新型コロナウイルス対策-Imperial College London論文

医学で世界トップに位置する英国のImperial College Londonが2020年3月16日に発表した論文が、主要国の政策に影響を与えています。ワクチンや医薬がない前提での影響をシミュレーションしたものです。

日本の報道では封じ込め(Suppression:下記日本語要約では「抑制」と表現)についての議論が活発に行われていますが、ここでは緩和(Mitigation)という考え方が示されています。有効なワクチンがない中で、ワクチンが開発されるまでの間(18ヶ月といわれている)封じ込めを継続することは経済活動への影響を考えれば現実的ではなく、仮に、数ヶ月間の封じ込めに成功したとしても、封じ込めを解除した瞬間に大規模な感染が始まって、封じ込め効果が無に帰するというシミュレーション結果を示しています。そこで、コントロールしつつ徐々に感染者を増やして、広くウイルスに対する免疫力を高めるという緩和政策が検討されているのですが、そこでは医療崩壊やかなりの死亡者数を覚悟せねばならないと示唆されました。

緩和政策でも数ヶ月の期間は重篤患者を十分にケアすることができないことが示唆された緩和政策シミュレーション。(Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand. 16 March 2020 – Imperial College London‌ )

ワクチンが広く行きわたるまで、封じ込めが長期に亘り可能であれば、死亡者を抑え込むにはそれが最も有効です。緩和政策は、封じ込めに比べれば医療崩壊や死亡者増加を容認することになります。わかりやすいシミュレーションを示して、政治に対して具体的な選択を促したこの論文はとても意義深いと感じます。

現実的には、この論文で前提としていないワクチンや代替医薬の投入などを組み合わせた緩和政策を模索することになると思います。

COVID-19の世界的な影響は大きく、これによる公衆衛生上の脅威は、1918年のH1N1インフルエンザパンデミック以来、呼吸器ウイルスでは最も深刻なものです。ここでは、過去数週間に英国およびその他の国における政策決定に情報を提供した疫学的モデリングの結果を示します。COVID-19ワクチンがない中で、人々の接触機会を減らすことでウイルスの伝播を抑制することを目的とした、多くの公衆衛生対策(いわゆる非薬物的介入)の潜在的な役割を評価します。 ここに示す結果では、以前発表されたマイクロシミュレーションモデルを2か国(英国と米国―特に英国)に適用します。隔離状態でのいずれか1つの介入の効果には限度がある可能性が高く、複数の介入を組み合わせて感染拡大に実質的な影響を与える必要があるという結論に至ります。

次の2つの基本的対策が実行可能です:(a) 緩和:感染拡大を必ずしも停止させないが、遅らせることに焦点を当て、ピーク時の医療需要を低減すると同時に、重篤な疾患のリスクが最も高い人々を感染から保護する。 (b) 抑制:感染拡大を縮小することを目的とし、感染者数を減少させ、その状況を無期限に維持する。それぞれの対策には大きな課題があります。最適な緩和対策(感染疑いのある人の自宅隔離、感染疑いのある人と同世帯の人の自宅隔離、重篤な疾患のリスクが最も高い高齢者などとの社会的距離の確保の組み合わせ)は、ピーク時の医療需要を2/3に低減し、また死亡率を半減すると考えられます。しかし、感染症流行の緩和の結果として、死亡者が数十万人に上り、医療機関(特に集中治療室)の負担が何倍にも増える可能性があります。 これを達成できる国にとっては、抑制対策が優先対策オプションとなります。

Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand. 16 March 2020 – Imperial College London‌
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