『進撃の巨人』(諌山創/別冊少年マガジン)第122話「二千年前の君から」あれこれ考察

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あらすじと、気になった箇所についての考察(というほどのものでもないですが)をまとめてみました。

(注)新参者ですので読込み不足による見落としもあるかと思います。ご指摘いただければ修正いたしますので宜しくお願いいたします。

 

【目次】

 

1 あらすじ

時は2000年の昔。ユミルの部族はエルディアの略奪を受け、奴隷とされていた。

ある日、豚を逃がした罪に問われ、森の中を獣のように弓矢で追い立てられたユミルは、巨大樹の洞の中に溜まった水に落ちる。そのまま沈んでいくユミルだが、そこに潜んでいた奇妙な物体が背中にとりついて…

巨人化の力を得たユミルは土木や開墾に力を発揮し、野蛮な一部族に過ぎなかったエルディアは大きな発展を遂げる。フリッツ王は褒美として自分の子を産ませると宣言し、ユミルはマーレとの戰さに駆り出される合間に、次々と3人の娘を産む。

巨人の絶大な力によってエルディアは更なる強国となる。フリッツ王は、王冠を戴き豪華な衣装を身にまとって、多くの武人の拝謁を受ける身となった。ユミルも3人の娘を連れて立ち会っている。

ところがその場で、一人の男が隠し持った槍で王の暗殺を試みる。ユミルは王を庇って槍を受け、瀕死の状態となる。王はユミルに対し、お前は槍ごときでは死なない、起きて働け、と命ずるが、ユミルは静かに目を閉じた。

王の命令によってユミルの遺体は分割され、3人の娘は母の亡骸を余さず食べることを強制された。そして王は死の床で、娘から孫、さらにその子へと、子々孫々背骨を食わせよと命じる。巨人の力によって永遠にエルディアが世界に君臨し続けるために――それは同時に、ユミルが永遠にこの場に囚われ、孤独な奉仕を続けることでもあった。

しかしエレンはそれを終わらせてやる、力を貸せ、と言う。永久にここにいるか終わらせるかの選択をユミルに委ねるエレン。エレンの言葉によって無表情だったユミルの顔に初めて涙が、悲痛な表情が浮かぶ。

現実世界では、壁が崩れてその中から無数の超大型巨人が姿を現し、切断されたエレンの頭部から、巨人の骨格が現出していた――

 

2 考察など、もろもろ 

(1)「すっげー長い夢」

サブタイトル「二千年前の君から」。第1話「二千年後の君へ」と対になっているもので、第1話でエレンが見て泣いていた「すっげー長い夢」というのがユミルの記憶だったと推察されます(髪が短くなったミカサらしき少女の「いってらっしゃいエレン」とかもあるので、ユミルの記憶以外も含まれているのでしょうが)。「オレをここまで導いたのは」とか「待っていたんだろ」というエレンのセリフからすると、ユミルは2000年間ずっとSOSを(たぶん道を通じて)送り続けていて、2000年後のエレンがそれをキャッチし、なおかつ紆余曲折を経て実際にユミルを解放できるところまで辿り着いた、ということでしょうか。もっとも、エレンはその夢に突き動かされて行動していたわけではなくて、自分と大切な人たちの命と自由を守るためにやってきた結果が、途中からユミルへの道に繋がったわけなのですが。

(2)豚を逃がした?

ユミルは仲間の奴隷たちからよってたかって豚を逃がした犯人にされてしまいます。

え?盗んで食ったとかならまだわかるけど、なんで豚を逃がすの?可哀想だから??濡れ衣???最初読んだとき、かなりの違和感を感じたのですが…

略奪されたユミルの村にしろ略奪者のエルディアにしろ文明レベルはまだかなり低かったようで、世界史にまったく詳しくない私の勝手なイメージで言うと、ローマ帝国を圧迫していたヨーロッパの蛮族みたいな感じ。そんな中で重要な食料である豚を逃がすなんて、人命に関わりますやん…

そして、ユミルを指さす周囲の人々は沈痛な面持ちを浮かべている。豚を逃がすなどという馬鹿なことをしたら、もっと怒りとか嘲りとかを露わにするのじゃないだろうか?誰かをスケープゴートにするにしても、思いやりのある優しいユミルじゃなく、嫌われ者とかつまはじきにされてる奴とかいるだろうによ…

「豚」というのが家畜の豚じゃなく、見せしめに特別酷い扱いを受けている捕虜で、ユミルはその人を逃がしたんじゃないかとも考えたけど、そうだとしたら皆の片目抉るぞと言われたときに、ユミルの方から進んで名乗り出てるだろうしなあ。

あるいは、村人たちが何人もで共謀して豚を隠して食っちゃって、ユミルはその現場を目撃して犯人たちを知っていたのかもしれない。真犯人たちにしてみれば、ダンマリを決め込んでいれば自分たちも片目を抉られるし、誰か他人に罪をなすりつければ真相を知るユミルがそいつを助けようと真実を告白する恐れがある。でも、「いつも他の人を思いやってる優しい」ユミル当人になすりつけたなら…という、ユミルの優しさ(自分のなさ)に付け込んだ冤罪事件だったのかもしれない、と思ってみたり。

(3)お前は自由だ

罪を負わされたユミルは、「お前は自由だ」という王の言葉のもと、森の中を獣のように追い立てられ、矢を射かけられながら彷徨います。主人公エレンをはじめ、2000年後を生きる人々が口にする自由は(私たちのとおそらく同じ)人間の権利としての自由ですが、王の言う「自由」はもちろん違う。

追放されたユミルにあるのは人間ではなく野の獣としての自由。人間社会に何の責任もないけど居場所もない。奴隷としての居場所さえ。結局九死に一生(+巨人の力)を得たユミルは、自由なままではおらず、再び奴隷として社会復帰します。

エレンたち現代人の自由は社会の中での居場所や周囲との人間関係を持っていながら、自分の道を選択し進んでいく自由。居場所や人間関係を自ら捨て去ることはあり得ても、それを選択するのはあくまで自分。現実にそれができているかは別として、そういう思想が浸透しているのは、2000年の間に人類もそれなりに進歩したということなのでしょう。

(4)謎の物体

溺死寸前のユミルの背後に近づく謎の物体。見た感じ、ユミルのうなじから腰くらいまでの長さの本体から、両側に何列もの細い線が出ている。本体の端は少し丸みがあって巨大な虫の頭のようにも、球根から根っこが出ているようにも見える。そして伸びた横線が本体に向かって丸く曲がれば、背骨と肋骨のような形になるかもしれない。こいつが何物で、どこから来て、何を目的としているのか(これ自体は繁殖もしてないし…)はわかりませんが、いずれにしてもこれに取りつかれたことが巨人化の原因であることは間違いなさそう。

作中に登場する伝説に惑わされて、精神世界で問答があってユミルが巨人化を進んで受け入れた…みたいなイメージを持って読んで来ていたので、ここは驚きの展開でした。契約とか取引とか、ユミルの自由意志が働く場面はここにもなかったのね。

しかしこれ、形や性質が似てるというわけじゃないけど、この「謎の生命体」、『寄生獣』感アリアリ(笑)

(5)フリッツ王とユミル

ユミルの力によってエルディアが発展していくさまが、裁判や謁見の時の様子の変化に如実に表れていて、そのいかにも~な成り上がりぶりがちょっと笑えます。というのは置いといて。

最後の謁見の場面で、ユミルと娘たちは同席は許されているし、それなりの服装にもなっているので待遇は改善されているようですが、謁見の場にやってくる時の様子を見るとフリッツ王と同居はしてなさそうだし、王は王で娘だか妻妾だかわからない女たちに親し気に身支度してもらっているし、ユミルと王とは仲睦まじいとは言えない関係です。

それでもユミルは暗殺者からフリッツを庇って槍を受け、瀕死の重傷を負います。しかしフリッツ王は最後まで愛情や悲しみをあらわすことなく、奴隷としてのユミルに命令するだけ。ユミルは絶望のうちに瞳を閉じます。

傍から見ると、よく怖がらずに巨人女と子供作れるな~とフリッツにあきれもするし、そんな暴君毒夫、なんで巨人化して踏みつぶしちまわないんだ!なんでそんなに尽くすんだ!?とユミルの肩を掴んで揺さぶってやりたくなるわけですが…

フリッツ王からすれば巨人化能力を得たユミルはゴーレムとか巨大ロボットとか、自分の意のままになる道具の延長線上にあるものだったんでしょう。だから物理的にどんなに強力でも自分に刃向かってくる怖さはない。勝手に動いちゃう巨大ロボットも結構あるけど…人間の姿形を持ち、意思の疎通もできる相手をそういうふうに思えるというのは、想像力とか共感力が欠如しているということであり、悪い意味で豪傑だった、ということでしょうか。

ユミルの方はと言えば、幼い頃から被征服民で奴隷だし、奴隷仲間の中でも親兄弟など愛し庇ってくれる人はいなかったように見える。そんな中で彼女が生きていくには、他人の命令に従い、他人の役にたつことで居場所を認めてもらうしかなかった。強大な巨人の力を得ても、他人の命令によって他人のためにその力を使い続けた。それはユミルが選んだことではなく、自分の意思で自分のために使うという発想を知らなかったから(これって、『動物のお医者さん』のラジカセ犬パフをちょっと思い出してしまうな…傍で見ていて無知を笑うのは簡単だけど、それまでの教育や経験を独力で乗り越えるのはとても難しいことなのだ。)。

自ら槍を受けたとき、彼女にはフリッツ王への愛ももしかしたらあったかもしれないけれど、一番強かったのは褒められたい惜しまれたい愛されたいという気持ちではないかと思います。2000年後のそばかすユミルがクリスタ(ヒストリア)に指摘した、「どうやって死んだら褒めてもらえるのかばっかり」に近い心情。

(6)力の継承

フリッツ王はユミルの遺体を分割し、マリア・ローゼ・シーナ(この順番からするとマリアが長姉でシーナが末妹らしい)の3姉妹に食らわせます。ユミルが力を得たときの経緯をフリッツに報告していたので、フリッツも巨人の力の源が背骨にあることを知っていたのでしょう(念のためか全身を余さず食わせていましたが、死の床では子孫に背骨を食わせろと言っている)。

これで巨人の力は3分割されたわけですが、現代に残る巨人は9体。現代の継承は1対1で、分割されることはありませんが、3姉妹の次の代くらいまでは分割継承されていたようです。

しかしおそらく、3姉妹に継承された力のそれぞれはユミルの力に劣り、さらに3姉妹の子らの代への継承では更に力が劣ったり、何かに特化した偏った能力しか持たない巨人となってしまったのでしょう。領地の拡大はないのに分割相続を続けてじり貧になっていった鎌倉武士みたいな感じです。

このまま分割を続ければ個々の巨人の力の絶対性が失われる一方で、中途半端に力を持つ分家筋が林立する。継承者の生命力が13年ほどしか保たないことも経験則的に明らかになっていたかもしれません。

そこでユミルの孫の代辺りで分割は打ち止めになり、巨人の数は9体のまま、現在に至ったと考えられます。

(7)ユミルの民と非ユミル系エルディア人

巨人化能力を持つ大陸のエルディア人、そしてパラディ島の壁内人類の多くはユミルとフリッツ王の間の3姉妹の血を引いていて、これが即ちユミルの民です。エルディア帝国は初代フリッツ王の後も拡大政策を続け、他民族を征服・混血によって血筋も拡がっていった、ということになっています。どこまで本当かはわかりませんが。

エルディア人と他民族の子が皆エルディア人になる、というのは遺伝的にはちょっと奇妙な感じで、混血を繰り返すうちに血も薄れていくのでは?と疑問だったのですが、普通の遺伝ではなく、生殖時に遺伝子がユミルの力によって書き換えられているとしたら、ユミルの血を少しでも引いていればユミルの民、ということになるのもわかる気がする。

それと、これまでどうもしっくりこなかった、パラディ王政の中心にいた巨人化能力がなく記憶の改竄も受けない貴族たちの存在。なんでそんな人たちがエルディア帝国で権力を持てて、わざわざカールと一緒にパラディに逃げ込んで来るほど一蓮托生になったのか?が不思議だったのですが、今回の話でようやくちょっと腑に落ちたました。

おそらく彼らはユミル腹以外のエルディアの王族や重臣などで、フリッツ王と一緒になってユミルを支配していた側の人間。だからユミルや3姉妹、そしてその末裔は化物の奴隷の血筋と蔑み、祭り上げて力を利用するけれど、通婚はせずに純血を保った。巨人大戦で王家や側近である自分らの立場が危うくなると、大陸に残って迫害を受けるよりは島に退避してこれまで通りの特権に与ることにした…というところか。だとしても、エルディア帝国時代の歴代王様のうち誰かひとりくらい、記憶の改竄ができない邪魔で危険な連中を葬ろうと決意して実行してもよさそうなものだ、という疑問は残るけど…

(8)口説くエレン、命ずるジーク

ユミルの悲惨な過去を見て、終わらせてやる、力を貸せ、と鬼のような形相でいうエレン。この世を終わらせてやる、というエレンの言葉は、その直前のフリッツ王の「我が世が尽きぬ限り永遠に」という台詞を受けたもので、文字通り現実世界を完全破壊する、という意味ではなく、フリッツ王が望んだ世界、即ち巨人が支配する世界、ユミルが巨人を作り続けなければならない世界を終わらせる、ということだと思いますが(それに伴う現実世界での破壊ももちろんあり得る)、ビビりまくったジークは自分の命令を実行するようユミルに再度命じます。この辺りのヘナチョコぶりはちょっと可哀想なくらい。それなりに辛く苦しい人生を歩み、修羅場を潜ってきたジークですが、エレンの真意を読み違えたように、自分の思い込みしか見えなくて、人の気持ちへの想像力に欠けてしまうところがあるようです(若かりし頃の父さん似)。

一方のエレンは言葉にあらわれないユミルの辛さに共感し、尚且つ選択はユミル自身に委ねます。強大な力を持ちながら、自分だけでは踏み出せなかったユミルの呪縛を解くことば。2000年前から待ち続けた言葉をもらったユミルが浮かべたのは初めての涙、そして悲痛と怒りがないまぜになった何とも言えない表情。美しいとか可愛いとかは、ちょっと言い難いものです。

ジークは神の如き奴隷に王として命じましたが、エレンはユミルをただの人間に戻したのでした。

(9)現実世界

もう何をやってたんだか忘れそうになっていますが、まさかここで壁の下敷きとか大型巨人に踏まれて死ぬ人はいないよね?

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