリアルな表現で描けるか」という視点から、自分の描きたい世界を静物で表現するという視点へ変化していきました。 

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Paul Cezanne

こちらは「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」や「ピアノに寄る少女たち」など可愛らしい絵のイメージが強い画家ルノワール

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Pierre Auguste Renoir

静物画もやっぱり可愛らしい。リアリティよりも自分らしさが存分に表現されています。

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Pierre Auguste Renoir

リアリティを追求した絵よりも独創的で面白い静物画を見ることができるこの時代の静物画は「自分の家ならリビングに飾りたいな」や「玄関に合いそう」など、より自分の生活に密着した視点で鑑賞するととても楽しく鑑賞できます。 

 

終わりに

今回は「知れば100倍面白くなる美術館の見方」をテーマに、静物画の鑑賞ポイントについて紹介しました。美術品鑑賞は自分が見たいように見ることが一番なのですが、少しだけ自分の感性に見方のポイントをプラスしてみると、これまでとはまた違った感動に出会うことができるかもしれませんので、是非今回紹介した鑑賞方法を頭の片隅に、美術館に足を運んでみてください。

 

※ちなみに、ピカソ静物画を描くとこうなる。

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Pablo Picasso(ノートン・サイモン美術館蔵)

※西洋絵画の見方はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

 

※筆者お勧めの美術系小説家は原田マハさん

sumikuni.hatenablog.com

 

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