旅先で体験した小さな交流(2)

はじめに

この記事では旅先で体験した現地の人との小さな、そして少し面白くて奇妙な交流について印象に残っているものを幾つかご紹介しています。

最初の2つの例については、旅先で体験した小さな交流(1)をご覧ください。

3.アメリカ合衆国のニューヨークにて

ある日一人でニューヨークのブロンクスにあるニューヨーク植物園を訪れました。

この植物園は、ブロンクス動物園のすぐ北にあり、約1平方kmの広々とした植物園で、ニューヨーカーの緑の憩いの場になっているようです。

園内には、砂漠、湿地帯、北部森林地方など、北米大陸や世界の植物が栽培され展示されています。

中央付近には温室(右の写真は当該園のホームページより引用)があり、熱帯のヤシの林、ジャングル、果樹園、サボテンなどが見られるようになっています。

さて園内の広い芝生の上を歩いていた時のことです。前の方からアメリカ人らしい黒人のご夫婦が歩いて来ました。

お二人はなにやらしきりに言い争いをしていて、少しいやな予感がしましたがそのまま静かに通り過ぎようとしました。

その時突然に、ご主人の方が私に向かって「ニワトリは飛ぶことができますよね!」と聞いてきました。

どうもお二人はニワトリが飛べるかどうかで言い争いをしていたようです。

私はご主人に「はい。飛べます。」と答えてあげました。するとそのご主人は奥さんの方を向いて「ほらご覧、飛べるじゃないか!」と誇らしげに言いました。

すると奥さんは納得がいかないようで、すぐに私のほうに近づいてきて大声で「ニワトリは飛べませんよね!」と強く同意を求めてきました。

困ってしまった私はしかたなく「ニワトリは普通は飛びませんが、驚いたり急に逃げたりする時にはほんの少しだけ飛ぶことができるようですよ。」と詳しく言い直してあげました。これは私の家が昔ニワトリを飼っていたころの記憶に基づいての回答でした。

この答えを聞いたお二人はやかましい口げんかはとりあえずやめて、私とは別れたものの、まだ完全には納得していなかったようで、遠くの方でまたなにやら口論を始めていました。

このような事例は日本ではまず起こりえないことです。

そもそも夫婦の口げんかの内容の是非について通りすがりの見ず知らずの外国人に突然問い合わせるとは非常に驚きでした。

この事例で感心させられたことは、さすがに「人種のるつぼ」と言われているニューヨークの人は、外国人にはまったく抵抗感はなく、さらにアメリカ人気質らしく、とても気楽に自由にだれにでも好きなように声をかけるということです。

このようなアメリカの人々の気楽さ、自由さは、どちらかと言えば遠慮がちで物静かな日本人にはほとんど見られないことです。

ちなみに「ニワトリが飛べるかどうか」の議論はやはり日本でも気になっている人はいるようで検索するとネットで散見することができます。

4.中国の黄山にて

中国・安徽省にある世界遺産の黄山は古くより「黄山を見ずして、山を見たというなかれ」と言われてきたほどの中国有数の美しい山です。

黄山の奇岩・怪石、奇松、雲海を「黄山三奇」と言ったり、これらにさらに温泉と冬雪を加えて「黄山の五絶」と称され、広く人々に親しまれてきました。

以前日本人団体ツアーで初めて黄山を訪れた時、ゆっくりと写真撮影を楽しみたかったので、中国人の現地ガイドさんに許可をもらい団体ツアーから離れて単独一人で黄山の中を歩き回りました。

黄山散策の途中で広い休憩場所に来た時に、私が所属する日本人ツアーグループの皆さんとたまたま出会いました。私は団体ツアーでは行かない少し険しい遊歩道を歩いて(昇り降りして)きたところでした。

その広い休憩場所には、別の中国人ガイドが引き連れた中国人の団体ツアーの人々も休んでいました。

するとその中国人ツアーグループの中国人ガイドさんが突然私のところにやってきて、私がたった今行ってきた遊歩道の様子を教えて欲しいというようなことを言ってきました。そのガイドさんは中国語しか話せないので、中国語初心者の私はよく聞き取れませんでしたがそのような質問だったと思います。

そこで私は近くにあった黄山散策路の案内図のところにそのガイドさんを連れて行って、私が通った遊歩道を指差して示し、そこが歩行(昇り降り)が容易ではない、少し怖い場所だと言うことを何とかたどたどしい中国語で伝えました。

実際にその遊歩道は一部勾配がとんでもなく急な石の階段(手摺なし)が続き、登る時には両手をつきながら這い蹲るようになるし、降る時には、一歩足を踏み外せば一気に深い谷底へ転げ落ちてしまうかと思うくらい怖い場所で、ほとんどの観光客がしばらくの間行くかどうか躊躇していました。

さてそのガイドさんは私が言ったことをだいたい理解できたようですぐに自分の中国人ツアーグループの元へ戻って行きました。

あとで分かったのですが、私たちの現地ガイドさんが中国人の団体ツアーのガイドさんに、私が団体で行く遊歩道とは異なる遊歩道を歩いたということを伝えたことがそもそもの始まりのようでした。

しかし考えて見るとこれは少し奇妙な交流でした。そもそも黄山の遊歩道に詳しいはずの中国人の現地ガイドさんがなぜ日本から初めて黄山に来た私に遊歩道のことを尋ねたのでしょうか。

要するに、中国人の黄山の現地ガイドさんであっても実はあまり黄山のことは詳しくはなかったということでしょうか。

確かに黄山は大人気の観光地で、当時も遊歩道は多くの観光客でかなり込み合う状況でした。そのためにガイドの需要も高く、たとえ黄山にそれほど詳しくなくてもガイドをやっていたということも考えられます。

5.オーストラリアのシドニーにて

オーストラリアに旅行して、シドニーにある世界的に有名な世界遺産オペラハウスの内部の見学をした時の話です。

  

オペラハウス概観(左)とオペラハウス内部のメインホール前の広い場所(右)

当日は中国特別イベントの日だったようで、メインホールでは中国から来た高校生の合唱団が練習をしていたり、メインホール前の広い場所では中国の小学生が書いた書や絵画がずらりと展示されていました。

そのメインホールの前の広い場所の一角で、オペラハウス専門の日本人ガイドさんから私たちのグループが説明を受けていた時のことです。

突然中国人の小学生十数名と引率の女性の先生の一団が現れました。その先生は私たちの日本人ガイドさんに何かしきりに話しかけていました。その中国人の先生は英語があまり上手ではないようで、何を言っているのかが英語が得意な日本人ガイドさんになかなか伝わらなかったようです。

日本人ガイドさんはガイドの時間があまりないことから、少しあせっていたようで、大声で「わかりました! 私たちのグループがここにいたら邪魔なので他のところに移動してくださいということですね!」と英語で答えました。

そしてガイドさんと私たちはすぐにその場を離れようとしました。ところがそのとき急にその中国人の先生が「No! No!」(「違います! 違います!」)と叫びました。

とにかく何がなんだか分からないので私たちは困惑してしまいました。

その時、中国語に多少の心得があったので、私が話しに割って入り、先生に「この作品は彼の作品ですか?」と中国語で聞きました。すると先生は急に笑顔になり「そうです! そうです! 彼の作品です!」と中国語で答えました。

そしてすぐに私に向かって「この場所にこの小学生たちの作品が展示されています。彼らの作品を説明するので皆で聞いて欲しい。」と要望してきました。

なんだそのようなことだったのかと納得しそのことを日本人の皆さんに伝えました。

そこで早速、そこにいた小学生の一人が自分の作品の紹介を始めました。すべて中国語なので私一人で説明を聞くという状況になりました。

私も適当に質問したり、「よい作品ですね!」などと言いました。

とにかく時間があまりなかったので、結局2名の小学生からそれぞれの作品の説明を手短に受けたところで打ち切りとなりました。

最後に先生が私のところに来て「ありがとうございました!」とお礼を言いました。私も作品の説明をしてもらったと言う意味で「ありがとうございました!」と返しました。

この事例では、この中国人の先生の熱意、情熱、積極性、バイタリティに感激しました。自分の生徒たちが努力して書き上げた作品をよりたくさんの人たちに見てもらおうとあらゆるチャンスを利用するという姿勢です。

確かに書道や絵画は言語に関係なくだれにでもある程度は分かるものです。

この先生のようなバイタリティ溢れた、非常に積極的な国民性が、近年の中国の経済発展、大国化に寄与しているのだろうと思いました。

ところで、この件では、突然のことでびっくりしてしまい、また時間があまりなくあせっていたので、結果として私の中国語会話もかなり舌足らずになってしまいました。

小学生の子供たちに対して、もう少し詳しく具体的に作品の講評ができていれば彼らももっと喜んだだろうにと少し後悔をしています。

最後に

この記事では、旅先で体験した現地の人との小さな、そして少し面白くて奇妙な交流について印象に残っているものを5つご紹介しました。

これら5つの事例は、日本に居ると決して遭遇しない出会いだと思われます。外国の人たちの国民性、性格、育った環境、活動パターン、交流の「作法」など日本人とはかなり異なる面があり、それらがこのような面白くて奇妙な交流を生んでいるのでしょう。

いずれにせよ、このような小さな交流は後から思えば皆とても楽しい貴重な思い出になります。海外旅行の醍醐味の一つです。

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