糖尿病医療学[2]

傾聴と共感,たしかにそれは大事ですが

[糖尿病医療学]=「糖尿病発症により,不安・抑うつ・後悔にさいなまれている患者の心のケアをすること」

ととらえられることが多いです.医師であっても,そう思っている人は多いようです.実際2014年の第57回日本糖尿病学会では,そのものずばりと【糖尿病患者のこころを支える】と銘打って,患者のメンタルケアに関するシンポジウムが行われました(シンポジウム4).

たしかに これはこれで重要なことで,無味乾燥な 検査+投薬だけの『機械的糖尿病治療』よりは,はるかに患者に寄り添ってはいるものの,ただ その前提が「患者をどう救うか」「患者の訴えを傾聴し,穏やかに同調してあげる心理学的ケアが必要だ」という構図です. そこでは患者には特に主体性を求めていません.主体性を求めていないという点では,やはり『お医者様と患者』という上下関係の基本構図を前提としています.

(C) すずしろ さん

医師も感じている

しかし,医師の側でも 現在の糖尿病医療はこれでいいのだろうかと考えていることも事実です.

若い頃 大学病院に所属してあちこちの病院に出張していたころは自信に満ちていた.患者のインスリン分泌能・インスリン抵抗性・血糖パターンなどを調べて,それに見合った適切な薬剤を選択しさえすれば血糖コントロールなんてそれほど難しいことではない. 退院するときにはベストコントロールにして帰すことはできた.「自分が診ていれば悪くならない」と思っていた. 思えばとんでもなく不遜であった.
ところが病院に着任して同じ患者をじっくり診療するようになると,なかなか一筋縄ではいかないことに気がつくようになった.最初はあんなにいいコントロールにしたはずなのに,半年もすると少しずつ血糖が上がりはじめ いつの間にか薬が増えている.
どうしてなのか不思議に思いながら患者教育を繰り返しても「わかっているんですが,つい…」とか「今後は気をつけます」という言葉がかえってくるだけで実際にはほとんど改善しない.

長岡中央綜合病院 糖尿病センター 八幡和明
第55回 日本糖尿病学会 年次学術集会 シンポジウム 14-1 (2012年)

私のことを知っていますか?

Do You Know Me? – Jack Nicklaus編
(C) American Express Company

では,医師と患者はどうすればいいのでしょうか. 医師も患者も悩んでいるだけでは 話は進みません.

[3]に続く

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