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環境学者・地理学者 Jimmy Laai Jeun Ming(本名:一ノ瀬俊明)のエッセイ

大学における大気科学実習教材の研究 ~環境工学の立場から~

2020-05-13 00:19:48 | 日記
博士研究でかなり前進したこの年ではあったが、やはりかなり生意気なことをやっていた。自分なりの理想的な教育像を必死で追及していた痕跡。
一ノ瀬ら:(1994)日本気象学会大会,福岡,平成6年秋季;(同講演予稿集,66,41-41)
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大学における大気科学実習教材の研究 ~環境工学の立場から~
*一ノ瀬俊明・花木啓祐(東大・先端科学技術研究センター)・松尾友矩(東大・工)
 環境工学の分野のうち,水質では実験等を通じて教材の蓄積がなされているが,数値シミュレーションが中心となる大気では,パソコンの性能等の制約もあり,体系化された演習教材がほとんど存在しない。これは環境工学のみならず大気科学全般に言える。パソコン上の表計算ソフトからワークステーションまでを課題の難易度や当該機種特有の性能に応じて駆使し,先駆的に行われた学部演習について報告する。
 東京大学工学部都市工学科都市環境工学コース(約20名)では,3学年夏学期において都市工学演習B第1を必修としており,そのうちの3分の1が課題C「大気環境評価,予測」である。今年度は6月21日から7月19日までの5日間(午後3時間)を充てている。教材の概略を以下に示す。
 
課題C-1(1):Bubbleモデルを用いた発生源周辺の大気汚染濃度予測(準定常モデル・瞬間点源)
 一様かつ定常な風系場では,数値計算によらずとも解析的に濃度分布を求めることができる。以下に示すそれぞれのケースについて,X(排出点からの風下距離)を横軸,T(排出からの経過時間)を縦軸とした濃度の等値線図(Isopleth)を作成しなさい。
 排出量100m3,分子拡散係数0.1m2/s,Y=0m(風下軸上),Z=0m(着地濃度)の条件下で,排出高0m,10m,20m,50m,100mの5ケース
 但し等方的な拡散とし,タイムステップは1minとしなさい。高煙突の効果は着地濃度にどうあらわれるか。
課題C-1(2):Plumeモデルを用いた発生源周辺の大気汚染濃度予測(定常モデル・連続点源)
 パスキルの安定度A,B,C,D,E,Fの6ケースそれぞれのIsopleth(X-Z)を作成しなさい。
1)風下軸上の濃度(Y=0m)
2)風下軸から50m離れたところの濃度(Y=50m)
 そのほか排出量,風速,煙突高,拡散係数をパラメーターとして振ってみてもよい。
課題C-2:重ね合わせの原理を用いた大気汚染濃度予測(省略)
課題C-3:ヒートアイランドの数値シミュレーション(教育用計算機センター集合)
 NIES-MM Ver.2.0.2 は環境庁国立環境研究所がSystem Application International Mesoscale Model (SAIMM) Ver.2.0 (Kessler and Douglas, 1992) を改良した局地風モデルである。地表面の粗度や地表面物性の地域分布が取り込めるように改良されている。モデルのフレームは,東西150kmのXZ断面(x:30, y:3, z:23, soil:11の層に分割)で,西から50kmが海,東から50kmが山,中央の50kmが平野である。都市の位置,規模,季節(気象条件)等をファクターとして比較を行うことができる。X軸の解像度は5km,時間の刻み幅は30secである。
(1)都市の規模による比較
(2)都市の立地による比較
(3)気象条件(季節)による比較
(4)都市の緯度による比較
課題C-4:2次元非定常モデルによる大気汚染現象の広域化シミュレーション(教育用計算機センター集合)
 次に示す感度解析を行い,Isopleth(X-T)を作成しなさい。排出は1点のみから行う。境界条件として濃度0ppbの吸収壁,初期条件としてバックグラウンド濃度0ppbを仮定し,メッシュサイズ5000m×5000m,タイムステップ300secとする。
1)DT=60,120,300,600,1200 (sec) の5ケース
2)DXのみ=500,1000,2000,5000,10000 (m) の5ケース(但し風向はXY軸に対し45度)
3)境界条件として,濃度0ppbの吸収壁,濃度20ppbの発生壁の2ケース
4)排出点での濃度が100ppbを越えたときに排出量を以下の値へ落とす操作を行った場合
 0,2000,5000(現状)(Nm3/h) の3ケース
 
 今回大気汚染をテーマにこのような演習課題を準備・実施したが,コンピューター教育や応用数学・応用物理学のカリキュラムの不備により実際は容易ではなかった。また国内の数大学の大気科学関連学科(気象,気候,地理,土木,建築,環境科学,林学,農学等)に対し,そこで実施されている演習課題のサンプリングを兼ねたアンケートを実施したが,回答は思わしくなく,実際そのようなものはほとんど存在していないという事実が明らかになった。このことからもこの分野における教材の作成がいかに難しいかがわかるだろう。教育の現場で汎用されうる大気科学ワークブックの登場を願ってやまない。
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1 コメント

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Unknown (本人)
2020-05-13 01:40:44
Mein Vorlesungen in der Uni. Tokio (1994) "Luftreinhaltung und Stadtklima"

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