Rainy Soul ~イギリス研究留学してました~

研究者がアカデミックなことなどを中心に徒然なるままに書いています。イギリスに研究留学していた際の情報も載せています。

PCR検査の意味を正しく理解するために

2020-03-09 | daily
※私自身は医学が専門ではない単なる一人の生物学者です。植物のウイルスをPCRで検出したりin situハイブリダイゼーションで検出した経験はあります。


最近はコロナウイルスが世界的に蔓延してきました。
日本でもPCR検査が注目を集めるようになってきましたが、ネットニュースではあまり正しいことが書いてなくて(嘘が書いてるわけでもないです。ただ書かれていないだけです。)、批判ばかりが書いてあるので何かの役に立てばと思い少し記しておきます。

PCR検査は要はサンプルの中に該当する遺伝子配列が存在するか否か、あるいはどの程度存在するのかを調査する技術です。大学で生物学を習ったことがあれば、耳にしたり実際にやったことがある人も多いかと思います。コロナウイルスはRNAウイルスだそうですので、実際にはone-step qRT-PCRで検出し、Ct値が40(つまりPCRで40サイクル)までに検出できるかどうかで見ているみたいです。

ここで『陽性』と『陰性』という二つのキーワードが出てくるのですが、この言葉が正しく理解されていない印象です。
『陽性』とは『サンプルの中に該当の遺伝子配列が一定以上存在した』ことで、つまりサンプルの中にコロナウイルスが存在したということになり、『コロナウイルスに感染している状態』と言い換えても差し支えないと思います。実験の実施手法に問題なければ99%以上の精度で結果は正しいと思います。

問題は『陰性』の方で、『サンプルの中に該当の遺伝子配列が存在しない、または一定以下である』ということです。PCRの原理上微量に存在している程度では検出することができません。そしてこれはあくまでも『サンプルの中に』です。ウイルスというのは生体内で均一に分布しているわけではありません。また時間とともにウイルスが多く存在している部位も変わっていると思います。なので『陰性』≠『非感染』です。実際に非感染かもしれませんし、たまたまサンプルを採取した部位にウイルスがいなかっただけかもしれません。感染しているかどうかは人体のあらゆる組織を調べる必要がありますが、それは現実的には不可能ですので、PCRで感染していないことを確認するのは不可能です。『陰性』だったのに『再陽性』になったというのは、『陰性』だった時にはたまたまそのサンプルを採取した場所(鼻・喉)にウイルスがいなかっただけの可能性が高いでしょう。

まとめると
『陽性=感染している』
『陰性=採取したサンプルにウイルスはいないだけ=その人が感染しているかどうかは不明』
が正しい理解です。

おそらく多くの人達は、PCR検査によって自分がコロナウイルスに感染していないことを確認して安心したいのかなと思いますが、PCR検査では感染を確定できるだけで非感染は確認できないので、そういう目的に対しては無意味です。
感染している人を炙り出すという意味では有効かもしれません。無症状で感染している人がかなり多い可能性がありますので。

科学リテラシーの向上に少しでも役に立てれば幸いです。


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