孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国から見た日本の現状 「失われた20年」への分析 問題点に対する耳を傾けるべき指摘も

2020-10-19 22:52:41 | 中国

(1972年 日中国交正常化交渉を行う田中角栄、毛沢東、周恩来【2017年9月29日 東洋経済online】)

 

【「失われた20年」への高い関心】

中国の日本に対する関心は相当に高いようで、新型コロナのために往来が途絶えている現在も、中国メディアの日本に関する記事を毎日多数目にします。

 

単に関心があるだけでなく、日本に対する理解も深まっており、そのことは今後の日中関係の基礎ともなるものでしょう。

 

今日は、最近のそうした日本関連記事からいくつかを。

 

****この20年、日本の平均収入が増えないどころか減ってしまったのはなぜか=中国メディア**** 

中国のポータルサイト・百度に18日、日本の平均年収が20年前からほとんど変わっていない理由について紹介する記事が掲載された。

記事は、日本の国税庁による調査データで、1999年の日本の平均年収が461万円だったのに対し、20年後の2019年における平均収入が436万円と25万円少なくなっていると紹介。

 

「この状況は世界的に見ても珍しい」とし、中国の北京市ではこの20年間で平均年収が8倍近くになっており、ほかの地域も北京市ほどではないものの、20年で平均年収が下がる現象は起きていないと伝えた。

その上で、日本で20年にわたり平均年収がほぼ横ばい状態、さらにはやや減少する事態が発生した理由として3つの点を挙げて説明している。

 

まず1点めは非正規雇用者の増加とし、日本では1994年に労働者派遣法が改定され、「年功序列、終身雇用」という日本企業の伝統に風穴が開いて以降、企業が人件費コストを下げる目的で続々と契約社員やパートタイム従業員といった非正規の雇用契約を結ぶようになり、今では非正規雇用者の比率が全体の50%を占めるようになったと紹介。非正規雇用者が増えたことで、平均年収の増加が止まったとの見方を示した。

2点めでは、製造業の競争力減退を挙げた。日本のいわゆる「失われた20年」は、中国をはじめとする新興国が急速に成長してきた20年であり、製造業の分野では新興国の追い上げによってかつて日本が持っていた優位性が徐々に失われ、激しい競争に晒されることになったために、従業員の給料もおのずと伸び悩む結果になっているとした。

そして3点めには、日本人の性格的な部分に言及。日本では「従順」や「忍耐」が一種の教養とされ、給料が上がらないからといって騒ぎ立てれば「他人から無教養な人間だとみなされることになる」と説明したうえで、従業員がストライキやデモを起こして給料増を強く主張するケースが少ないことも、収入が頭打ち状態になっている要因の一つであると論じている。【10月19日 Searchina】

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1点目、2点目はほぼ妥当でしょう。

3点目は、いかにも中国らしい見方で面白いです。

 

日本への関心が高い中国メディアですが、なかでも日本の「失われた20年」は、「本当に“失われた”と見ていいのか?日本を侮ってはいけない」といった観点から、非常に高い関心をよんでいます。

 

*****日本は20年を失ったのか? むしろ「成熟した20年間」では?=中国****

中国では盛んに強調される日本の「失われた20年」。

 

しかし、実際のところ日本はこの20年間、何かを失ってばかりだったのだろうか。中国メディアの今日頭条は10日、「日本は本当に20年を失ったのか」と題しつつ、日本の経済成長率は確かに低迷しているが、実際はより成熟した20年間だったのではないかと論じた。

記事は「失われた20年」が実は日本にとっての「成熟するための20年」だったと主張する根拠として5つの要因を挙げている。

 

まず1つは、国の経済を理解するのによく使われる「国内総生産(GDP)」だ。日本は現在も世界で3番目にGDPが大きい経済大国であると指摘。成長率も世界的に見ればまずまずだとしている。

 

また、中国の経済成長率と比較することが多いが、「中国は山を登っている最中なのに対し、日本はすでに登頂した状態」なので、比較すること自体がナンセンスだとも主張している。

2つ目は「物価と収入のバランス」だ。日本は物価が安定していて収入もまずまずで、生活を楽しむゆとりがあると紹介。この点、中国は物価の上昇に収入が追い付かず、生活が苦しくなっているようだ。

 

3つ目は「インフラがより整備されたこと」。特に電車など公共の交通機関は極めて便利だと称賛している。

4つ目は「産業転換を成功させたこと」。日本は中国の誤解とは裏腹に、川下産業を切り捨て利益率の大きい川上産業へと計画的に比重を変えてきたと伝えた。

 

5つ目は「医療レベルが高く、社会保障制度が整ったこと」。平均寿命が高く、米国のような高額の医療費や欧州のような効率の悪さがないと評価した。

 

最後の6つ目には「貧富の差が小さい」ことを指摘している。 

日本は確かにこの20年以上、経済成長率はあまり高くはないが、決してこの時間を浪費したわけではないようだ。中国では、日本の経済成長が止まったかのように見えたことで安心していたのだろうが、「失われた20年」さえ最大限活用してしまう日本は、やはり恐ろしい国なのかもしれない。【10月15日 Searchina】

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なお、中国人・メディアが頻用する「恐ろしい」という言葉は、“驚嘆すべき”という意味合いが強いとか。

 

また、日本の対外純資産の多さに着目した記事も。

 

****日本の「対外純資産」に驚愕! 海外に「日本をもう1つ」作るつもりか? =中国****

2020年5月に財務省が公表したところによると、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円で、29年連続で世界最大の対外債権国となった。

 

こうした事実を踏まえ、中国メディアの今日頭条はこのほど、「失われた20年は単なるパフォーマンスだったのか」と題する記事を掲載した。日本は海外への投資によって「海外にもう1つの日本を作り出そうとしている」と伝えている。

日本経済はよく「失われた20年」と形容されるが、記事は「日本はこの20年で失ったものもあるが、得たものもある」と指摘。

 

バブル崩壊を機に、貿易立国から投資立国へと転換し、企業には積極的な海外投資を奨励してきたと紹介した。投資先は中国、東南アジア、米国、欧州など様々で、日本は「資産を世界各国に分散させようとしている」のだという。

日本は海外にどれだけの資産を有しているのだろうか。記事は、2019年の対外資産残高は約1098兆円にのぼり、日本の国内総生産(GDP)の約2倍だと紹介。「日本が2つあるようなものだ」といかに海外に投資しているかを伝えている。また、対外負債を差し引いた対外純資産残高は約364兆円だと指摘し、これは2位のドイツの1.2倍、3位の中国の1.5倍に当たると説明した。

こうした海外資産のおかげで日本は豊かさを保っており、国民もその恩恵にあずかり、日本国内にも多くの資産があると主張。

 

実際、金融広報委員会による「家計の金融行動に関する世論調査(2019年)」によると、2人以上世帯の金融資産の平均値は1139万円となっている。そのため記事は、「海外資産の蓄積と個人の金融資産に注目すれば、失われた20年の中でなぜ日本経済の実力と豊かさが先進国の中で上位なのかがよく分かる」と主張した。

いわゆる「失われた20年」の期間、日本がずっと世界最大の対外純資産国の座を維持してきたのは、それだけ「20年間に得てきたものも大きかった」表れと言えるのかもしれない。【10月15日 Searchina】

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こうした日本に対する冷静な分析から、“日本の国力は非常に強い”という見方も。

 

****日本の国力を冷静に考えてみた・・・「非常に強いと思った」=中国メディア****

国際関係において、ある国が持つ様々な力の総体を「国力」と呼ぶが、その定義は様々あって定まっておらず、関係する要素も多くある。中国メディアの百家号は16日、日本と中国の国力の差について分析する記事を掲載した。総合的に見ると日本の国力は非常に強いとしている。

記事がまず比較したのは「軍事面」だ。中国はすでに2隻の空母を就役させているが、日本には「準空母と呼ぶべき艦艇が6隻もある」と主張し、しかも最新の装備を搭載していると指摘。

 

日本は特に対潜水艦能力に優れ、世界一とも言われているほか、通常動力型潜水艦は静かで優秀だと伝えた。また、戦闘機ではF35によって大幅に戦闘能力が向上しており、戦車では90式戦車が非常に優れていたと称賛している。

 

しかも、こうした軍備を民間企業が研究開発し製造できる能力を有していることに「戦時には決して甘く見ることのできない力となる」と論じた。

軍事面以外でも、日本は「教育面」で中国の先を進んでいると記事は分析。日本の教育はアジアでもトップクラスだが、中国の優秀な大学は人材流出が激しいと嘆いている。さらに「科学技術力」でも日本は毎年のようにノーベル賞受賞者を輩出しており、ハイテク分野で日本は「数十年の技術の蓄積により、今でも世界をリードしている」とした。

最後に記事は、ここ数年で中国は「確かに力を付けてきた」としながらも、中国ネット上ではまるで中国が世界一にでもなったかのように思い上がった声が多く見られると指摘。「本当の世界一は自分で吹聴するものではない。自信を持ちつつも差を直視し、幻想を捨てて努力を続け、全体的な実力をさらに上げていくべきだ」と結んだ。

確かに中国では自画自賛の報道が多く、日本を評価して自己過信を戒める記事は珍しいと言えるだろう。このように中国が謙虚な姿勢を見せるようになった時こそ、日本としては真に警戒すべき時なのかもしれない。【10月19日 Searchina】

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日本からすれば、軍事力はもちろん、経済力だけでなく最近では技術力でも日本は中国に置いていかれつつあるのでは・・・という感がありますが。

 

【深まる相互理解は正常な関係構築の第1歩】

対立的に見れば“中国が謙虚な姿勢を見せるようになった時こそ、日本としては真に警戒すべき時”なのかもしれませんが、「真に相互理解に基づく正常な関係が構築できる時」でもあるでしょう。

 

日中関係であまり知られていない側面としては、以下のような面も。

 

****中国が「日本国債」を大量に買い進めている理由=中国メディア*****

ここのところ、中国による日本国債の購入が急増している。2020年4月から7月にかけて、中長期債の買越額が1兆4600億円と、前年同期比3.6倍に膨らんでいるという。

 

7月には2017年1月以来の月間最高記録を更新したほどだ。中国メディアの百家号は15日、「中国はなぜ日本の国債を大量に購入しているのか」と題する記事を掲載した。

中国は、日本国債の購入を増加させている一方で、米国債の保有量を減少させているが、記事は日本国債の購入に「政治的目的」はないと主張し、これまでの米国債への過剰な依頼を見直し「リスクを分散させた」ととらえるほうが正確だと指摘している。

リスクを分散させるには、日本国債は絶好の投資先だという。記事は、日本経済は1990年代中ごろから停滞しているものの、日本国債は安定していたと指摘。利回りがほとんどゼロに近いとはいえ、それでも安全な投資先に変わりはないとした。

また、この時期に日本国債の購入が急増していることについて記事は、「新型コロナウイルスも関係している」と分析。世界的に債権の利回りが低下したことで日本国債が相対的に魅力的になったと主張。日本の名目GDPは、2020年は4.5%減が見込まれているが、2021年には2.5%増と予想されており、この数字は大幅に後退すると思われる米国よりも良いとした。

中国が日本国債を購入しているのはリスク分散という観点もあるだろうが、その背後には米国との対立激化を理由とする米国債の保有量の減少という事実も関係しているのではないだろうか。【10月19日 Searchina】

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中国が日本国債を大量に保有するということは、場合によってはそのことをカードとして使用して日本への圧力をかける・・・といった可能性もありますが、基本的なところで言えば、日本がコケたら中国は大損するという一蓮托生の共存関係が強まると理解すべきでしょう。

 

何よりも、厳しく敵対していたら、国債購入という形で資金提供することもないでしょう。

 

【日本の抱える問題点への指摘も】

単に「日本は“恐ろしい国”だ」という話だけでなく、日本の抱える問題点に関する視線も。

 

****ノーベル賞受賞ならず、日本はなぜこれほど焦っているのか―中国メディア*****

2020年10月19日、環球時報は、今年のノーベル賞の科学系部門で日本人が1人も選ばれなかったことについて「日本はどうしてこんなに焦っているのか」とする評論記事を掲載した。

記事は、2013年にノーベル化学賞を受賞したマイケル・レヴィット氏が「ノーベル賞は、その国が30年、または40年前に何をしていたかを教えてくれる」と語ったことを紹介し、日本が1960年代の高度成長期に研究投資額を大幅に増やすとともに、企業や研究機関の人材を確保すべく理工系学生の拡大計画を打ち出すなどの取り組みを進めてきたことを伝えた。

そして、日本が現在ノーベル賞で見せている「爆発力」の源泉が、知識や人材の長期的な積み重ねと伝承にあるとするとともに、科学者のゆりかごである大学も大きな役割を果たしてきたと解説。

 

特に8人のノーベル賞受賞者を輩出している京都大学は、「自由な学風」と「ナンバーワンよりオンリーワン」という2大ポリシーを持っており、この伝統的な学風が、数多くの創造的な研究を奨励し、ノーベル賞受賞につながる成果を生んできたのだとの見解を示した。

記事はその上で、日本では近年科学分野における憂慮の声が日増しに高まっていると指摘。2017年に英国の雑誌ネイチャーが日本の科学論文数の減少、研究能力の低下を提起したところ、日本国内で大きな反響があり、「科学立国の危機」「ノーベル賞が取れなくなる日本」など強い危機感を示すような報道や書籍をいたるところで見かけるようになったとしている。

また、自然科学系の博士課程生が大幅に減少し、次代を担う研究人材が枯渇状態にあること、海外留学が減り、高等教育が「ガラパゴス化」の危機に瀕していること、さらに長期的な景気低迷により研究費が減少し、基礎研究に投入する資金が不足しているために、国立大学さえもが十分な研究を行えない状況になっているなど、日本の科学研究には問題が山積していることを伝えた。【10月19日 レコードチャイナ】

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まっとうな指摘でしょう。

 

日本を旅行した際、あるいは日本で暮らしてみたときの日本への印象については、相変わらず“清潔だ”“生真面目だ”“細部に配慮が行き届いている”等々の印象が語られていますが、中には以下のような声も。

 

****<ボイス>日本は弱者に冷たい社会になるのか?―入管職員の罵声で感じたこと****

日本で暮らす中国人から、外国人留学生に対する日本人の無理解を嘆く声が出ている。神戸大学の博士課程で日本の古典文学を学んだ張さんは入国管理局で目撃した光景に衝撃を受け、日本には弱者に優しくない社会になってしまう懸念があり、弱者のために声を発する人が見当たらない社会は怖いとSNSに投稿した。

日本は「単純労働者は受け入れない」を建て前としてきた。しかし実際には、いわゆる外国人研修生や留学生などの「外部からの安い労働力」が、日本社会を支える力になっていることは否定できない。

張さんは、「最近は日本のスーパーや飲食店などではベトナム人留学生が頑張っている姿をよく見かけます」と紹介し、中国人留学生も同様だったと指摘。「日本経済を支えている途上国から来た留学生たちを忘れてはならない」と主張した。

張さんだけではない。「中国人留学生は日本社会に貢献してきたはずだ」と考える中国人は多い。本稿筆者も、同様の話をしばしば聞いた。「留学生活を続けるためには、バイトに精を出すしかない。勉強の時間を確保するために睡眠時間を削ることになる」状況になり、「自分は日本に、安い労働力を提供しているだけの存在ではないか」と考え込んでしまったことがあるという中国人もいた。

張さんは最近になり入国管理局で目にした光景で、心を痛めている。ある国の留学生が、留学生ビザの延長は認められたが「資格外活動許可」は与えられなかった、つまりアルバイトが認められないことになったという。張さんによれば、期限内に申請しなかったことが原因であるかもしれないという。

とすれば、本人にも問題があったことになるが、入管職員はその留学生に、アルバイトをしなければ生活できないなら、「母国に帰れ!」と怒鳴ったという。

百歩譲って、その留学生には規則上、“制裁措置”を加えざるをえなかったとしよう。しかし、この発言はひどすぎるのではないか。外国人留学生とは本来、“知日派の卵”であるはずだ。日本や日本社会のすべてを称賛してもらうことは不可能だろう。ただ、日本をよく知る外国人が増えれば、誤解に起因する不毛な対立を少しでも減じることができるのではないか。そのことは日本の国益にもかなうはずだ。外国人留学生に対する心ない罵詈雑言は、そんな芽を摘んでしまう恐れがある。

張さん自身も、「お金がないのに、何で留学?」と言われたことが何度もある。口には出さなかったが、「えっ!? 貧しい人は教育を受ける権利はないの?」と思ったという。

張さんはさらに、「裕福な家に生まれるか、貧しい家に生まれるか」は、自分自身で選べないと指摘。途上国から来た留学生は、自らの努力で現状を変えようとしている称賛すべき存在であるという考えを示した。

張さんはまた、「爆買い」をする外国人観光客を大歓迎する一方で貧しい留学生に冷たいようでは、日本は弱者に優しくない社会になってしまうと懸念している。さらに、弱者のために誰も声を発することのない社会は怖いと主張した。【10月19日 レコードチャイナ】

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多くの問題を抱える中国にそんなこと言われる筋合いはない・・・という議論は今わきに置いて、その指摘するところには耳を傾けるべきことが含まれているかも。

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