すみくにぼちぼち日記

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知れば100倍面白くなる美術館の見方(風俗画編)-風俗画で人々の暮らしと日常を知る

美術館で大人気の印象派。モネやルノワールなど多くの有名画家が印象派画家として知られています。

一方で美術には陽が当たらないテーマというものも存在します。その中の一つが風俗画です。

この記事では美術界のマイナーカテゴリーとも言える風俗画の見方を「100倍楽しむ」をテーマに考えていきたいと思います。

本記事は個人の趣味の範囲で書かれたものであり、学術的な根拠に基づいた記事ではありません

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知れば100倍面白くなる美術館の見方(風俗画編)

美術館に行くと必ずといっていいほど展示してある、人々の日常を描いた風俗画。のんびりした風景や人々の飾らない姿が魅力の絵画です。

この記事では、そんな魅力溢れる風俗画について、人々の息吹を感じること、時代の変遷を見ること、スナップ写真を見るように楽しむこと、の3つの見方を中心に、これまでよりももっと風俗画を楽しむことができるようになる見方をご紹介します。

 

風俗画とは-暮らしの一瞬を切り取る

風俗画にスポットを当てると言いましたが、そもそも風俗画とはなんでしょうか。その答えを見つけるための鍵はオランダ絵画が握っています。

こちらは1660年代にオランダの画家フェルメールによって描かれた『天文学者』。この天文学者はモデルはいたそうですが、そのモデルの為に描かれた肖像画ではなく、フェルメールが彼の日常の一瞬を切り取った構図となっています。

Johannes Vermeer

Johannes Vermeer(ルーブル美術館蔵)

 

続いてこちらは1641年にオランダで描かれた豚の解体作業の絵画。特定の王族などを描いたものではなく、市井の人々の日常を描いた絵で、当時の生活の様子が生き生きと描かれています。

Isack van Ostade

Isack van Ostade(ノートンサイモン美術館蔵)

この2つの絵から分かるように、風俗画というのは、神話の一場面や特定の個人を書いた絵ではなく、人々の暮らしの一瞬を切り取った、いわば写真の様な絵と言えるのです。

 

 ※肖像画の紹介はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

風俗画、オランダで人気を博す

オランダは、1648年にオランダ独立戦争で勝利し、王制が廃止され、市民層が活躍する社会となりました。その為、他のヨーロッパ諸国とは異なり、早くから宗教画や神話画ではなく、市民に光を当てた風俗画が描かれていったのです。

これは、絵画の購入層が王侯貴族ではなく市民に移ったからであり、当時のオランダの民家には必ずと言って良いほど絵画が飾られていたそうです。 この様な経緯があり、オランダ人画家は風俗画で有名な画家が多く、例えばピーター・ブリューゲルやフェルメール はその代表格と言えます。

 

Quiringh Gerritsz.van Brekelenkam

Quiringh Gerritsz.van Brekelenkam(ノートンサイモン美術館蔵)

こちらは1660年にオランダ人画家によって描かれた靴屋さんを主題にした絵画。フランスやスペインなどで王侯貴族の肖像画や神話画、宗教画が描かれた同時期にオランダではリアルな生活の描写が行われ、それが市民層に受け入れられていたのです。

 

知れば100倍面白くなる風俗画の見方

オランダで花開いた風俗画ですが、実は私たち人類にとって一番身近な芸術と言えます。というのも、風俗画は古代より人々によって描かれてきた絵画で、たとえば古代エジプトでは壺などの装飾として人々の暮らしの風景を描いた風俗画が描かれていたのです。

また、私たち日本人にとっても風俗画ととても身近な存在であり、その代表格が人々の生活を描写した浮世絵でした。

 

人々の息吹を感じる風俗画

これまで見てきた通り、風俗画は人々の暮らしに一番近いところにあった芸術です。裏を返せば風俗画を鑑賞することで当時の人々の生活の息吹を感じられるということ。

 

Aelbert Cuyp(ノートンサイモン美術館蔵)

例えば、こちらはオランダ人画家作の牛の乳搾りが主題の絵。1650年に描かれました。この絵に描かれているのは神話でも架空のものでもなく、当時の風景。1650に存在したであろう人々の日常を十二分に感じ取ることができると思います。

 

Willem Reuter(ノートンサイモン美術館蔵)

次の絵はオランダ南部のフランドル地方出身の画家によって1669年に描かれたマーケットの絵。当時の市の様子が細かく描かれ、まるで自分が遠くから市の様子を伺っているような気分になります。

 

風俗画に時代の変遷を見る

風俗画は1600年代からオランダで発展した絵画ですが、1800年代の印象派の台頭により、世界へも広まっていきました。

印象派とはフランスで起こった芸術の革新のこと。これまで主流だったの宗教画や神話画だけを評価するのではなく、自分たちが描きたいものを描くことを目的として芸術に変革をもたらしたのですが、その主題は特に市民生活に目が向けられていました。

 

Edgar Degas

Edgar Degas(オスロ国立美術館)

例えばこちらはドガのバレリーナの日常を切り取った絵。1890年代に描かれました。ドガは一瞬を切り取る画家として知られており、バレエの絵や馬の絵をよく描きました。

ドガが革新的なのは、バレリーナの飾らない日常を描いたところです。これまでは人を描く時にはきっちりとしたポーズをとったモデルをきっちりと描く「肖像画」が普通でしたが、ドガの絵は違います。下の絵のバレリーナはどちらもこちらを向いておらず、飾らない普段の姿で描かれています。

 

 

Pierre-Auguste Renoir(オスロ国立美術館)

次にご紹介するのは入浴後というタイトルの1886年の絵画です。ルノワールが描いた裸婦の絵ですが、以前はタブーとされていた普通の人の裸が描かれています。印象派の台頭までは裸婦の絵は厳禁だった為、画家はこぞって神話を主題に裸の女神様を描いていました。

それがこの様に裸婦の絵を描いても許容される雰囲気に変わっていったのは、時代の主役が王侯貴族から市民階層に移っていったからと言えるでしょう。ルノワールの少し前に活躍したマネは1865年に『オランピア』という作品を発表し、フランス国内で大スキャンダルとなりました。その理由が、「女神様ではない、普通の人の裸を描いたから」です。この動きを見てもマネからルノワールの20年間で人々の意識が大きく変わったということが見て取れます。

ちなみに、オランピアから遡ること65年、1800年にスペイン人画家ゴヤが実在の人物のヌード画を描きました。それが『裸のマハ』と呼ばれる作品。この作品はゴヤが愛した女性の絵だと言われていますが、ゴヤは罪になるのを恐れ、『着衣のマハ』という全く同じ構図の服を着た女性の絵を描き、『裸のマハ』の絵に被せて作品を保管していました。それほどヌード画はタブー中のタブーだったのです。

 

 

Berthe Morisot

Berthe Morisot(ノートンサイモン美術館蔵)

次の絵は印象派のモリゾの作品。モリゾはマネのモデルでもあった女性です。この絵は1874年に描かれた『ある村の海辺』という絵。私がこの絵で面白と感じたところは、この絵が労働をテーマにしていないところ。

これまでの風俗画の主題は初めにご紹介したような農家の絵だったり、靴屋さんの絵だったり、学者だったりと、どの主題も人々が生きるために働いている様子を描いたものでした。

一方でモリゾが描いたのは女性が海辺に座って海を見ている絵です。これが余暇を楽しんでいるのか、ふとした休憩なのかは分かりませんが、この絵を見ると、1800年代後半にはすでに生きるために働く中で、自分の時間を持つことができるようになったのではないかなと、人々の生き方に変化を感じ取ることができます。

 

Vincent Willem van Gogh

Vincent Willem van Gogh(ロダン美術館)

1887年にゴッホが描いたタンギー爺さんは肖像画とも言える絵画ですが、この背景には日本の浮世絵が描かれています。この絵から分かることは、この時代に西洋では日本の絵画が高く評価されていたということ。ジャポニズムとして知られるこの日本芸術のヨーロッパへの影響は、当時の印象画の画家たちに大きなインスピレーションを与えました。

 

※ゴッホを知るならこちら 

たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)

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風俗画はスナップ写真を見るように

描かれた時代の暮らしに目を向けたり、歴史的変遷を考えるのはとても面白いのですが、風俗画の最大の魅力はアルバムや携帯の写真を見るような感覚で絵を楽しむことが出来ること。

以前紹介した肖像画がみんなに見てもらうためのインスタなら、風俗画は家族や個人で楽しむスナップ写真。飾らない人々の暮らしを、アルバムをめくっていくように眺め見ることができる、それが風俗画なのです。

 

Christian Krohg

Christian Krohg(オスロ国立美術館蔵)

1883年に描かれた『母と子』。ノルウェーの画家によって描かれました。赤ちゃんとお母さんが一緒にお昼寝をしているところでしょうか。お母さんの表情は少し疲れているようにも見えますが、赤ちゃんは安心しきっています。

 

Julius Exner(コペンハーゲン国立美術館蔵)

こちらは1859年に描かれたゴンドラ。デンマークの作家の作品です。この絵、一世代前の絵画では考えられないような斬新な構図をしています。

まるで自分もゴンドラに乗船しているかのような。目的地にはいつ着くのかな、と乗客の女性に話しかけたくなる一枚。もし彼女が自分の家族だったら、家でこの絵を見ながら旅の思い出を語り明かすことでしょう。

 

Hans Heyerdahi

Hans Heyerdahi(オスロ国立美術館)

こちらはノルウェーの画家によって1881年に描かれた窓辺。読書の合間の一瞬でしょうか、女性が窓から外を眺めています。小説であれば1800年代初頭に活躍したジェーン・オースティンなどを読んでるのかな?などと想像しながら作品を見るとさらに楽しく鑑賞することができます。このような日常のふとした瞬間を垣間見ることができるのも風俗画の面白いところです。

 

Erik Werenskiold

Erik Werenskiold(オスロ国立美術館)

最後にご紹介するのは『テレマーク郡グヴァルフ村からの風景』という1883年の作品。少女2人が楽しそうにお話しています。視線の先には牧歌的な風景が広がって、ゆったりとした空気がこちらまで伝わってくる作品です。

 

風俗画の前で足を止めてみて

今回は昔の人々の暮らしを垣間見ることのできる絵画、風俗画について「知れば100倍楽しくなる」をテーマに美術館の見方を考えてみました。

美術館へ行った際は是非風俗画の前で昔の人々の暮らしに思いを馳せながら、アルバムをめくるように絵画を楽しんでみてください。

 

※静物画の紹介はこちら

sumikuni.hatenablog.com

 

※絵画を楽しく学ぶならこちら 

運命の絵 (文春文庫)

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