すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

ワルツを聴くように読もう

2020年11月20日 | 読書
 手元に買った本や借りてきた本がなくなり、何かないかと書棚から抜き取った一冊。来月の広報に著者を少し紹介したので改めて短編集を、と思った。読み直すと、収められている三篇の主人公、主要人物がいずれも十代であり、男子、男女、女子の順に並べられていることに気づく。その目線を満遍なく拾う作家だ。


『アーモンド入りのチョコレートのワルツ』(森絵都 角川文庫)


 子どもから少年、少女そして大人へ向かう時期の、心の襞を上手に表現しているなあと改めて感じる。ここで、ふと思い出したのが昨年のある研修会のことだ。会の後半で、グループに分かれそれぞれ持ち寄った絵本を紹介するのだったが、私は、森絵都作の言葉遊び絵本『あいうえおちゃん』について話をした。



 小説家森絵都を知っている人は少なかった。しかしたった一人、その名前を出した瞬間に少し驚きの表情を見せ、語りだした方がいた。「私は中学生のときに森絵都と出会って…もし、出会っていなければ…」といった思いを口にした。絵本の研修とは直接関わらないが、そんなふうに語れることは素晴らしいと感じた。


 一人の作家と出逢い、深くのめり込んでその世界に浸れるような経験は、若い時期ゆえだろう。自分にあるだろうか。高校時代に筒井康隆などを読みこんだが、やはりエンタメ系は消費的だ。学生時代に専攻したなかでは中原中也がある。しかし中途半端だなと思う。かろうじて語れるのは初期のフォークソングか(笑)。


 さて、この文庫解説は角田光代で、冒頭「どうして私が中学生のときに、この作家に会えなかったのか!」と物理的に無理な表現でその素晴らしさを讃えている。ただ、その「不変さ」「やさしさ」に共感できるなら悔やまなくともよいとも記す。題名に喩えてワルツのように軽やかに本に接するだけで、よしとしよう(諦)。


コメントを投稿