(バイデン氏がジョンソン氏にEU交渉の妥結を要請した。【11月26日 CNN】)
【欧州回帰のバイデン新政権に不安なイギリス】
アメリカ大統領の交代によって国際関係は大きく流れが変わることが予想され、その変化への期待、不安、あるいは、流れをかえさせないために現段階でいろいろと画策する動き(イランの核科学者殺害もそうしたもののひとつか)などが各地で見られます。
トランプ大統領のアメリカ第一主義で、アメリカとの関係に亀裂が生じていた欧州は「期待」組でしょう。
****米EU関係再構築へ方針=「一世代一度の機会」―欧州委****
欧州連合(EU)欧州委員会は2日、今後の対米戦略の方針を発表した。来年1月のバイデン政権発足を米EU関係を再構築する「一世代に一度の機会」と位置付けた。
新型コロナウイルスの対応や気候変動、貿易など「米国第一主義」のトランプ政権下で亀裂が生じた分野での連携を深める。
バイデン氏に出席を要請した来年前半のEU首脳会議で協議するため、来週10、11両日に開く首脳会議での方針承認を目指す。フォンデアライエン欧州委員長は声明で、「協力関係が強固なら、EUと米国は共に強くなれる」と訴えた。【12月3日 時事】
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一方、そのEUから離脱したイギリス・ジョンソン政権は「不安」組でしょうか。
****英米関係に不吉な予兆****
「英国への電話は欧州の中で最後になるだろう」
米次期大統領に就任する見通しのバイデン前副大統領が欧州の首脳と電話で会談した前日の9日。英政府関係者は、バイデン氏が英国の電話会談の順番を後回しにすると予想した。
欧州連合(EU)との関係を重視するバイデン氏が、EUを離脱した英国との関係構築に消極的な姿勢を示すとみられていたためだ。
しかし実際には、バイデン氏は10日の電話会談で、フランスやドイツなどの首脳より先に、ジョンソン英首相と話した。
英メディアは、英国が欧州で最初に選ばれたのは「来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国であるため」などと冷静に受け止めたものの、政府関係者は英国がないがしろにされなかったことに安堵(あんど)したという。
ただ、英政府は会談の数日前に、ジョンソン氏のツイッターに掲載したバイデン氏への祝辞の画像にトランプ米大統領の名前をうっすらと残す失態を犯した。前代未聞のミスに「バイデン新政権との関係悪化の予兆では…」(英米問題の専門家)との声も上がった。
英国とEUの自由貿易協定(FTA)交渉は難航し、決裂すればEU加盟国に経済悪化などの悪影響を与え、バイデン氏が英国に悪印象を持つ可能性も。英米関係の先行きが案じられている。【11月26日 産経】
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ジョンソン首相個人も、ポピュリズム的なトランプ大統領と似たような資質がありますが、その点でもバイデン新大統領とジョソン首相の関係は微妙です。
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不倶戴天の敵であるジョー・バイデン米次期大統領と、ドナルド・トランプ大統領が、滅多にない意見の一致を見だのが、ポリス・ジョンソン英首相の評価だ。
ハイテン氏は「体つきも心根もトランプのクローン」と呼び、大統領は「英国トランプ」と表現した。
もちろん、含意はまるで違う。
バイデン氏の方は、明らかな侮辱の言葉であることから、英国ではジョンソン首相は次期米政権とうまくやっていけるのか」との議論がかまびすしい。【「選択」12月号 “米英の「特別な関係」は終焉へ”】
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そうした個人的シンパシー以上に、EUを飛び出したイギリスにとってアメリカは命綱、そのアメリカが欧州重視(それは、イギリス軽視にも)に傾くとなるとイギリスにとっては一大事です。
【年内で移行期間終了 高まる「合意なし」リスク】
イギリスとEUの自由貿易協定(FTA)をめぐる交渉は、もともと難航必至の案件でしたが、新型コロナの影響で対面での協議もままならない状況で、年内の期限を控えて「合意なし」の可能性も大きくなっています。
****EU、英国との通商交渉に進展 合意なしのリスクも=欧州委員長****
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は25日、英国との通商交渉で「純粋な進展」があったと述べた。
その一方で12月31日の移行期間終了までに自由貿易協定(FTA)を結べないリスクも依然残っているとの認識を示した。
フォンデアライエン氏は欧州議会で「これからの数日間が鍵を握る」と指摘。「EUは英国の合意なき離脱のシナリオに十分な備えができている。だがもちろん合意するほうが望ましい」と語った。
「われわれに残された時間は極めて少ないが、合意に向けて全力で取り組む。創造力を発揮する用意がある。しかし市場の一体性に疑問が生じさせることはしない」と言明した。【11月25日 ロイター】
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国内対応の準備時間を考えると11月中が実質的期限ともいわれていましたが、その期限はもう過ぎています。
“英国のジョンソン首相は10月4日、年末までに自由貿易協定(FTA)など将来関係で欧州連合(EU)と合意することを望んでいるものの、交渉がまとまらなければFTAなしで移行期間を終えるという状況を受け入れる用意があるとの考えを示した”【10月5日 ロイター】と、ジョンソン首相は強気の構えですが、半分は交渉のためのブラフでしょう。半分は本音・・・
合意なしで移行期限終了となった場合、大きな経済混乱が予想されますが、どうせ経済は新型コロナでガタガタになっていますので、この際全部コロナのせいにして・・・という話も囁かれてきました。
【ジョンソン流「英国第1」にバイデン次期大統領が警鐘】
周知のように、ジョンソン首相はEUとの交渉にあたって、それまでのEUとの合意を反故にするというトランプ大統領顔負けの「自国第一」の“禁じ手”で臨んできました。
****ジョンソン流「英国第1」 トランプ氏に魅了?対EU交渉を翻弄****
英国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)交渉が、ジョンソン英首相の行動に翻弄されている。自らが考える国益のためには「国際法違反」もいとわないジョンソン氏の姿勢は、「自国第一」を掲げるトランプ米大統領の影響を受けているとの見方もある。
ジョンソン氏は今月9日、英国がEUから離脱する条件を定めた発効済みの離脱協定について、一部を変更できるとする法案を議会に提出した。
英領北アイルランドの関税手続きをEU規則の下に残す−とした項目を変えられるとの内容だ。英EUのFTA交渉が決裂した場合に、同じ英国内で異なる関税が生じる事態を避けるのが狙いだとされる。
EU側は、離脱時の約束をほごにしようとする英国への法的措置も検討。しかし、ジョンソン政権は「英議会には主権があり、国際条約に違反する法律も可決できる」と開き直った。
ジョンソン氏の強引な手法は、EUとの離脱協定を定めた昨年の交渉でも際立っていた。
昨年7月に首相に就任したジョンソン氏は欧州経済に打撃を与える「合意なき離脱」を辞さない姿勢でEU側を揺さぶり、交渉で譲歩を引き出そうとした。
英国内でも、自身の強硬離脱路線に反発する野党の動きを封じ込めるために議会の休会を断行。野党議員は、民主主義を冒涜(ぼうとく)する「独裁者」だとジョンソン氏を非難した。
ダロック元駐米英国大使は、離脱協定をめぐる法案を提出したジョンソン氏について「(自国の利益を最優先にする)トランプ氏に魅了され、インスピレーションを受けている」と分析する。
欧州の民間シンクタンク「欧州外交評議会」の専門家は、ジョンソン氏にはトランプ氏と同様、能力ではなく、忠誠心に基づいて重要人事を決める傾向があると指摘した。事実、英政府は今月8日、法務当局トップのジョーンズ氏が辞任したと発表したが、同氏が法案に反対したことで解任されたとの見方もある。
ジョンソン氏の対EU方針は、国際秩序の重視を掲げてきた英国の信頼を失墜させる恐れがあり、国内でも反発が高まっている。ジョンソン氏と同じ保守党のハワード元党首は、英国が国際法に違反すれば、ロシアや中国、イランの不当な行為を非難できなくなるとの考えを示した。【9月25日 産経】
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「国際法違反」もいとわない“禁じ手”は、短期的には大きな効果を発揮することもありますが、長期的には信頼を失うという大きな代償を払うことにもなります。
「英領北アイルランドの関税手続きをEU規則の下に残す」とした発効済みの離脱協定内容を変えてしまうと、結果的に北アイルランドとアイルランドの国境でのハードな国境管理が復活することにもなります。
離脱協定で一番問題になった点ですが、それを合意後に反故にしてしますというのは・・・まさにトランプ顔負けです。
ただ、トランプ政権のもとでならともかく、バイデン新政権のもとでは、それは難しいようにも。
バイデン次期大統領は「南北アイルランドの国境を再び閉ざすという考え方は正しくない」と明確に示しています。
これに反する内容を強行すれば、まさにイギリスはアメリカという命綱を失いかねません。
****バイデン氏、ジョンソン氏にEU交渉妥結を要請 アイルランド国境問題で警鐘****
英国と欧州連合(EU)の将来関係をめぐる交渉が大詰めを迎えるなか、バイデン次期米大統領がジョンソン英首相に対し、EU離脱移行期間の終了後をにらんだ貿易協定を締結するよう要請を強めている。
バイデン氏は米デラウェア州で記者団の取材に応じ、ジョンソン氏やアイルランドの首相、フランス政府などと会談したと説明。
EU加盟国であるアイルランドと、英国の一部としてEUから離脱した北アイルランドの間に国境警備を復活させることへの反対を表明した。
バイデン氏は「南北アイルランドの国境を再び閉ざすという考え方は正しくない」と述べ、「国境を開いたままにする」ことが全関係者の責務だとしている。
英国は今年1月31日にEUを離脱し、現在は移行期間にある。移行期間は正式な貿易協定の有無にかかわらず12月31日で終了する。
英国とEUは昨年、アイルランド国境を開いたままにすることを定めた離脱協定案で合意したものの、将来関係を巡る交渉がまとまらなかった場合、厳格な国境管理が復活する可能性がかねて指摘されてきた。
移行期間終了後に国境施設が荒らされたり、税関職員が襲撃を受けたりする事態となれば、国境警備を導入する必要性が出てくる。そうなれば、30年あまりで3500人以上の犠牲者を出した宗派紛争に後戻りしかねないとの懸念が根強い。
アイランド紛争に一応の終止符を打った1998年の「グッドフライデー合意」の交渉では、クリントン元大統領を含め民主・共和両党の米大統領が大きな役割を果たした。
バイデン氏も以前からこの問題に言及し、9月にはツイッターで「北アイルランドに和平をもたらしたグッドフライデー合意を英EU離脱の犠牲にするわけにはいかない」と述べていた。【11月26日 CNN】
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【アメリカ・民主党にとって、アイルランド問題はほとんど国内問題に等しい】
アメリカ・バイデン新政権がアイルランド紛争に“一応”の終止符を打った1998年の「グッドフライデー合意」になぜそこまでこだわるのか?
それは、アイルランド紛争の問題はアメリカにとって「国内問題」だからだとの指摘が。
なるほど、そういう事情ですね。
****米英の「特別な関係」は終焉へ****
(中略)
昨年七月のジョンソン政権誕生以来、首相官邸を牛耳ってきたドミニク・カミングス氏が、段ボール箱を抱えて、憮然たる表情で表玄関から出てきた。同氏は、首相にとって絶対的知恵袋で、欧州連合(EU)からの離脱に大きな貢献をした。その人物が白昼、首相から解任を告げられた。
根深いアイルランド問題
英政治の大ニュースである。官邸筋は匿名で記者たちに、「人事問題を巡り首相とカミングス氏の間で、対立があった」と説明した。
翌日の保守系各紙は、官邸内の人間関係を詳細に伝えた。「それは話のすべてではない」と言っのは、保守党系の政治コンサルタントだ。
「首相とカミングス氏は、今年末に、EU離脱への移行期間が切れた後には、『合意なき離脱』で押し切ろうとした。米民主党からは、『それは認められない』という強い警告が出ていた。ハイテン氏当選で、首相のシナリオ修正が不可避になり、カミングス氏を切った」
英国のEU離脱に、なぜ米国の民主党がかかわるのか。
要約すれば、「介意なき離脱」が、北アイルランド和平に関する「聖金曜日合意」(一九九九年発効)を侵害するからだ。
和平合意では、南北アイルランド間の検問撤廃が明記されている。もし英国・EU問に条約がなくなると、「開かれた国境」の保障が消えてしまう。
アイルランド人は、南北アイルランドに五百八十万人しかいないのに、米国のアイルランド系は三千三百万~四千万人と推計される。
バイデン氏はその代表格だ。民主党が強いニューヨーク、カリフォルニア両州などに多く、民主党にとって、アイルランド問題はほとんど、国内問題に等しい。和平合意にも深くかかわった。
ジョンソン首相は慌てた。バイデン当選が確実になるや否や、祝意をツイードした。外国首脳としての電話会談も、十目に「一番乗り」を果たした。
一方のハバイデン氏は、まるで首相にメッセージを送るかのように、同日中にアイルランドのミホル・マーティン首相とも電話会談した。カミングス氏の解任はこの三日後だった。
首相は、EU離脱後の切り札として、中国との経済関係強化というシナリオを考えた。これは、米中対立で既に行き詰まっているが、次期政権が対中強硬路線を引き継げば、全面的再考を迫られる。(中略)
こんな状態では、有識者層やメディアから、米英の「特別な関係」を危ぶむ声が出るのも当然だろう。
ここでは、国務省勤務もある米政治学者、チャールズ・カプチャン氏が、英ラジオ局「タイムズ・レイディオ」に語った言葉を引用しよう。ハイテン陣営にかかわりが深い人物だ。
同氏は、「特別な関係は続く」とさらりと述べた後、「昔からの心安らぐ友情だが、大した役に立だない関係という以上に、何か発展するのか」と続けた。それは定かではない、と言うのである。すでに「歴史用語」ということだ。
【「選択」12月号】
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【行き詰ったら解散・総選挙?】
北アイルランドに関する「国際法違反」も封じられ、中国との関係強化もままならず、アメリカとの「特別な関係」にもあまり期待できず、自由貿易協定(FTA)なしの離脱という状況になれば、イギリス・ジョンソン首相にとってはかなり厳しい環境にもなります。(そのリスクは当初から予想されていたことではありますが)
残されたひと月弱で急転直下の合意・・・という話があるのでしょうか?
いよいよ行き詰ったら「解散・総選挙」でしょうか。従来は難しい選択肢でしたが、そこに道を開くようです。
****英首相の下院解散権の制限廃止、法案を公表…ジョンソン氏の求心力高める狙い****
英政府は1日、首相の下院解散権を制限する議会任期固定法の廃止を目的とする法案を公表した。欧州連合(EU)離脱を巡る混乱で行政府の権能低下が露呈したことを受け、ジョンソン首相の求心力を高める狙いだ。
任期固定法は下院任期を5年に固定する。任期途中の解散は〈1〉下院議員の3分の2が要求する〈2〉内閣不信任決議後14日以内に新内閣が発足しない――のいずれかの条件を満たさない限り、不可能だ。
今回の廃止法案は、これを首相の判断で解散できるようにする内容だ。
背景には、テリーザ・メイ前首相が2018〜19年にEU離脱協定案を巡り、与野党双方の反対を受けて政権運営に行き詰まった実例がある。メイ氏は下院解散で民意を問うことができず、辞任に追い込まれた。
ジョンソン氏は昨年7月に首相に就任した。議会任期固定法の例外として、総選挙実施のための特別法を成立させ、昨年12月の総選挙に踏み切っていた。【12月3日 読売】
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解散・総選挙となれば、決め手は「過去の終わったこと」のEU離脱関係ではなく、今の新型コロナでしょう。
ワクチン実用化に一番乗りを目指すのも、「実績」確保のためか?
(ワクチン投与開始はすぐれて政治マター。トランプ大統領はイギリスに先を越されまいとして保健当局に「圧力」をかけたようですが・・・)
“「来週から英史上最大のワクチン接種計画を開始」ジョンソン首相が宣言”【12月3日 産経】