人の金で美術館に行きたい+読

美術館に行った話とか猫の話とかします。美術館に呼んでほしい。あと濫読の記録。




にほんブログ村 美術ブログ 美術鑑賞・評論へ
Push
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
Push

Push

Push

違うならなんなん this is not samurai 8/23

ポーラミュージアムアネックスに野口哲哉の「this is not a samurai」を見に行ってきました。

www.po-holdings.co.jp

野口哲哉さんは現代の芸術家です。Twitterで話題になった猫侍、「着甲武人猫散歩逍遥図」の人といえば思い出す人も多いかもしれない

リアル猫侍とネット騒然の「よろいを着た猫を散歩させる猫耳の武士」、実は現代アートだった なぜ生まれたのか作者に聞いた - ねとらぼ

今回の展示はそれぞれの作品に作者による解説がついていたりするのですが、それはまあいった人の特典だろなということで紹介なし。

最近そういうのも考えてしまうよ。

---

Talking Head

f:id:minnagi:20220902223048j:image

ラノベファンタジーみたいな作品。魂の宿った口煩い兜に導かれて戦場で出世していく若侍(ラッキースケベあり)みたいな。

強い感情の表情豊かな兜と、ぼんやりと腑抜けた青年の落差が面白いです。

とあうか、入ってすぐ一番入り口に近い作品がこれなので「なにこれめっちゃ上手くない??!!」ってビビるマジで。

---

BIAS

f:id:minnagi:20220902223045j:image

恐ろしいほど立派な兜を被った侍が、何かに怯えるようにうずくまる。巨大すぎる兜の角は侍に向かって突き刺すようでもあり、なにかを唆しているようでもあり。両側から攻め立てらられて身動きが取れなくなってしまったかのようだ。

---

Clumsy heart

f:id:minnagi:20220902223042j:image

不器用なハート、という題。侍が口紅で落書きしてるなんてまるでバンクシーだ。

職業戦士とハートなんてミスマッチなはずだけれども妙にしっくり来ているのはユーモラスなしぐさのせいだろうか。

 

どれも、いわゆる”侍”とは程遠い人物像ばかりだ。展示タイトルのごとく、「これは侍ではない」。侍はこんなことしない。

ただの普通の、なんなら普通よりもっとしょうもない器の小さい人たちの姿だ。

だからこそ圧倒的なリアリティー、存在感をもっている。リアルな人形というよりも小さな人間としか認識できない。ものすごく奇妙な空間だ。

---

THE MET 

f:id:minnagi:20220902223051j:image

この作品がすごくすき。メトロポリタン美術館でお土産物を爆買いした侍。

いや、おまえ展示される側じゃないんかい!と。

頬当で表情が見えないところ、ちょっと振り向いた猫背、全部がすごくいい。

五月人形としてほしいなぁ。

---

めちゃくちゃいい展示でした。これが無料なんてお得にもほどがある。

もうすぐ終わってしまうから、絶対見に行くべきだよ。

へんてこりんこりん 特別展アリス

特別展アリスに行ってきました。

alice.exhibit.jp

去年、イギリスのV&A美術館で開催されていた展示の巡回展です。
ツイッターで現地のレポを見ていてすっごくうらやましかったのですが、ついに日本にやってきた!というので楽しみにしていたんですが……開催が森美術館ということで、どうにもこことは趣味が合わなくて不安だったんですが……
やっぱり森美術館とは気が合わないなぁ!という結論になりました。あーあ。
森美術館と合わないのか、V&Aの時点で好みではなかったのか。

 

まず、写真撮影についてなんですが、「撮影可能だが、著作権保護のために接写禁止」でした。まあ確かに納得できるルールだね。
「撮影するには接写しないように3点以上を同一画面に入れる事」とあるけど「その際撮影禁止作品は含まないこと」という当然のルールと両立させるのが結構難しくて。

どうせ図録買うからいいやとほとんど撮影せずに見てきました。
なので図録の写真を出すのもアウトだろうなーということで今回は会場で撮ったものそのまんまで。人が映り込まない写真も難しかったので雰囲気だけね。

 

順路を示すマークがウサギの足跡になってるけど写真を撮り忘れた愚かさ

f:id:minnagi:20220823114451j:image

 

涙の海から長い尾はなしくらいまでのインスタレーション動画
f:id:minnagi:20220823114448j:image

ダリの描くアリス
f:id:minnagi:20220823114454j:image

テニエルの原画や校正刷、キャロルやテニエルの細かい指示書なんか見れて楽しかった。

反面、楽しみにしてた新規インスタレーションは森ビルの出してる広告がほぼ全てでもう少しサプライズくれよと思った。

現代作家によるアリス解釈は、特に登場人物全てを黒人で表現した写真はパワフルで素晴らしいと思ったけど、舞台等の衣装展示はごちゃごちゃ押し込まれてて見辛く残念だった。

あんまり個々の展示物についてどうこうというより展示全体の感想になっちゃうけどそんな感じかなー。

惜しい展示であった。

 

あと、来てる人がほぼ10代後半〜20代前半女性だったよ。オバさんは俺だけであった!

印象派

もう一つアーティゾン。

www.artizon.museum

印象派の展示と、所蔵品展です。
印象派多いよね~人気だもんね~

---

ポール・セザンヌ「鉢と牛乳入れ」

f:id:minnagi:20211122140343j:image

セザンヌはとても好きなんだけれど、見ていてなんだか不安になる作品。だって明らかに歪んでるじゃないですか。
牛乳入れは上部は円形なのに下のほうは三角みたいな、まるでスカイツリーのような形をしている。
鉢は手前側にお辞儀をしているかのようにひしゃげている。
わざとやっているのか?失敗したのか?キュビズム的な奴なのか?それとももしかして本当にこういう形をした安物の器なのか???
なんか気になってずっと見てしまいます。
牛乳入れの左上部の緑色と、何ともつかない幾何学的な背景が好き。

 

---

クロード・モネ「霧のテムズ川

f:id:minnagi:20211122140332j:image

これは、すごくいいですねぇ。
単純にめちゃくちゃ美しいです。この色がいい。
霧がかった中で朝日を受けて輝く水面。ぼんやりと見える船や時計台。
本当にこういう風に見えるんだろうなあっていう感じ。
中央だけ描かれてぐるりがぼかされているのも、挿絵のようで素敵です。
こういう美しい炉で曖昧模糊としたものを部屋に飾りたいなぁと思う。
ぎっちり描かれた具象画や現代ものの抽象画では圧が強すぎるから。

---

アンリ・ルソー「牧場」

f:id:minnagi:20211122140338j:image

ルソーのきっちりした絵が好き。
この葉っぱがめちゃくちゃ丁寧に一つ一つ描かれているところとか、まじめに真剣に描こうとしているんだなあって感じがするから。子供の頃写生とかさせられて、これはどこまで描けばいいんだろうって途方に暮れたあの感じを思いだすから。
明るくて気持ちのいい空、遠景の樹木と中景の茂みのリズムが呼応するところとかとてもいい構図だと思います。なんだか絵本のような世界観。

---

ジョルジュ・マチュー「10番街」

f:id:minnagi:20211122140340j:image

こちらは印象派展ではなく所蔵品展から。
とにかくエネルギー!って感じの絵。好きだけど寝室には置きたくない感じw
こういうのを見ていつも思うのが、私にはこの絵は理解しきれないんだなぁということです。
だって私は「10番街」を知らないから。この絵が描かれた当時の、エネルギーにあふれ、たぶん暴力的で、それ以上に魅力的な街を知らない。おそらくは賑やかな、いろんな音の洪水であふれたこの町のことを知っていたら、どんなにこの絵がもっと好きになるのだろうかと思うとちょっと悲しくなる。
いいなぁ、アメリカ文化。
もちろん日本の文化芸術に対してアメリカ人も同じことを思うんだろうけれどね。

---

藤田嗣治「猫のいる静物

f:id:minnagi:20211122140335j:image

藤田、嫌いなんです。特にパリにわたってからの美人画が嫌い。もうこれは好き嫌いの問題だから許してほしい。

でもこれは遠めに見て「あっ、好き」って思っちゃった。思っちゃったんだよ。
そんで近づいていくにつれて「フジタじゃん!好きって思っちゃった、悔しい!!」ってなったwわかるだろうかこの感覚……してやられた感じ……
嫌いを押しのけてやってくる魅力。負けました。
構図がいいですよね。静物をどんと描くのではなく、大胆に空間を開けて、鳥を飛ばして。隅っこにいる猫を表題として。
静物ものっぺりとした台の上に妙な立体感のある食材が並んでいるのが気持ち悪くて美しい。変な緊張感のある絵です。
この絵は好き。フジタは嫌い。でもこういう絵をいっぱい見ていたらそのうちフジタのことも好きになてしまうのかもしれない……くやしい。

---

相変わらずめちゃくちゃボリュームがあってよかったです。
特に印象派のコーナーが「画家たちの友情物語」というタイトル通り、仲の良い人たちをまとめて展示してあるから、「ああこの木はいつもあの人が描いている木だなぁ。一緒に描いたりしてたんだな。この人が描くとこうなるのか」ってのが見れたりして楽しかった。

 

そして相変わらず1階のカフェはおいしかった。

 

なんだか悪酔いする M式「海の幸」 11/18

アーティゾン美術館に行ってきた。

www.artizon.museum

アーティゾン所蔵の作品と、現代の美術家とのコラボ企画です。
今回は明治時代の洋画の巨匠青木繁の作品に対して森村泰昌がコメントをつけたり、作品の登場人物に扮して写真を撮ったり、それを展開したり、解説動画を作ったりという「俺が俺が」企画。
とにかくあっちを見てもこっちを見てもおじさんの顔なので、圧がすごい。

---

森村泰昌「風景画」

f:id:minnagi:20211122140305j:image下2枚の青木繁の作品に対して、もし村が上の文章を寄せています。
何組かの作品に対してこういう形式で解説とも感想ともつかない文章と組み合わせて展示されています。
内容はさすが美術家のコメントだよなぁという感じ。「ダメだよね やっぱりイヤイヤじゃ」ってのすごい分かるなぁ。どんな画家にもあるもんね、「こういうのがやりたいんだな/ここは割と無理して頑張ってやってるな」ってところ。

青木繁「海」

f:id:minnagi:20211122140308j:image

この二枚なら、こっちのほうが好きです。
奥の岩に当たった波しぶきが崩れて海に戻っていくところの感じがとてもいい。
モネもこういう海岸線の岩をピンク色で描くの、やっていますよね。でも日本の海はそれよりもずっと荒々しくて冷たい。波の様子がより面白いと思う。


---

青木繁「海の幸」

f:id:minnagi:20211122140301j:image

有名な作品ですよね。青木繁の中で一番有名な絵だと思う。
力強い男たち、どっしりぐっだりとしたサメ、海での格闘を終えた男たちの凱旋の図。
そういう風に思っていました。

でも男たちがなんで全員裸なのかって、別に力強さを示すためじゃなくって網元との身分さを示すために服を着ることを許されなかったからだって知ってしまうと見る目が変わってくる。

pulin.hateblo.jp人としての尊厳を損ねられた人たち。よく見ればその体は老い、たるみ、決して力強く美しいものではない。こうやって必死にとってきた魚も、その利益のほとんどは網元に吸い取られてしまうのだろう。皆が疲れ果てた顔をしているのは、単に漁が厳しいだけではないのかもしれない。
そんな中でただ一人こちらを向いた女と見まごう美青年は、いったい何を問いかけようとしているのだろうか。

---

森村泰昌「M式「海の幸」ジオラマ01」

f:id:minnagi:20211122140303j:image

「海の幸」を新しい作品に落とし込むための膨大なスケッチ、構想、試作のうちの一つのようです。こうしてみることで全体の構図をつかんでいるのでしょう。
単純に立体作品としてシュールで面白いです。魚はこんなにも執拗に貫かれているのかと。そして人物を後方に追いやったことで、彼らもまた銛で突かれているかのように見えます。

---

森村泰昌「M式「海の幸」第2番:それから」

f:id:minnagi:20211122140314j:image

今回のメイン作品です。森村氏がすべての登場人物を演じたセルフポートレートコラージュ。
実にシュールです。体に絵の具を塗りたくって絵画と同じポーズをしているけれど、それが非常にどぎつい。なぜだろう。

森村泰昌「M式「海の幸」第10番:豊穣の海」

f:id:minnagi:20211122140311j:image

明治、昭和、平成と時代を下った「M式」は最初の東京五輪やバブル、コロナの時代を抜け、謎の土偶で幕を下ろします。これは未来なのか過去なのか。
なんなんだろうこのシュールさは。右に落ちている白衣は子の土偶が倒した石のものなのだろうか。
コロナ後ってことなのかなぁ……どぎつい。

---

とにかく右を見ても左を見ても圧の強い顔をしたおじさんなのでだんだん悪酔いをしてきます。
そしてこの後に魅せられるのが展示会のタイトルでもある「ワタシガタリの神話」です。
青木繁に扮した森村泰昌が、青木繁に対して関西弁で語り掛けるという内容。
画版の前に座った着物の森村がただ語り掛けるその動画は動きがほとんどないものなのですが、ごめん、まともに見れなかった……
いや、語りの内容は非常に興味深かったからちゃんとに聞いていたのですが、画面が見れなかった。気持ち悪くて。いや、森村さんの顔が気持ち悪いっていう意味じゃなくて情報酔いして。ほんとに。

動画は後ろのほうの席で見たほうがいいと思うよ。

ゴッホよりゴーガン イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 10/19

三菱一号館イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜に行ってきた。

mimt.jp

年間パスポートを買ったのだからもっと行けばいいと思うのだけれど、最近めっきり体力が落ちたり全く予定が立たなくなったりして全然いけていない。そしてたまに行ったところでブログ更新までたどり着けないでいる。
中年だなぁと思う。つらみ。

そんなしょうもない愚痴は置いておいて、やはり三菱一号館印象派展示が多い。そしてよく似合う。

---

レッサー・ユリイ「風景」

f:id:minnagi:20211122140215j:image

非常にドラマティックな絵です。夕暮れの水辺、光を反射する水面。
純化され、まるで切り絵のように見える風景。
絵の具を盛り上げ、パレットナイフを押し付けて力強く描かれた木々と鏡面のようにのっぺりした水。左手側一本だけ立った柳?だけがなんだか妙に葉の色が目に付いて調和を乱しているようないないような。心に引っ掛かりを残す絵です。

---

クロード・モネ「ジヴェルニーの娘たち、陽光を浴びて」

f:id:minnagi:20211122140221j:image

娘たちってだれよ?というと、この積み藁のことなんだとか。この藁の形が女性の姿に見えたということらしい。確かに当時流行りのボリュームたっぷりなスカートのシルエットに似ている。真昼の強い日差しの中すべてが溶け合うようなパステル調の色彩の中で、遠くの積み藁など女性のシルエットをとらえたもののように見えなくもない。
屋外でのダンスパーティのようだ。
夢の中のような世界の手前に強く落ちた影だけが現実のもののようだ。影の中だけが現実世界で、その向こう側の世界との境界線のようだ。
だとしたら向こう側は天国かもしれないな。

---

ポール・セザンヌ「湾曲した道にある樹」

f:id:minnagi:20211122140218j:image

セザンヌはいいよね。緑色がいい。
油絵なのにまあるで透明水彩みたいなきらめきを持っている。
なかなか複雑な面白い地形を描いているなと思う。
手前から奥へまっすぐ伸びる道、左手の高台の淵に沿う急カーブの道、そして台地から平地へと降りる緩やかな坂。遠くに見える広場。
見たときに面白い構図だなと思ったんだろうな。多分写真だとそれほど趣がある感じじゃなくて、このくらいのデフォルメの絵画だからこそ、この坂道の面白さが見えてくるんだろうなと思う。
ぽんぽんと点描のように置かれた筆の重なりでうまく傾斜を表現している。

---

ポール・ゴーガン「ウパ・ウパ(炎の踊り)」

f:id:minnagi:20211122145936j:image

上野でゴッホ店をやっている関係か、公式サイトとかではややゴッホ推しのこの展示。
でも見ていて面白かったのは何といってもゴーガンだった。
一室丸まるゴーガンをかけられた部屋があり、初期からタヒチにわたってプリミティブアートのような作品に移行するまでの経緯が見れて興味深かった。

この作品はちょうど中間くらいだろうか。タヒチ原住民の宗教儀式を印象的に描いてはいるものの、まだ西洋美術の範疇に収まっている段階の絵柄。
燃え盛る炎とその照り返しとが非常に幻想的だ。
個人的な趣味でいえば、このくらいの時期が一番好きだ。

---

初来日の作品も多く、写真撮影可能エリアも広く、贅沢な感じの展示だった。
歴史的なものをおさらいしたりといった勉強っぽさは薄く、モチーフで部屋を分けたりして純粋に作品を楽しめる感じだったと思う。

モネ、クールベゴッホなど超有名作家の作品も多く、とても贅沢な美術展です。おすすめ。

鳩まみれ荘 鳩山会館 9/19

鳩山会館に行ってきました。

www.hatoyamakaikan.com


薔薇園で有名なこのお屋敷は全然シーズンじゃないけど、逆にすいてるかなって。
山の上にある邸宅で、この辺で一番高いところなので建物自体はうまく撮影できないです。

全体的に、迎賓館というより普通に使用していた住居なので部屋全体を撮影するのは難しいです。角度的な問題で、もう少し広いスペースがないと難しい。
旧岩崎邸みたいな様式の建物でした。


あちこちに鳩や鹿などの動物モチーフがあるこのお屋敷。屋根にはフクロウがいます。鳩たちを守ってくれているのかな。

f:id:minnagi:20210926214418j:image

玄関に入って振り返ると、扉の上に鳩が遊ぶギリシャ神殿のステンドグラスが。
いいなぁ。私、家の中に一か所でいいからステンドグラスほしいんだよね。


f:id:minnagi:20210926214423j:image

こちらは1階の庭に面した部屋と客間とをつなぐ欄間。季節の花が描かれています。

和風とアールデコって相性がいいね。


f:id:minnagi:20210926214428j:image

二階へ上がる階段の途中には大きなステンドグラス。
五重塔の上を鳥が自由に飛んでいます。
f:id:minnagi:20210926214425j:image

サンルームのタイル。かわいい。
f:id:minnagi:20210926214420j:image

普通に暮らしやすそうな家だなぁって思いました。小さな部屋がいくつもあって現実的な間取りというか。
中の展示は鳩山一族の歴史みたいな感じで知らんおじさんの書いたラブレターとか読まされて白目になるけど、薔薇の時期にまた来てみてもいいなぁって思いました。

手に入れた自由 ピーター・シスの闇と夢 9/24

練馬区立美術館に行ってきました。美術展らしい美術展行くのすごいひさしぶり…
展示は「ピーター・シスの闇と夢」です。

neribun.or.jp

ピーター・シスは旧ソ連下のチェコスロバキア出身のアニメ作家、絵本画家です。

Peter Sís - Wikipedia(英語)
今回の展示まで知らなかったのですが、彼の一番有名な作品は絵本ではなくアマデウスのポスターデザインだと思います。

社会主義国家として厳しく統制されていた時代、芸術関係の仕事をしていたため国外の自由な世界を知っていた親に育てられた彼もまた、自由な世界に対するあこがれを持って育ちます。
厳しい言論統制をかいくぐって子供たちに少しでも自由な心を伝えようとアニメーションの仕事をしていた彼はついにアメリカへの亡命を果たします。
その自由の国でのびのびと育つ自分の子供を見て、自分たちが生きてきた世界について伝えていかなければならないと描き始めたのが絵本作家としての第一歩とのことです。
---

「星の使者ーガリレオ・ガリレイ

f:id:minnagi:20210927134458j:image

展示の入り口ビジュアルになってる絵。このしたの赤い人達が座る扇状の部分が入り口上に貼られ、そこをくぐって入場するようになっていました。

魔法使いの制服みたいに見えてハリポタみたいだな〜授業風景か試験風景かな。ファンタジー★って入場して元絵見たら、全然違うでやんの…

ガリレオ・ガリレイの伝記絵本の一場面だそうです。地動説を唱えたガリレオが、宗教裁判にかけられているシーンだとか……迫害のシーンじゃん。
母国で思想の強制を受けたシスが、子供たちに迫害の恐ろしさやそれでも正しい道を選ぶことの重要さを伝えようとしたのでしょう。このリアリティよ。

---

「三つの金の鍵ー魔法のプラハ

f:id:minnagi:20210927134500j:image

自分の子供のころの思い出やルーツを、子供に伝えるための絵本だそうです。
夜のプラハの街を黒猫に導かれて街の秘密を探すストーリーということです。
白い線はクレヨンを鉄筆で削り落としたのだと思います。この手法の作品がいくつかあった。
手書きの作品ですが銅版画のような繊細さがあります。

---

「鳥の言葉」より「唯一性の谷」

f:id:minnagi:20210927134503j:image

鳥たちが伝説の鳥を自分たちの王として迎えるために旅をするストーリーとのこと。
レンガのような木々で埋め尽くされた山、雲のような鳥、ミステリーサークルのような模様。硬質で神秘的。不思議な絵ですが見ていると穏やかな気持ちになります。
世界を旅する鳥たちは赤や青の世界も通り抜けます。青が好きだった。
---

「マンハッタン・ホエール」

f:id:minnagi:20210927134614j:image

マンハッタンの地下鉄に飾られたポスターとのこと。マンハッタンの地図をくじらになぞらえているそうです。かなり好評だったというの、わかります。
マンハッタンの土地勘はないけれど、もし自分の街がこんな風に表現されたらうれしいだろうなぁ。自分の家はどのへんだろうって探したりしてさ。
アメリカのたくさんの民族のたくさんの文化を飲み込んで、夕方の海に泳ぎだすクジラ。
いいよねぇ。

---

告知を見たときはエドワード・ゴーリーみたいな作品かな?と思ってたけど全然違った。
ブラックジョーク的な黒さではなく、サバイバーの物語だった。

旧ソ連、といってわかるのはアラフォー世代が最後じゃないかなぁ。
ソ連崩壊の時を覚えている。京都人は、ベルリンの壁を見たって言っていた。
そんな抑圧された時代に、子供たちに少しでも自由を教えたい、でも直接的な表現をしたら粛清の対象になってしまう。
そんな複雑な気持ちで作られた抽象的な表現のアニメーション、かなり怖かった。
体制への批判とか現状への不満とかが煮詰められた怨念のような作品、子供のころ観たら絶対トラウマになってる。

ソ連はなくなって、チェコスロバキアは一応自由になった。
でも今はウイグルとかイラクとかがまた緊張状態にある。これから10年20年したら、その地域からまたこういう作品が出てくるのかなぁと思うと、ちょっと寂しい気持ちになってしまった。