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桜と絵本と豆乳と

『波』によって波立つ胸

2019年12月07日 | 読書
 新潮社のPR誌を定期購読している。600号を数えたそうだ。同じように毎月届く『ちくま』と較べると、『波』の方は小説に読み応えがある気がする。まあ好みの問題ではあると思うが。さて、「創刊600号記念短編」と銘打って筒井康隆の書き下ろしに冒頭10ページが割かれている。その題名は、「南蛮狭隘族」。


 これは…なんとも理解しがたい話だ。話者が南方での戦死者だろうと想像はつくが、話題が多すぎて相当の知識がないとついていけない。ただ、読み進めると、独特である話の筋の脱線のさせ方が妙に懐かしい。ああ、やっぱりオレは高校の頃ハマっていたんだ。レベルは遠く及ばずとも、思考のズレ方が気持ちいい。


 このブログに何度も感想を書いている『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の単行本はずいぶんと評判らしい。「四冠達成記念」(本屋大賞など)の座談会も記事になっている。毎月最初に読んでいる連載だ。今月号も著者の息子である「ぼく」は、とても興味深い話題を提供してくれた。「社会を信じること」。


 それは10月に東京で起きたことがもとになっている。台風時の避難所でホームレスが追い返された件が英国でも報道されたのだそうだ。「社会」とは何かを考え、どのスケールで物事に対するかが問われる情報世界になっていることは間違いない。我々は多様性の現実を突きつけられた時の行動原理を持ち得ているか。


 はらだみずきという作家の連載小説を通読した。今回が最終回、幼い頃一緒に暮らした祖母が入院し、放置された庭の世話を始めた主人公がその庭とともに再生する話だ。題が「やがて訪れる春のために」。その答は平凡だけれど沁みた。「与えられた場所で、あるものを生かし、できることを工夫し、楽しみながら続けたい。


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