孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタンからの米軍撤退を急ぐトランプ大統領 ロシアの報奨金情報への対応がリーク報道

2020-07-02 23:02:37 | アメリカ

(アフガニスタンの駐留米軍を電撃訪問したトランプ氏。2019年11月撮影【6月30日 Newsweek】
大統領がロシア報奨金情報を知っていて対応をとっていなかったとしたら国家への反逆行為ですし、報告書はあがっていたが読んでいなかったとしたら、それも同程度に国家を危険にさらす行為でしょう。)

【不透明な完全撤退への道のり】
トランプ大統領は自身の再選のために「アフガニスタンからの完全撤退」という成果を欲しがっており、一部その方向で動き出してはいますが、今後については不透明です。

一方の当事者であるアフガニスタン政府の内情も不安定ですし、タリバンがアメリカとの合意を守る保証もなく、米国内にも完全撤退への慎重意見があります。

****アフガン早期撤退というトランプの甘い考え****
アフガンでは5月17日、アシュラフ・ガニ大統領と昨年9月の大統領選挙を争った政敵のアブドラ・アブドラ前行政長官が双方で権力を分有する合意文書に署名した。

アブドラにタリバンとの和平交渉の主導権(国家和解高等評議会議長)と内閣の半数を任命する権限を与えることで折り合ったものである。これによって、数ヶ月に及ぶ政治危機に一応の終止符を打った。

タリバンとの和平交渉に臨む政府側の形は整ったが、援助10億ドルの削減を含む米国の強烈な圧力があって成立した妥協であり、双方が何時まで協力関係を続けられるかは不明としか言えないであろう。
 
2月の米国とタリバンとの合意では和平交渉の開始(合意では3月10日が予定されていた)までにタリバン側5,000人、政府側1,000人の捕虜を交換・釈放することとされていた。

これはガニ大統領が渋った挙句、やっと段階的な釈放に動き出したが、その速度は緩慢である上に、タリバンは釈放された捕虜2,710人のうち426人はタリバンでないと主張し、他方、政府は釈放された460人のうちの相当数が政府軍ではないと主張しているようである。
 
しかし、アフガンでは不安定な状況が続いている。5月にカブールで発生した産科病院の襲撃(女性とベビーベッドの赤ん坊が殺害された)はISによるものだと米国は非難している。

また、5月に起こった葬列に対する襲撃は、恐らくタリバンによるものだろうが、それにより24人が死亡した。アルカイダと何らかの関係があると思われる、米本土の米軍基地への銃撃事件も発生している。
 
こうした中、トランプ大統領は現在の駐留兵力9,500人を10月までにゼロにする計画を国防総省に求めている。タリバンとの合意では135日以内(7月中旬まで)に8,600人に削減し、その後の9ヶ月半以内にタリバンがアルカイダなどテロ組織と絶縁することを条件に撤退を完了することとされていた。

トランプが撤退を前倒しして選挙戦で完全撤退を誇りたい希望であることは間違いない。
 
共和党の有力者の1人であるリンゼー・グラム上院議員は5月22日、エスパー国防長官とポンペオ国務長官に書簡を送り、8,600人までの米軍削減は認め得るが、それ以上の削減はアフガニスタンが再び国際テロ組織にとっての聖域となり米国本土に脅威となり得るとして、慎重であるべきだと主張している。

グラムならずとも、アフガニスタンがアルカイダやISの聖域となることを拒否するというタリバンの約束など真面目に受け取り得ない。
 
6月2日、国連安保理の下にあるモニタリング・チームの報告が公表されたが、それには次のような記述がある。

・タリバン、特にハッカニー・ネットワークとアルカイダとの関係は、共に戦った歴史、イデオロギー的な近さ、婚姻関係を通じて密接である。米国との交渉の間、アルカイダと定期的に協議し、彼等との歴史的絆を尊重するという保証を与えた。

・アルカイダは米国とタリバンの合意に前向きに反応し、これはタリバンの大義、ひいては世界的な闘争の勝利だと述べた。

・タリバンの首脳部は、米国との合意の詳細(特にアルカイダやテロの戦闘員との関係を断つというコミットメント)を、部下の反発を怖れて彼等には完全には開示していない。
 
米軍の完全撤退の条件として唯一明確に米タリバン合意に書かれていることは、タリバンがアルカイダなど国際テロ組織と絶縁することである。モニタリング・チームのこの報告の内容が実態ならば、合意の基礎が失われる恐れがある。

にもかかわらず、米軍が前倒しで撤退することが明らかになれば、既に揺らいでいる合意が崩壊しかねない。米軍がいなくなるとなれば、やっと形を成した政府も崩れるのではないかと思われる。【6月22日 WEDGE】
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アフガニスタン政府もタリバンの攻撃が減少していないとして、タリバンの和平への姿勢が偽りであると主張しています。

****1週間のタリバン攻撃で治安要員291人死亡 アフガン政府発表****
アフガニスタンの政府幹部は22日、過去1週間で治安要員少なくとも291人が旧支配勢力タリバンの攻撃を受けて死亡したと明らかにした。
 
国家安全保障会議のジャビド・ファイサル報道官はツイッターで、タリバンは過去1週間に32州で422回攻撃を行い、治安要員291人が死亡、550人が負傷したと発表した。
 
ファイサル報道官は、この1週間は19年に及ぶ紛争の中でも「最悪」なものだったと述べ、「タリバンは暴力を減らすと約束したが、それは無意味であり、彼らの行動は平和に関する発言と一致していない」と非難した。
 
タリバン側はこの政府発表を認めておらず、タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官はAFPに対し、「敵はそのような虚偽の報告をすることで、和平プロセスとアフガン内部での協議を損ねようとしている」「先週は確かにいくつかの攻撃を行ったが、ほとんどが防衛目的だった」と述べた。 【翻訳編集】
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まあ、このあたりはアフガニスタン政府、タリバン双方の利害が絡むところで、真相はよくわかりません。

【撤退を急ぎたいトランプ大統領の足元をすくう新たなロシア報奨金問題 背景には政権内“造反”?】
いずれにしても、トランプ大統領は米軍撤退を加速させ、11月大統領選挙に間に合わせたい考えです。

****さらに4000人超削減方針=アフガン駐留米軍、秋までに****
米CNNテレビは26日、トランプ米政権が今秋までにアフガニスタン駐留米軍をさらに4000人以上削減し、4500人規模にする方針だと報じた。

米国はアフガンの反政府勢力タリバンとの和平合意に基づき、約1万3000人の駐留米軍を約8600人に削減したばかり。トランプ大統領としては米軍撤収を進め、大統領選に向けてアピールしたい考えとみられる。
 
米当局者によると、最終決定は下されていない。ただ、エスパー国防長官が17、18両日に開かれた北大西洋条約機構(NATO)国防相理事会で、アフガンに部隊を派遣している同盟国に削減方針を伝えたという。【6月27日 時事】 
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そんななかで、思いがけないところから撤退を急ぐトランプ大統領の足元をすくうような問題が表面化しています。

ロシアが米兵殺害の報奨金をタリバンに払っているという、事実ならアメリカにとっては看過できない情報をアメリカ情報機関が大統領に報告していたにも関わらず、トランプ大統領はこれに対応してこなかったと米紙ニューヨーク・タイムズが報じています。

トランプ大統領は「報告を受けていない」と否定しています。当然ながらロシア・タリバンもそんな事実はないとしています。

****トランプ氏、米兵殺害にロシアが報酬との報道否定 「報告ない」****
トランプ米大統領は28日、ロシアがアフガニスタンの反政府勢力・タリバン系の武装勢力に対し、アフガン駐留米兵の殺害で報奨金を支払ったという報告は受けていないと述べ、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の報道を否定した。

同紙は26日、大統領が報告を受けたが、対応していないと報じた。

トランプ氏は、ツイッターへの投稿で「ロシアによるアフガン駐留米兵に対するいわゆる攻撃について、私やペンス副大統領、メドウズ大統領首席補佐官は誰からも報告を受けていない。誰もがそれを否定している」などと述べ、同紙に対し情報源を明確にするよう求めた。

NYTによると、米情報当局は欧州での暗殺未遂に関与したロシア軍の情報部隊が、昨年の米兵や同盟国の兵士殺害に報奨金を懸け、タリバン系武装勢力に支払ったみられると結論付けたという。

ホワイトハウスと国家情報長官は27日、この報道を否定。ロシア外務省も否定している。

しかし、NYTはさらに28日、説明を受けた政府当局者の話として、米情報当局とアフガンの特殊作戦部隊が1月、このロシアの計画について上層部に警告していたと報じた。

野党・民主党のペロシ下院議長は、これに関して認識していないとし、議会への説明を求めた。
また、民主党のシューマー上院院内総務は、上院で今週審議する国防関連法案にロシアへの厳しい制裁を盛り込むべきとの考えを示した。

ボルトン前大統領補佐官も、NBCニュースに対し、トランプ氏が報告を受けていないとしたことに驚きを示した。

トランプ氏はその後、28日遅くに「米情報当局からたった今報告があったが、彼らはこの報道を信頼できる情報と考えていない。だから私にも副大統領にも報告しなかったのだ」とツイートした。【6月29日 ロイター】
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トランプ大統領は“文書を読むのが大嫌い”で、ホワイトハウスにあっても殆ど報告書の類に目をとおさないというのは周知のところ。

気に入らない報告を受けると非常に不機嫌になるということも。

仮に、情報機関が報告書を提出していても、“いつものように”読んでいない・・・ということは考えられます。でも、誰もそのことを大統領の耳にいれなかったというのも・・・どうでしょうか? 

また、トランプ大統領の選挙情勢が芳しくないとされるなかで、“ロシア疑惑”の確執もあって大統領との関係があまりよくないとされる米情報機関(そのこと自体が大きな問題ですが)絡みの内部情報が漏れだした意図・背景も注目されるところです。

****政権内に“トランプつぶし”の造反か?ロシアの米兵殺害工作疑惑のリーク****
ロシアによるアフガニスタンでの米兵殺害工作疑惑は米メディアが連日、「報告を受けていなかった」とするトランプ大統領の危機対処能力の欠如を伝え、ホワイトハウス側はメディアへの機密情報の漏洩を「犯罪」と強く非難している。

リークの底流には落ち目の大統領をつぶそうとする情報機関の“影の戦い”があるとの見方も浮上している。

次々に漏洩する機密情報
ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの有力メディアは疑惑の詳しい内容と、トランプ大統領が米兵の生命が奪われたかもしれない情報に、なぜ対処しなかったのかなどについて、総力を挙げて報じている。目立つのは機密情報が次々とリークされている点だ。
 
特に、この問題に火をつけたニューヨーク・タイムズは6月30日付の紙面でも「ロシアから、アフガンの反政府武装組織タリバンの関連組織へ多額の資金が送金されていた」ことを5人の記者の連名による特ダネで伝えた。

事情に精通する3人の米当局者の話として報じられたところによると、米当局者はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が管理している銀行口座からタリバンが関係する口座に多額の資金が送金されたことを示す電子データを傍受した。
 
当局者らによると、この送金は米軍などアフガン駐留国際部隊の兵士をタリバンの関連組織に殺害させるため、ロシアが秘密裏に支払った報奨金、という結論を補強する証拠としている。

2019年の駐留米軍の戦死者は20人に上っているが、この中で米軍や情報当局がGRUの工作で犠牲になったケースとして疑っているのは、同年4月に首都カブール北郊のバグラム空軍基地近くで起きた自爆テロだ。
 
このテロでは米軍のトラックに爆弾車が突っ込み、3人の海兵隊員が死亡した。タリバン側は報奨金を外国の情報機関からもらって米軍を攻撃したことを強く否定しているが、アフガン当局者によると、地元のフリーランスの犯罪者集団が過去、タリバンからカネをもらって攻撃を仕掛けたことがあったという。
 
米、アフガン当局者らによると、米軍とアフガン情報機関が半年ほど前、ロシアの報奨金関連で、北部クンドゥズ州でタリバンと親密な関係にある犯罪集団の拠点を急襲、13人を逮捕した。

彼らはロシアとタリバン関係組織との仲介人グループだった疑いが持たれている。首謀者と見られる2人はロシアとタジキスタンに逃走したが、その1人のカブールの自宅から50万ドルが押収された。ロシアが送金した報奨金の一部だった可能性がある。

トランプ氏への“忖度”
米国で大きな政治問題になっているのは、トランプ大統領がこのロシアの報奨金に関する情報を把握していたかどうかだ。

ニューヨーク・タイムズによると、1人の当局者は今年2月27日の「大統領定期情勢報告」(PDB)の中で、トランプ大統領に報告されていることを明らかにした。他の報道機関は昨年の早い段階のPDBに盛り込まれていたと伝えている。
 
しかし大統領は、ロシアの工作を知りながら手を打たなかったのかという批判が高まる中、「報告は受けていない」と否定、ラトクリフ情報長官も大統領、ペンス副大統領とも報告を受けていないことを確認したと断言した。

本当のところはどうなのか。ワシントン・ポスト紙(6月30日付)はそうした疑問に答えている。
 
トランプ氏は歴代の大統領が毎朝受けてきた世界情勢報告を面倒くさがって週2、3回に減らし、しかも口頭による説明を要求したことは前回の拙稿で指摘した(『トランプ氏の情報嫌いを露呈「米兵殺害にロシアの報奨金」疑惑』)。

だから大統領にとっては、文書に重大な情報が含まれていたとしても、読んでおらず、このため「(口頭による)報告は受けていない」ということになったのではないか、という。だが、大統領として読むべきものを読まない責任は逃れられないだろう。

「情報漏洩は犯罪だ」
より深刻なことは大統領が2017年後半から、ロシア関連の報告を嫌い、時には激怒するようになった。選挙に勝つためロシアと結託したという「ロシア疑惑」を「でっち上げ」と非難していたことが背景にある。

このため、補佐官や情報機関の報告担当者らは、ロシア絡みの説明については大統領の性癖を“忖度”し、口頭ではなく、書面だけの報告にするようになった。現在もこうした状況が続いていると見られている。
 
だが、それにしても今回の一連の報道では機密情報のリークが目立つ。報道の自由の観点からは歓迎すべきことだろうが、ラトクリフ情報長官は先月末、「情報漏洩は犯罪だ」と警告する声明を発表し、政権内部の引き締めを図った。情報機関のリークを毛嫌いする大統領の意向を受けての警告だったと見られている。
 
しかし、米国ウオッチャーの中では、トランプ大統領から軽視され続けてきた情報機関の一部が、再選に黄信号が灯った落ち目の大統領に追い打ちを掛けようと造反しているのではないかとの見方も浮上している。

大統領は就任前、モスクワでのセックススキャンダル情報が流されたことなどについて、情報機関がリークしたとの疑いを強め、不信感を抱いてきた。
 
特にオバマ前政権のブレナン元中央情報局(CIA)長官を「影の政府」の一員として批判し、同氏に与えられていた秘密情報へのアクセス権をはく奪さえした。

2018年、ヘルシンキでプーチン大統領と会談した後、プーチン氏がロシアの米大統領選への介入を否定したことを「信じる」と述べ、米国の各情報機関を仰天させた。ロシアが選挙に介入したことは米情報機関の既定事実であったからだ。
 
トランプ大統領の情報機関軽視はその後も続いてきたが、今回のロシアによる米兵殺害工作疑惑をめぐり、大統領が対応策を取らなかったという失態は安保情報や情報機関を軽んじてきたツケが一気に回ってきた感がある。機密情報の漏洩が連日続いているのもそうした経緯と無縁ではないだろう。
 
4カ月強に迫った次期大統領選の支持率調査で、トランプ大統領が民主党のバイデン前副大統領に大きく後れを取る中、「リークには、これまでの意趣返しに大統領の足を引っ張る思惑が込められているのではないか」(アナリスト)。

身内からの造反が本当だとすれば、大統領の窮地は見た目以上に深まっているのかもしれない。【7月2日 佐々木伸氏(星槎大学大学院教授 WEDGE)】
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そもそも“歴代の大統領が毎朝受けてきた世界情勢報告を面倒くさがって週2、3回に減らし、しかも口頭による説明を要求”“ロシア関連の報告を嫌い、時には激怒するようになった”というあたりで、アメリカ大統領として、世界のリーダーとして、その資質がないと言うべきでしょう。

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