スウィーテスト多忙な日々

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剛のこと


いつか誰かが言っていた。
「ジャニーズの男の子たちは成長を止める薬を打たれている」
確かに言われてみれば、嵐もキンキキッズも、世界の木村も身長が低い。
一体どうしてそんなことをするんだろう、と問うと、
ジャニー喜多川の趣味さ」
とその誰かは教えてくれた。それがかれこれ十五年以上も前のやりとりになる。


 目の前でしとしとと涙を垂れる草彅の姿を見て、そのことを思い出した。
 涙の数だけ強くなれるよ とはいうものの、その涙はあまりにも悲哀を帯びているように思える。声を掛けるわけにも、立ち去るわけにもいかず、私はその場で立ち尽くしている。時刻は深夜四時頃。いや、早朝というべきか。それとももっと他に最適な言葉があるんだろうか。
 このような場面に遭遇すると、期待してはいけないがついついあの画像を思い出してしまって、口元が緩みそうになる。

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 そうだ。
 ポケットティッシュを持っていたことを思い出して、鞄を胸に回し、ポケットを探る。あった。
「あの、どうぞ」
 差し出すと草彅は、目の前に差し出されたポケットティッシュをしばらく見つめていた。アイスクリームを掬うスプーンでこそいだように、頬がげっそりとしている。
「何か……何かありましたか? どうしました?」
 ティッシュを受け取ってもらったタイミングで聞いた。答えてもらわなくてもいい。だけど、聞く準備はできている。
 草彅はポツリと言った。
「わからないんだ」
 電気が走った。物心ついた頃から見ていた彼に、未だにわからないことがあって、そのせいでこんな時間に泣いているのか。わからないんだ。わからないんだ。一度口に出してしまうと止まらなくなって、草彅はわからないと繰り返した。


「話を聞かせてもらえませんか?」
 そう言って、私は草彅の隣に座り込んだ。そのまま座るのは少し気がひけるので、草彅の横に落ちているデニムジャケットを下に敷いた。
 見ず知らずの私に、草彅は何から何まで話してくれた。芸能界の話、元メンバーの話、現メンバーの話、達也の話……。
 色々な話を聞いた。僭越ながら、少しだけ私も自分の話をしたり、草彅にアドバイスをした。空が白む頃には毒気も少し抜けたようで、草彅の顔は心なしか軽くなって見えた。よかった。


「あの」好奇心が勝って、つい口走る「満足しましたか?」
 すると、草彅はロボットのようにスッと立ち上がった。そして、おもむろに踊りだした。
「まんっ まんっ 満足ぅ 一本満足ぅ まんっ まんっ 満足ぅ 一本満足ぅ……」
 やめておけばよかったと心から後悔した。
 滑稽だ。私はひどく悲しくなって、涙を一筋流してしまった。草彅はチラリとこちらに目をやったが、それでもまだ踊り続けていた。
 薬って一体なんなんだろう。朝露で、尻に敷いたジャケットが濡れていた。

 

 

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