あらすじ 二幕 ①

 

 

※個人的解釈と所感を含みます

 

《二幕》

 

<兵士たち>

遺骨発掘鑑識団は高原地図を広げ、参戦勇士たちに当時の記憶を伺いながら山地に眠る遺骨を捜します

ヒョンミンの祖父、スンホも参戦勇士として遺骨発掘鑑識団と行動を共にしていました

スンホは頭痛に襲われながらも必死で記憶を取り戻そうと山を見渡します

(舞台が木の根に覆われます その中に5人の兵士たち)

(2階の客席から見ると木の根の影が床に映り、5人の兵士たちが本当に木の根に囲まれているように見えます)

暗闇の中、ふくろうの鳴き声が響き渡ります

お腹を空かせてうずくまっている5人の兵士たち
その中にヘソンの姿がありました

「いつまでここで土と木の根だけ食べてろっていうんだ?」
「腹の中に土と木の根しかないよ!」
「僕は土と木の根と虫...頭の中まで全部...」

ヘソンは4人をなだめます
「ここで待っててって言われたじゃない」
「待てって言っといて忘れちゃったんじゃない?」
「お腹空いたよ...」
「いつまで待つの?」

「ここ楓の木の下の石積み
ここで待っててって言ってたじゃない?
100年かかっても必ず迎えに来るって!」
ヘソンは4人に言い聞かせます

「怖いよ...」

(会話から分かるようにヘソンたち5人はすでに土の中で眠っている状態です...)

通り過ぎていくだろう
弱い心がばれないかと恥ずかしいけど
誰も分かってくれないと寂しくて
こうして終わりのない暗い夜もあるけれど

少し待つんだ
楓の木陰の下この場所で
小さな石積みの後ろで待ちながら
こうして終わりのない深い夜もあるけれど

そんな時は雪の降る夜を思い浮かべよう
真っ暗な世界に降りしきる白い雪
そして雨上がりの午後を思い出そう
曇り空を突き抜ける虹

(ヘソンが手帳にスケッチしたのは”真っ暗な世界に降りしきる白い雪”です

舞台のスクリーンには白い雪と七色に輝く虹が映し出されます)


そんな時は優しい言葉をささやこう
真っ暗な世界に降りしきる雪のように
こうして優しい歌を歌ってみよう
一番輝いていた虹を思い出そう

 

ヘソンたち5人は口笛を吹きながら迎えに来てくれる約束を信じて待ちます

 

 

<すごい夢>

スンホたちの分隊は山を下り、身を隠せる岩場へと移動して来ました
ヘイルは胸を押さえ息苦しそうです
小隊長はヘイルをよく見守ってやるようスンホに指示を出します

スンホはヘイルのリュックを降ろしてやり、切り株に座らせて休ませます
喘鳴がなかなか止まらないヘイル

「僕が小隊長に話すよ 兄さんの喘息のこと...」
スンホはヘイルのリュックから喘息の薬瓶を取り出します

一つの薬瓶はすでに空になっていました

新しい薬瓶を取り出しヘイルに渡します
「スンホ...」

薬を飲み込むヘイル
「兄さん体育の時間も空けていたじゃないか 教室で休むんだって」
「僕は軍人だ 今は戦争中だし...」

 

(暗転の中、空になった薬瓶を自分のズボンのポケットにしまうスンホ)←重要です

一方、現代のヒョンミンとウジュはベンチに座りながらヒョンミンは報告書を書いています
「誰かが置いていった~♪」
ヒョンミンが大学の祝祭で歌った歌を口ずさむとウジュが続きを歌います
「ギターの音~♪」
「おお~!チェ・ウジュ!!お前歌詞全部覚えたのか?」
「誰かが置いていった~♪」
「風の音~♪僕を揺さぶる~♪」
完璧に歌えるウジュ
「おい!次はお前がステージに上がってみろよ!」
「ごめん...」

(ヒョンミン(コ・ウンソンさん)は”慰問列車(国防部の各部隊を回りながら公演う音楽放送番組)に出よう”と誘ったりします

しかも番組名を間違えて言ったりしてウジュに訂正されます 11/15夜公演)

(11/19公演は軍用の撮影があったからか、ヒョンミン(チョグォンさん)は”僕と一緒に教会に行って聖歌隊やろう!”と誘います

ウジュ(ジソンさん)は”僕は仏教”と断りますが、”チョコパイもらえるっていうのに...”とヒョンミン←さすがに軍人さん爆笑でした)

(地方公演では地方ならではのアドリブがあるので注目です!!)
「あ~僕は日記を書いたことがないのにきちんと日記報告書を書くキム・ヒョンミン選手!」
「君は日記を書かないのか?」
「お前は日記を書いてんの!?」
ウジュは日記帳を取り出して見せます
「すっげ~!!」

スンホは聞いてみたかったことを聞いてみます
「ヘイル兄さん、教室で一人何してたの?」
「本を読んでたよ 君たちが運動場で汗をだらだら流してるのを見学したり...」
「いいな~」

スンホはほわ~んと上を見上げます...(空想に入ります)

(11/14夜公演は手を頭の後ろに組みごろんと寝転がりました)

(舞台左側はヒョンミンとウジュ、右側はスンホとヘイル、ヒョンミンとスンホの夢が交差します)

(スンホ&ヘイル)
羨ましかった運動場の土煙
僕は教室に残って窓の外の世界を見物する
羨ましかった運動場のにわか雨
僕も外に出て走って保健室のお世話になった


僕は貧しかったんだ

羨ましすぎて君たちの筆箱を隠したんだ
授業が終わる時にまた戻したけど
その辺は許してくれ


イ・ヘイルが僕を羨ましがるなんて
これは本当にすごいことだ
運動場で何も考えずに走るのが羨ましいなんて
もっと早く知ってたらよかったのに


(ヒョンミン&ウジュ)
羨ましかったステージでの汗しずく
僕は最前列で何故だか涙が流れたんだ

 

「泣いたって!?何で!?」

羨ましかったステージでのミスも
東地方のカビ臭さと足音とエコー


僕は学事警告

羨ましすぎてポスターに落書きをしたけど
心を込めてハートを描いちゃった
その辺は許してくれ


チェ・ウジュが僕を羨ましがるなんて
これは本当にすごいことだ


(スンホ&ヘイル)(ヒョンミン&ウジュ)同時
羨ましかった

素直に傷つく君
羨ましかった

学事警告が好きな君

嬉しければぱっと明るく嫌ならばそぶりを見せて
みずぼらしくて足りなくても輝く君


どういう意味だ?

とても羨ましかった

偶然のように現れたりしたんだ
嬉しかったけどそんな振りせずに去ったりもした
その辺は許してくれ


僕の世界、僕を羨むなんて
これは本当にすごいことだ

僕の宇宙、僕を羨むなんて
これは本当にすごいことだ

 

「ひゃっふ~!!あはははは!あはははは!」

スンホは空想にふけっていました

 

「スンホ何してるんだ?」

ヘイルの問いかけでスンホは現実に戻ります

「え!? あっ... 蚊!蚊がいて!」

蚊を追いかけて誤魔化すスンホ

(11/22昼公演のアドリブは”僕 幼い頃の夢は木だったんだ~”)

 

もう一度スンホは尋ねます

「ヘイル兄さん、教室で一人でいる時、どんな気分だった?」

「ん~、Gluecklich!!(幸せだった!)」

待って!
僕一人ですごい夢を見たんだ
すごかった
もう眠ろう
おやすみ
すごかった
眠たくない
すごかった
gute Nacht(おやすみ)

 

 

<約束>

遺骨発掘鑑識団は今日も日が暮れるまで遺骨を捜しています

(舞台は遺骨発掘鑑識団が捜索する中、真ん中で過去のヘソンたち5人が戦っています)

どうか返事をしておくれ
眠る兵士たちよ
どうか応答をしておくれ
眠る兵士たちよ


ヘソンたちの口笛が聞こえたような気がした遺骨発掘鑑識団たち
あと一歩のところで下山となってしまいます
諦めきれない隊員たち

僕たちは諦めない
僕たちは絶望しない


翌日、ヒョンミンとウジュたちの捜索隊と祖父のスンホは合流します
「お祖父さん!」

ヒョンミンはお祖父さんにしっかりと敬礼をします
立派に軍務に務める孫のヒョンミンの姿を久しぶりに見たスンホは両手を広げながら歩み寄り、

ヒョンミンをしっかりと抱きしめます
またウジュの手を優しく手に取り、しっかりと握りしめます

(スンホ(キム・スンテクさん)は出会った時と同じように拳をぶつけ合います)

(5人の兵士たち)
今日死んだとしても僕は寂しくない
僕の戦友たちが僕を覚えているから


チーム長は高原地図を広げ、スンホから当時の記憶を伺います


(スンホ)
二十歳で止まってしまった時間
あの瞬間にあんなにも熱く走った心臓
二十歳で止まってしまった目の輝き
あの瞬間にあんなにも恋しかった顔


(5人の兵士たち)
今日死んだとしても僕は寂しくない
僕の戦友たちが僕を探しに来るから



<これは映画ではない>

一人の隊員が手をあげます
「ここです!!チーム長!」

ついに遺骨が発見されました

捜索から17日目のことです

遺骨が見つかるとすぐにその場はテープで囲まれ遺骨を置くシートが敷かれます
白い旗のような標識には

『181025 강원도 철원군 대마 화살머리고지
지표 1   유해 2  <17일차>
CH3240  26948』 と書かれています

ヒョンミンは初めて見る遺骨を前に口を手に当てたまま立ち尽くします
ウジュはカメラを構えるもシャッターを押すことができません

現実は映画ではないことを身をもって知らされます

これは映画ではない
失われた伝説でもなければ
伝説の中の宝物でもない
宝物の中の話でもない
すべての戦争は映画ではない

めまいがする強い日差し
あふれ出る汗
息が詰まるような沈黙
幻聴のような鳥のさえずり


「チーム長!!」
また遺骨が見つかります
白い旗のような標識には

『181025 강원도 철원군 대마 화살머리고지
지표 1   유해 1  <17일차>
CH26946 39486』 と書かれています

(この日付は実際に江原道のDMZ非武装地帯で韓国軍戦死者の遺骨が初めて発見された日です)

他、3つの赤い旗のような標識には
『遺品』と書かれています

(左側の赤い標識には"薬瓶"と書かれていました...)

本でしか見たことのない遺骨でも
海中に沈んだ都会でも
秘密の中の聖杯とアークでも
映画の中の主人公でもない

生きていた人
息をしていた人
笑っていた人
一日一日を持ちこたえながら生きて来た人
山から下りることができず必死に残した小さな骨片

これは映画ではない
地中に埋もれた過去ではない

これは映画ではない
今の僕の生きる現実だ


チーム長が部下に伝えます
「特記事項!両足とも右足の軍靴!」

遺品の中に両足とも右足の軍靴が見つかり、地面に置かれました
スンホはその軍靴を目にした瞬間、歩み寄り、膝から崩れ落ちます

「あぁ...あぁ...」
地べたを手で叩き、声にならず涙を流すスンホ
軍靴に手を伸ばします


<軍靴の記憶>

 

(舞台は戦争中の過去へと戻ります)

 

岩場の静かな場所でスンホとヘイルは見張りをしてます

そこへ偵察に行っていた分隊の仲間たちが戻ってきました

ジングは足をぴょこぴょこ引きずりながら遅れてやって来ます
「スンホ~!ヘイル兄さん~!」
手には軍靴を持っています

「スンホ!見て!見て!拾ったんだ!」
ジングは嬉しそうに軍靴を見せびらかすと腰をおろしました


「それ何?」
「何って丈夫な軍靴じゃないか!」
スンホも腰をおろし、まじまじと見ます
「おい!これ人民軍の靴じゃないか?」
「え?本当?」
「ただの靴なのに何だって言うのさ」
ヘイルは心配するスンホを遮ります
「そうだよ!これは僕のだ!」
「ほぼ新しい靴だな」ヘイルは覗きます 
「僕の靴は両足ともつま先が剥がれちゃって足の指が全部擦り剥けちゃった

ほら!血が出てるし...」
ジングは自分の靴を脱ぐと、足のつま先を持ち上げ、スンホとヘイル兄さんに見せました
ジングの両足は靴下がやぶれ、つま先は血だらけになっています
「これは...擦りむき程度じゃないじゃないか...」

スンホはあまりの傷の酷さに驚きます
「履きな!」とヘイルは促しました
「うん!」


ジングが右足から履くとスンホはもう一方の靴を手に取り、気づきます
「ジング!これ二つとも右側じゃないか?」
「そんなはず...」
ジングは右左を見比べます
軍靴は両足とも右足の靴でした
がっかりするジングでしたが、今のボロボロの靴よりはよいと無理に履きます


「大丈夫みたいだ!」
「足痛くない?」
ジングは立ち上がりましたが痛そうです
「新しい靴が貰えるまでこれを履くよ!丈夫な靴じゃないか!全然痛くない!」
スンホはジングの左足のつま先を手でさわってみます
「ああっ!!」
痛がるジング

「小さいんだろ~」
「違うよ!足が腫れてるからだ!傷が治ればぴったりだ!!」
ジングは強がります
「本当に痛くない?」スンホは何度も聞きます
「見てろよ!」
ジングは岩陰から離れ、元気に動いて見せますがやはり痛そうです

そんな時、見張りをしていた仲間が敵に気づき、すぐさま知らせます

「ジング!!早く!!」

岩陰から一番離れてしまったジングを急いで呼びます
スンホもヘイルに引っ張られ、慌てて身を隠します

人民軍が間近に来るまで息を殺して身を潜めるスンホたち

視界に入った瞬間!
「やぁ~!!」
戦闘になります

皆んなが取っ組み合う中、 (6対6 ジング除く)
ジングは一人、岩陰に隠れたまま恐怖で震え、目をつぶってしまっています

スンホは戦いながらジングに何度も叫びます
「ジング!目をつぶってはダメだ!!ジング~!!」

痛かったり辛ければ目を閉じればいい
これは全部夢だと思えばいい
怖かったり嫌だったりしたら目を閉じればいい
これは全部夢だと思えばいい


我に返ったジングは逃げようと山を駆け上がりました
逃げるジングの背中に向けて人民軍は銃を撃ちます
ジングの体は崩れるように倒れました

「ジング!!」
スンホは人民軍を押しのけ、ジングの元へと駆けつけます
「スンホ...」
何とか起き上がったジングは自分の体から溢れ出る血を確認すると白目をむいて再び倒れます
地面に倒れる前に抱きとめるスンホ
ジングの体はぐったりとして動きません

「ジング!!ダメだ!!待って!!ジング!!目を開けてくれよ... うわぁあああああ!」
スンホは泣き叫びながらジングを必死に抱きしめます

ヘイルは人民軍に馬乗りにされ、殴られ首を絞められていたところを仲間が敵に発砲し、一命を取り止めましたが、その直後にジングが撃たれてしまった状況を目にします

ヘイルは膝から崩れ落ちました

 

 

<ヘソンの身構え>

(舞台は再び木の根に覆われます その中に5人の兵士たち)

 

4人の兵士は2人ずつ毛布にくるまり、

ヘソンは安心して眠るよう声をかけます

 

ヘソンは岩場へこしかけ、手帳を取り出すと書き綴ります

「負傷を負った一人が死んだ...

傷が深く、苦しみながらも一週間だけ持ちこたえれば戦争が終わると言ったら一週間持ちこたえた
一週間経った日、急激に悪化し、二日目に死んでしまった...
他人が聞いたなら信じられないだろう話...
されど彼は生きる意味や意志をすべて放してしまったようだった」

無意味と不条理で焼き尽くされた戦場で
私ができることは私の身構えを決めることだけだ
人間ができる唯一のことだ
無慈悲な混沌で廃墟になった戦場で
私ができることは生きることの意味を決めることだけだ
人間ができる偉大なことだ

私が何故生きなければならないのか
私の人生に問いはしない
私が何故生きるべきか
私の人生に教えてあげる
死は自分がどこにいるのかすでに知っている
死がドアを叩く時
私は優しい旅館の主人になりはしない

絶え間ない死で地獄になった戦場で
私ができることは私の身構えを決めることだけだ
人間ができる唯一のことだ

私が何故死ななければならないのか
私の人生に問いはしない
私が何故耐えるべきなのか
私の人生に教えてあげる
死の風浪の前にしまいには倒れたとしても
私は最後までしがみつくわ
私の人生の意味は私が決めるから

 

 

<死>


スンホは岩場にヘイルを背にして縮こまって座り、デミアンを抱えながら泣いています
ヘイルは切り株に座り、気を紛らわすかのようにデミアンを読んでいます

スンホは自分を悔やんでいました

「ジングが死んだ...
ジングは合いもしない靴を履いて死んだんだ
履かないように言うべきだったのに...
破れていたって自分の靴を履いていたらもっと早く走れたのに...」

「それは違う」
ヘイルは静かに答えます

「それなら何で死んだんだよ...」
「何でか?そんなものはない」
ヘイルは冷たく答えます

「なら何があるっていうんだ!!!!」
そんなヘイルの態度にスンホは声を荒げます

ヘイルは立ち上がり、デミアンを淡々と読み上げます

死とは唯一の結末
公開された結末
死がなければ学校と教会は埃まみれだろう


ヘイルの本を持つ手は悲しみを必死に堪えているかのようにかすかに震えています

死とは予定された敗北
「やめろ!!」
予定された別れ
「聞きたくない!!うんざりだ!!」

死がなければ宗教と哲学は廃れてしまうだろう

ヒヤシンスは黒く病んでいき
庭では死臭が漂う

「やめろ!!!!」
老いた山羊が一晩中鳴き続け
「全部意味なんてないんだ!!」
スンホは自分が持っているデミアンを真っ二つに引きちぎり地面に叩きつけました
けれどヘイルは読み上げることを止めはしません

むしろデミアンの文章を指でなぞりながら一心不乱に読み続けます

(そうしていないと落ち着かないかのように...)


礼拝堂ではうめき声がする

人生の学校で僕たちは孤独と諦めを練習し
人生の学校で僕たちは苦悩と反復を耐え抜く


「もう幼い子供じゃないんだ!!」
スンホはヘイルが読み上げるのを遮りました

「イ・ヘイル!
イ・ヘイルはどこに行ったんだ!?」
スンホはヘイルに近寄り、ヘイルのデミアンを奪い取ります
「数十年前のドイツ人が書いた本ではなくて!!」
スンホはヘイルのデミアンを地面に叩きつけました

「昨晩こっそり泣いてたイ・ヘイルはどこに行ったんだよ!
ジングがあんなに好きで従ってたイ・ヘイルはどこに行ったんだよぉぉ......」

スンホは涙ながらに訴えます
それにもかかわらずヘイルはスンホと目を合わせることができません

「卑怯だ...最悪だ...」

「君が正しい...二度とこんな言葉のあやで君を疲れさせたりしないよ...」
ヘイルは自分のデミアンの本を拾い、中にスンホが描いた絵も挟んであることを確認します

「一晩中(ヘイル兄さんは)泣いてたじゃないか
僕は見たんだ
(正直に)悲しいんだ、怖いんだと言ってはダメなのか?
目でも合わせてくれるのを待ってた...
手でも握ってくれるのを待ってた...」


スンホは泣きながらヘイルを見つめますが、
ヘイルは目を合わせることなくスンホの前を通り過ぎてしまいます
その瞬間、スンホは頭にきてヘイルから遠ざかっていきます

(悲しみ故の憎悪といった表情です...)

人生の学校で僕たちは魅惑と審判を練習し
人生の学校で僕たちは行き交う憎悪を耐え抜く

そして僕たちは死ぬんだ
終わりだ
その次はない
何もない
誰もいない


スンホがヘイルと離れたところで泣き叫ぶ中、ヘイルは顔を手で覆うと座り込み、ひっそりと涙を流します
(ヘイル(イ・ジェギュンさん)はずっとスンホの方を愛おしそうに見ながら涙を流します)

 

 

<遺言>

 

(舞台は現代に戻り、南北軍事境界線と思われる風景の前でベンチに一人の女性が座っています)

「こちらです」
スンホは遺骨発掘鑑識団のチーム長に案内されて、一人の若い女性と面会をします

「こんにちは 私がリ(イ)・ヨンスクと申します」
(北では李”イ”の姓は”リ”と読みます ヨンスクは北の訛りがあります)
「リ・ヨンスク...あぁ...私がキム・スンホです」
「お会いできて...」
ヨンスクは涙ぐみます
「何をどう言ったらよいか...」
スンホは戸惑いますが、ヨンスクはすぐに何かを取り出します


「これは父の遺品です」
ヨンスクが差し出したのはドイツ語の古びたデミアンの本でした
それはヘイルの物でした
スンホはデミアンを手にした瞬間、涙がこみ上げます
「持って行ってやりなさいと...
キム・スンホは破ってしまい持ってないはずだから持って行ってやりなさいと...」


スンホはデミアンを愛おしそうに撫でて抱きしめます
そんなスンホの姿を見てヨンスクは涙をこらえ窓を眺めます
「窓の外...今日は天気が本当に良いですね」


「ヘイル兄さんは?」
「父は国軍の捕虜として生涯を炭鉱で働き、珪肺症でとても苦労し亡くなりました」
「そう...でしたか...」
「私に会いに行きなさいと言いました
成川(성천)中学を卒業したキム・スンホ
生きているか...生きていたら一等兵になっているか二等中士になっているかわからないが
尋ねてみなさいと...」

(デミアンを持ったヘイルが舞台の左側に立ちます)

君は必ず無事に南に行くことを願う
ヘイルの切なる願いでした

「ヨンスク!私の言うことをよく聞くんだ
書き残さずに覚えるんだと言いました
書くと後でもしも事が誤った時にすべて物証になるんだと...」
(捕虜としてヘイルがいかに怯えながら生きてきたのかがわかります...)

スンホはデミアンを開くと中に挟んであった一枚の紙を取り出しました

すっかり色あせてしまった紙を開くと
少年時代に自分が描いた卵の絵が目に入ります
ヘイル兄さんは何十年も大切に温めていたのです

私が死んだ後に南に行けるようになったら
私の幼なじみに会いに行き
その老いた手を一度握ってくれたら嬉しい
もし生きているのなら


ヨンスクはスンホの手をぎゅっと握ります
あの時、握ってやれなかったスンホの手
ヘイルは娘に託したのでしょう
スンホもヨンスクも涙が止まりません
スンホはヨンスクにハンカチを渡すと優しく肩をたたきます

私が死んだ後に南に行けるようになったら
私の少年時代に会いに行き
その青い私に少し会ってくれたら嬉しい
まだ残っているのなら

この本を一冊持って行けばよい
私の若き日の小さな記念品
この絵を一枚伝えてくれればよい
私の若き日の素朴な物証


何の言葉も伝える必要はない
少しぎこちない時は窓の外を見るんだ
私が死んだ話は伝える必要はない
あの空を一度見上げればよい


ヨンスクは父の遺言通りに空を見上げます
スンホも立ち上がり、ヘイル兄さんを探すかのように空を見上げます

ヘイルの幻影はスンホと向かい合います

私が生きて友に会いに行くのならば
私は何の話をどこからするだろうか
私は君にとってデミアンではなかったが
君は私にとってシンクレールだったんだ

たった一日を選択できるのなら
私はあの日に戻りたい
私がかばんからデミアンを取り出した瞬間
その瞬間にあんなに輝いた君の目をもう一度見たい


ヘイルはいつもしていたようにスンホの肩をそっと優しくたたきます

こうして現れて突然私を揺さぶって
すべてが完璧だったあの日
こうして戻って来て永遠に私を揺らす

スンホには満開の桜の下でデミアンを手にするヘイルの幻影が見えていました

春だ

風が吹く
もう一度戻りたい
ただ一度だけ戻りたい

今も

風が吹く

「私は一等中士になったんだ!!
本を破ったのを後悔しながら...」

スンホはヘイルに叫びます

(ヘイルの予想は外れて一等中士となっていたスンホ)

ヘイルは優しい眼差しでスンホを見つめます
見つめ合う二人の間を昔と変わらないやわらかな風が通り抜けました

 

 

<キム・スンホ一等中士>

 

(舞台は戦争中の過去へと戻ります)

スンホの左胸には一等中士の階級章
その姿はかつての幼かったスンホの面影はなく、堂々とし厳しい表情です

「キム・スンホ一等中士だ!」
スンホは5人の学徒兵たちに挨拶をします (木の根に囲まれていた5人です)
その中にはヘソンもいました
ヘソンはスンホに気づくとヘルメットを深く被り顔を隠します

「うわぁああ!僕たちにもついに小隊長ができた!!
うわぁああ!小隊長!!!」
喜び合う学徒兵たち
キム・スンホ一等中士にしっかりと敬礼をします
「全体~気をつけ!!小隊長に敬礼!!忠!誠!」
「忠誠!」

スンホは淡々と学徒兵たちに伝えます
「君たちを帰宅させる任務を引き受けた
君たちは家に帰るんだ」
学徒兵たちは顔を見合わせます
「え?何故ですか?」
「国の未来のために学徒兵たちは帰宅させろとの命令だ」
「僕たちも一生懸命戦ってるのに...」
一人の兵士が不満そうに言うと仲間が言い聞かせます
「お国のためだって言われたじゃないか」

「ここは危険なゆえ、某所へ移動し、そこで解散とする
明日の明け方4時に出発する
さぁ、ご飯を食べてしばし休息だ」
「はい!!」
キム・スンホ一等中士の言葉に従い、握り飯の配給にスンホの前に並ぶ学徒兵たち
「さぁ!」
スンホは飯盒に入った握り飯を一人一人手渡します
一人の兵士はヘソンの分も貰ってあげます
「二個ください!友だちに持っていってあげなきゃで...」
「怪我ひどいのか?」 (「優しいんだな」と言う時もあります)
「いえ!怪我は大丈夫です」
ヘソンはスンホから気づかれないよう一番離れたところで休息をします

落雷が激しく轟きました

「一荒れしそうですね...」

一人の兵士は握り飯を食べず、空を見上げ不安そうにたたずんでいます

「どうして食べないんだ?」
スンホは声をかけます

「小隊長...僕たち家に帰る前に雨に流されて死んだとしても誰にも知られないでしょう?
認識票(IDタグ)もないし...何もないから...」

「君、名前は何ていうんだ?」
「ユン・ヨンソク(윤용석)です!」
「ないだなんて何がないっていうんだ 私が作ってやる」

スンホは片膝をつきナイフを取り出すと飯盒のアルミをくり抜きます
そこへナイフの先を使ってうまく名前を刻みます
「ユン...ヨン...ソク...さぁ!できた!どうだ?」
スンホは手作りの認識票を渡します
「わぁ!!ありがとうございます!!」

その様子を見ていた学徒兵たちは我先にとスンホの元へ駆け寄ります
「僕も!僕も!」
「よし 君の名前は何ていうんだ?」
「ヒョンボ!ファン・ヒョンボ(황현보)!」
「ファン...ヒョン...ボ...さぁ!ヒョンボ!」
「ありがとうございます!!」
「僕も!キム・セヨン(김세용)!」
セヨンは早く刻んでもらいたくて順番抜かしをします
少し申し訳なく思ったセヨンは抜かしたテファンに握り飯を渡します
「キム...セ...ヨン...さぁ!セヨン!」
「イ・テファン(이대환)です!」
「イ...テ...」
「ファンです!」
「ハンじゃなくてファン...さぁ!テファン!」
「ありがとうございます!!」

仲間に後押しされてヘソンは意を決します
スンホの前に立ちヘルメットを脱ぐヘソン
「パク・テフン...(박태훈)」
聞き覚えのある声にスンホは顔をあげます
そこにはヘソンが立っていました
スンホは現実を直視できないかのように目を泳がせます
「パク...テ...フン...」
スンホの声は小さくなりました

雷鳴はまだ鳴り止みません

仲間が寝静まる中、スンホとヘソンは同じ切り株に腰をおろしました
最初にヘソンが口を開きます

「ヘイルは体が弱いの
それが家ではヘイルの武器だった...
私がどうして他人の名前を奪ってまで戦場まで来たと思う?」
「...」
「ヘイルに負けるのが嫌だったの」
「何だって?」
「私たちは少し特別なの
幼い頃からそうだった...
ヘイルは試験で満点取って来ると私は徹夜で勉強したし
私が賞を貰って来るとヘイルの喘息は悪化したわ
それでも互いにいなければ生きられないし...」
「二人ともおかしいよ」
スンホは苦笑いします
「驚いた...でしょ?」
「うん...」

ヘソンが一番聞きたいこと
でも怖くて聞けないこと...ヘソンは勇気を振り絞って聞きます
「へ...イルは?」

スンホは大事に持ち歩いていたヘイルの空になった薬瓶をズボンのポケットから取り出し、

何も言わずにヘソンに渡しました
空になった薬瓶を受け取ったヘソンは不安そうにスンホを見つめます

「作戦中...失踪...」

雷鳴が響きます

ヘソンは薬瓶をぎゅっと抱きしめ、涙を流します

「おそらく...死んだだろう...
ジングが死んで...
僕がヘイル兄さんに八つ当たりしたんだ...
ヘイル兄さんは何とか僕を慰めようとしただけなのに...
僕はただとても頭にきて傷つけたくて本を破ってしまった...」

「傷ついてるはずよ...」
「そういう意味じゃなかったんだ...」

「ヘイルにあまり失望しないで...」
「失望したことなんて...ないよ...」

「認識票...それで作ってあげたんじゃないの?
”僕はイ・ヘイルとは違う”」
ヘイルの一番の理解者ヘソンは何故スンホがヘイルに八つ当たりしたのか

何も聞かなくてもお見通しのようです (意地っ張りで素直に感情を表せない不器用なヘイル)
「成功したわ
あの子たち本当に久しぶりに安心して寝入ったのよ」

「息が...できないんだ...」
スンホは両手を膝の上で握りしめると息を吐き出すかのように口にしました
一等中士となり、気を張り詰めてきたスンホの肩の力がヘソンの前で初めて抜けたようです
スンホの肩は小さく震えています
ヘソンはスンホの肩を優しく抱きました
スンホは抜け殻のようにただ一点を見つめています

私はどうして春の陽射しの中に私たちを見つけたのだろうか
私たちはどうして皆戦場へ期せずして散らばったのだろうか
悲しみは招待されなくても突然訪れた
悲しみがドアを叩く時には
すぐに走って力いっぱい抱きしめてあげるわ


ヘソンはスンホに自分の手帳を見せます
そこにはヘソンが描いた絵がありました
(2階の客席から見ると一幕で大きなスケッチブックにスケッチしていたヘソンの絵が見えますが同じ絵です
過去にスケッチした絵を思い出しながら戦時中に再び描いたのでしょう)


ヘイル、ジング、スンホ、三人で笑いあっている姿
教室で一人本を読むヘイルの姿
ジングの結婚式、花婿花嫁の姿
ヘイルが自転車の後ろをつかみながらスンホが初めて自転車に乗った姿

幸せだった瞬間
笑いあった瞬間
恋しい瞬間

スンホはヘソンの絵を見ながら声を殺して泣きます

君はどうして今日ここへ私の目の前に現れたのだろうか
私たちはどうして明日がないように今日の夜を捕らえているのか
戦争の渦の中で砕けてしまったとしても
私は最後まで覚えているわ
私たちの春日を私は抱いて行くから


蛇が草むらを這う音が聞こえます

「僕が見に行って来る」
スンホは涙を拭うと銃を手に取りました
「気をつけて」
ヘソンは急いで仲間を起こします

スンホが山を登って行くと銃声が響きます
「うあっ!」
その銃弾はスンホの左肩を貫通していました
そのまま山の谷間(敵の死角)に落ちるスンホ

突然の銃声にヘソンたち5人は慌てて身構えます
人民軍(敵)が近づいてくるのを待って戦闘となる5人 (5対5)

激しく雨が降り出します

スンホは意識を失っていました
やがて激しい痛みと共に意識が戻り
痛みにもがき苦しみながらも必死に右手でナイフを取り出し握りしめます

ヘソンはやられそうになる仲間を助けようとするも自分も敵に後ろから羽交い絞めにされてしまいました
身動きできなくなったヘソンの胸を敵の銃剣が突き刺さります

スンホはヘソンが刺された瞬間を目の当たりにしてしまいます

「うわぁああああああ!!!!!!」

スンホは瞬間怒り狂い、泣き叫びながら敵を次々にナイフで倒していきます


「うわぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!あぁああああああああああ!!!!」

スンホは最後の一人を泣き叫びながら何度も何度もナイフで刺します
我に返ると倒れたままスンホへと手を伸ばすヘソンの姿が目に入ります

「あぁ...あぁ...あぁあああああああああああ!!!」
這いつくばりながら倒れているヘソンの手を握ろうと必死に手を伸ばすスンホ

(その手は届くことなく舞台は暗転します)

スンホは大きな楓の木の下で泣きながら5人分の石を一つずつ丁寧に積んでいました

左腕はだらんと下がったままです

(おそらく撃たれた左肩から血がまだ流れ出ている状態でしょう)

ここで待つんだ
わかったな?
ここ楓の木の下
この石積みの後ろ 
僕が君たちを迎えに来る
100年かかっても来る 
必ず家に送ってやるんだ
約束する


石を積み終えたスンホは大きな楓の木の下、石積みの前で敬礼をします
歩きだそうとすると力尽きたかのようにそのまま意識を失い倒れました

 

 

 

ダウン文字数をオーバーしたため、二幕②へと続きます

 

 


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