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『第一回 西馬音内』を読む

2019年10月16日 | 雑記帳
 10月最初の週末に、いつものごとく風呂で雑誌をめくっていたら、「西馬音内」という文字が目に飛び込んできた。それは記事そのものでなく、ふだんはあまり気に留めない雑誌広告の中にあった。読んでいた雑誌の発刊元である新潮社のいわゆる文芸誌『新潮』11月号である。連載「ミチノオク」の第一回目とある。


 著者は佐伯一麦。この作家名は知っていたが読んだことはない。しかし羽後町人として西馬音内人としては、読んでみたい。発刊日は7日。その日に家族の用事ついでに立ち寄った大型書店には並んでいなかったし、やはり地方では売れないらしく「取り寄せなら」と店員に言われたので、自前で注文することにした。


 木曜には自宅に届いたがすぐには読めず、結局開いたのは土曜日となった。私小説家による連作短編という形であり、仙台在住の作家が知り合いに勧められ盆踊りを観に来たことが語られる。「ミチノオク」という題と重なるような人の命と生き様への思いが、本来の盆踊りに込められた意味の重さを照らす小品だった。


 本筋とは別に、取り上げられた地元民としては、此処特有の細かい部分に苦笑したり、作家が描けば見慣れた仕草もこんなふうに描写されるんだなと思ったりして楽しめた。最近観光客の足は伸び悩んでいるが、我が町の盆踊りは間違いなく歴史、伝統に裏打ちされた独特の個性を持ち、その価値は揺るぎないと思う。


 7月に知り合いが「盆踊り」のお話を紙芝居風に作るということで、若干お手伝いをした。そこで改めて「踊り手」の存在について考えさせられた。何のために、誰のために踊るのか…これはもう今は踊り手ではない自分だが中学の頃からずっと頭をよぎっていた。この作品は、その核心をまた思い出させてくれた。


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