孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中南米 貧困層に感染拡大 貧困率は更に上昇 エクアドルでは貧困地区に医療スタッフが入り沈静化

2020-07-03 23:03:09 | ラテンアメリカ

(エクアドル・グアヤス県ダウレに設置された消毒用トンネル(5月12日)【7月2日 WSJ】)

 

【貧困が故の感染拡大、その結果、貧困率は更に上昇】
新型コロナ感染の中心地は、中国、欧米など刻々と全世界を動いていますが、現在は地域としては中南米が深刻な状況にあります。(国単位では、13億人のインドも懸念される状況ですが)

“ペルー7番目、チリ9番目=感染者数ワースト10に南米3カ国―新型コロナ”【6月18日 時事】
言うまでもないので見出しでは省略されていますが、ブラジルが世界2番目です。

“中南米の新型コロナ死者が10万人突破、メキシコとブラジルが深刻”【6月24日 ロイター】
深刻なのは、ブラジル・メキシコに限らず、上記のペルー、チリの他、エクアドル、コロンビア、アルゼンチンも 要するに中南米のほとんどの国です

“中南米のコロナ感染者、1カ月で3倍 WHO地域事務所”【6月25日 CNN】
カリブ海諸国ではハイチとドミニカ共和国の国境周辺が多発地帯となっています。

“ペルーのコロナ死者、1万人超える 外出・移動制限解除したばかり”【7月3日 AFP】

ブラジルなど感染が拡大する中南米諸国に共通するのは、三密が避けられない居住環境に暮らし、リスクがあっても働かざるを得ない貧困層を中心にした感染拡大であり、経済的にも失業という形でその貧困層がコロナ禍の最大の犠牲者となっていることです

****コロナ禍が打ちのめす中南米、貧困国への警鐘****
新たな中心地となったブラジルやメキシコ、他の途上国が追随の懸念も

5月初旬、新型コロナウイルスはブラジル有数のスラム街ロシーニャのアレイ24にひしめく家々を襲った。
イバネテ・ディアス・デ・カルバリョさんの親族35人のうち20人に、新型コロナウイルス感染症の症状が出た。検査を受けられた者はほとんどおらず、65歳のおばは亡くなった。

感染は拡大している。リオ全体で公式な死者数は6000人に近づいている。人口2億1000万人のブラジル全体の死者数は5万1000人超、感染者は110万人に達した。これを上回るのは米国だけだ。実際の死者数が公式統計よりはるかに多いのは確実だと公衆衛生の専門家らは話している。

中南米はコロナの世界的大流行の新たな中心地で、200万人超が感染し、10万人が死亡している。この地域が世界人口に占める割合は8%だが、過去2週間に記録されたコロナ死亡者の47%を占めている。

感染症専門家は、先進国の多くで死者が減るなか、インドや他の途上国が中南米に続くのではないかと懸念している。

貧困国では経済の犠牲も大きい。特に中南米のような地域では、貧困率は大幅に上昇し、過去20年間に得た社会的な進歩も後退している。

メキシコの貧困対策機関は、6月末までに最大1000万人が貧困層に転落すると予想している。ペルーの中銀は年内に250万人が貧困層入りすると見込んでいる。

コロナは多くの貧困国の弱さにつけ込んでいる。衛生状態が厳しく、人が密集しているかいわいで急速に広まっている。日雇い労働者や裏社会で働いている者は、家族を食べさせるためには家に引きこもっていられない。

それに加え、中南米では政府への不信感がまん延しており、多く人がコロナの危険に関する公式な警告を疑い、病院を避けている。

一部の先進国と違い、検査はあまり行われず、病院の対応はまちまちで治療を受けることも難しい。アワ・ワールド・イン・データによると、メキシコは主要国でもっとも検査率が低く、1000人に対して3.3件だ。コロンビアは12.2件、アルゼンチンは6.5件となっている。これに対し、米国は83件だ。

被害の大きいエクアドルのレニン・モレノ大統領は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのビデオ会議によるインタビューで、コロナによる被害は戦争よりひどいと述べた。「戦争ならどこかに逃げられるが、ここではどこにも逃げられない」

コロナは中南米の2つの大国、ブラジルとメキシコに大打撃を与えた。いずれの大統領――ブラジルのジャイル・ボルソナロ氏とメキシコのマヌエル・ロペスオブラドール氏――とも、ウイルスの危険性にとりあわず、科学的なアドバイスに疑問を呈し、経済再開を押し進めた。

公衆衛生専門家によると、彼らののんびりしたアプローチは市民を混乱させ、一部が自己隔離に走ったのに対し、一部はウイルス流行がないかのような生活を送っている。

ボルソナロ大統領は自身のやり方を正当化し、人命に値段はつけられないが経済と雇用を通常に戻さなければならないと述べている。ロペスオブラドール大統領は、自身の政府が「コロナの流行をてなずけた」と繰り返している。

急斜面にひしめく軽量コンクリートの家に10万人が住むここロシーニャでは、家は小さく、多くの住民はその日暮らしだ。

おばを亡くしたデ・カルバリョさんは、コロナがロシーニャに来たら自分や親せきには身を守るすべがないと何カ月も心配していたと述べた。親族の中で初めにマスクを使い始めた時、「狂っていると思われた」という。

ブラジルでは通常、1日に1000人を超える死者が出る。政府の統計によると、コロナの検査で過去1週間では平均1日平均3万1000人に陽性反応が出た。

ブラジルの複数の大学の予想によると、ブラジルの合計死者数は夏の間に米国を抜く見通しだ。米ワシントン大学は、8月初旬までのブラジルの死者数を16万5960人、米国については14万5728人と見込んでいる。【6月26日 WSJ】
********************

【階層社会ブラジル 下層階級は自粛もできず、医療資源も貧弱】
夏にはアメリカを抜いて世界第1位の感染国になると言われるブラジルでは、自粛に反対するボルソナロ大統領の“とんでもない”発言がよく話題になりますが、ただ、自粛ができるのは上流階級・中産層であり、下層階級の貧困層は働かないと生きていけないということで、大統領の自粛反対を支持しているとも言われます。

また、そもそも、狭い家に大家族が自粛したら、そこで三密が発生してしまいます。

****感染爆発ブラジル スラムで見た「超濃厚接触」の不可避****
南米で新型コロナウイルスの感染者数が急増しています。中でもブラジルはアメリカに次ぐ世界2位で、確認した感染者の数が1日あたり3万人を超えることも。しかし、これも氷山の一角でしかない可能性があるといいます。サンパウロ支局の岡田玄記者に聞きました。

Q なぜ感染者数が急激に拡大したんですか。
A 局面によって違いますが、初期には「金持ちの病気で貧者が死ぬ」と言われました。ブラジル以外の中南米の国々でも同じ言葉が使われています。
 
ブラジルの場合、最初に感染が発覚したのは2月26日、イタリア北部から帰国した人でした。有名なカーニバルの時期なんですが、富裕層は海外旅行でバカンスに出かけます。人気の旅行先がアメリカやヨーロッパ。その後も、旅行帰りの人から感染が相次いで確認されました。
 
ところが、最初の死者は所得の低い人たちから出ました。富裕層の暮らしは、家政婦やマンションの守衛が支えています。こうした職業の人でした。
 
外出自粛が始まると、ここぞとばかりに普段できない修理や、巣ごもりに備えたインターネット開通などの工事も増えました。作業員にも貧困層の人たちが少なくありません。富裕層と接触し、感染が拡大したようです。今は都市の郊外に広がる「ファベーラ」と呼ばれるスラムで、爆発的に広がっていると言われています。
 
もはや感染経路を追えていないので、よくわからない部分もあります。ですが、死亡率は黒人の方が白人より高く、ファベーラのある行政区ほど感染者の割合が高いというデータはあります。

主に貧困層が使う無料の公立病院はベッドがいっぱいで、集中治療室が空くのを常に35人ほどが待っているという地域もあります。

Q 黒人の死亡率が高いということですが、そもそもブラジルの人種構成はどうなっているんですか?
A まず先住民がいました。そこへ大航海時代の1500年にポルトガル人がやってきて、植民地として支配が始まります。国名の由来となる「ブラジルの木」という染料の伐採が始まり、その後、さとうきび農園で働かせるためにアフリカから黒人奴隷が大量に連れてこられました。さらに、有名なコーヒーや綿なども作られます。アメリカ大陸で一番遅くまで奴隷制がありました。
 
奴隷制が廃止されると、ヨーロッパから移民を入れて労働力とします。1908年には日本から移民が始まりました。他にもアジアや中東、東欧など各地から人が集まり、混血が進んだのが今のブラジルです。人種が混交してできた国で、人種差別がないというのが一種の「神話」としてありました。独裁政権がつくったんですが。
 
しかし、現実には、白人は白人同士で結婚するケースが多いと言われます。定住した地域が集中していることも理由ですが、社会階層の違いが大きいと思います。
 
人種は自己申告なので注意は必要ですが、前回2010年の国勢調査では40%強の人が自分を白人、8%が黒人だと答えました。およそ4割は自らを白人や黒人、先住民など複数のルーツを持つ「褐色」と定義しています。

Q 黒人は貧困層に多いんですか。
A そうですね。ブラジルや中南米では、上流階級や中間層、下層階級という社会階層を表す言葉をよく使います。ざっくり言うと、上流は働かなくても食べていけるエリート層、中流は給料の多い少ないはありますが、働けば食べていける人、下層階級は働いても食べていけない人という感じです。

1960年代半ばの研究ではありますが、上流階級はほぼ白人でした。一方、下層階級には白人も黒人もいて、割合は褐色が多いです。しかし、黒人という枠で見ると貧困層の割合が圧倒的に多いんです。

発表から半世紀たっていますが、実感として傾向はほとんど変わっていません。この階層が教育機会や就ける職業、給料だけでなく、受けられる医療にも影響します。
 
ブラジルには大きく分けて2種類の医療保健制度があります。一つはすべての人が無料で使える公立の統合医療システム、SUS。全土に張り巡らされ、外国人も含めて無料です。

ただし、ふだんから設備もベッドも薬も足りず、平均的には医療水準も高くありません。高度な医療も受けられはするのですが、キャパが少ない。貧困層がかかるのはこちらです。
 
もう一つが私立の病院やクリニックです。民間の医療保険を使うか、自費で全額を支払います。水準は値段次第で、ピンキリですが、SUSよりは良い。何より何日も待たずに受診できます。
 
(中略)でも、お金がかかる。民間の医療保険を支払える中産階級以上が使います。高度な医療を受けられる病院は、ほぼ大都市にしかありません。

トップクラスの病院を使えるのは、ブラジル人の3%だけと言われています。
 
サンパウロでは、有名な私立の病院は3~4月にかけて、ベッドも集中治療室もかなり埋まっていたそうです。ところが、4月末には余裕が出ていたとのこと。話を聞いた医師は「サンパウロの富裕層の感染ピークは終わった」とさえ言っていました。

しかし、ブラジルで1日の感染者数が初めて5千人を超えたのが4月25日。5月6日に1万人、5月22日に2万人を超え、5月30日には3万人を超えます。患者は増えたが、私立病院には余裕がある。私立の病院を使えない層、つまり貧困層に感染が広がったことがわかります。(中略)
 
Q なぜ広がってしまったんでしょうか。
A 3月の終わりごろ、ファベーラに取材に行きました。サンパウロ州は3月24日に外出の自粛を始めていて、ビジネス街はこの2週間ほど前から人通りがほとんどありませんでした。スーパーなどでは床に1、2メートルごとにテープを貼って、距離を保っていました。レストランも閉まり、配達だけです。
 
ところがファベーラはほとんど誰もマスクをせず、普通に外を出歩き、そこらでおしゃべりもしていました。雑貨店など店舗も開いている。公有地を勝手に占拠してできた地区がほとんどなので、まず道がすごく狭い。そこに人があふれている。
 
ブラジルは「超濃厚接触社会」で、あいさつはがっちり握手が基本です。親愛の情を示すハグ「アブラッソ」も当たり前。女性や子ども相手、あるいは女性同士だと、ほおとほおをあわせる「ベイジョ」もします。中心市街地では、おじぎしたり手を上げたりと習慣を変えつつありますが、ファベーラはいつも通りの様子でした。
 
感染予防の情報が伝わらなかったのも理由です。字が読めない人もおり、動画や音声を使うなど医師が工夫をしていました。住民団体も呼びかけをしていましたね。
 
ところが、後からファベーラの住人に電話で話を聞くと、まず「家が狭い」。一つの家に住む人の数も多いので、風通しの良い外の方が安全だというんですね。

Q 至近距離にいれば同じことでは。
A 私もそう思うんですが、公園などは封鎖されていて、他に行き場がないのは確かです。働かないと食べていけないという事情もあります。
 
たとえば、最近サンパウロでは布マスクをよく見るようになりました。これをつくっているのが彼らで、地下鉄の出口や車の信号待ちに売りに来るのも彼ら。
 
そのほかにも、今はネットで何でも手に入りますが、配達するのが彼らです。バイク1台で始められるし、中にはレンタル自転車でやっている人もいます。失業世帯には最大2万4千円を3カ月、国から緊急支援として払いますが、それでは足りません。稼ぐためには外に出ざるを得ない。

Q それでは感染が広がるわけですね。
A テレワーク、こちらではホームオフィスと呼びますが、その導入も確かに進んでいます。ただ、できるのは中間層の上位からがほとんど。高等教育を受け、労働法で守られる正規の労働契約があり、自宅にネットを引けるような人たちだけです。
 
金持ちによっては、外出を避けるために、買い物や犬の散歩すら人に任せていました。(中略)

既に感染者数も死者数も世界で2番目に多い数字になっていますが、実際の感染者数はこの数倍いると指摘する専門家もいます。検査は増えていますがまったく追いついていない状況です。死者もまだまだ増えると言われています。【6月30日 朝日】
**********************

【エクアドル 密集度の高い貧困層居住区に医療関係者が進んで足を踏み入れたことで、感染沈静化】
一方、エクアドルはコロナは沈静化したようです。
感染拡大の初期、エクアドルの商業都市のグアヤキルは、増大する死者の埋葬が追い付かず、街に死体が放置されているということで、南米での感染拡大を象徴する都市でした。

今は様変わりしたとか。

****コロナ迎え撃った人々、エクアドルの逆転劇 *****
最大都市グアヤキルの闘いは、ある男性のウイルス追跡から始まった 
 
南米エクアドル最大の都市グアヤキルは3月下旬、新型コロナウイルス感染拡大によって世界にその惨状が伝えられるほどの打撃を受けた。医療現場は崩壊し、市民は愛する家族の亡きがらを、時には照りつける太陽の下に何日も放置せざるを得なかった。
 
都市設計者のエクトル・ウーゴ氏(32)が新型コロナを追跡するマップを作り始めたのはその頃だ。同氏は保健省のデータを利用して呼吸器症状で病院を受診した患者の住所を突き止め、偶然見つけた緊急通報(911)の記録から呼吸困難に陥った人々の情報を集めた。
 
同氏はこれらのデータをマップに入力し、市内で最もコロナがまん延する地区を特定。次にウイルスが広がる場所を予想した。
 
「目に見えない無言の敵がこの都市に忍び寄っていた」とウーゴ氏は言う。「敵を可視化するメカニズムがわれわれには必要だった」
 
ウーゴ氏のデータ収集をきっかけに、地元の医師やビジネスリーダー、政府が手を携えて感染症流行に立ち向かう態勢が整い、これが人口300万人の港湾都市が見事な形勢逆転を果たす口火となった。

成功の鍵は、患者が病院に来るのを待つのではなく、最も打撃の大きい地区に医療チームを送り込むという先手必勝の対策だった。
 
グアヤキルは今や、悲惨なニュースの見出しからサクセスストーリーへと転じた。同市が位置するグアヤス県は、感染のピークにあった4月4日には778人が死亡。普段の1日当たり死者数の約10倍に達した。これが6月には1日当たり60人前後に落ち着き、新型コロナが原因で死亡した人はごく少数だった。
 
「われわれは(ウイルスを)抑え込んだ」。エクアドルのレニン・モレノ大統領は6月初め、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)にこう語った。「あの災害は恐るべき方法でわれわれに不意打ちを食らわした。戦争より悲惨だった」

グアヤキルの人々はこの経験が世界中の貧困国に重要な教訓を示すと考えている。決定的だったのは、発展途上地域の至る所にある、密集度の高い貧困層居住区に医療関係者が進んで足を踏み入れたことだ。

グアヤキルのシンシア・ビテリ市長はこう話す。市長自身もコロナに感染し、3週間隔離された。市長の夫も感染した。「緊急治療室の入り口に彼らが来るのを待たないこと。それが命を救う唯一の方法だ」と市長は述べた。
 
医療チームはウーゴ氏のデータをもとに被害の大きい地区に出掛け、感染者を探した。また地元で調達したマスクや食料を配布し、時に疑わしい目を向ける住民に対し、手洗いやソーシャルディスタンシングといった感染予防の基本を教えた。(後略)【7月2日 WSJ】
**********************

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アフガニスタンからの米軍撤... | トップ | 原子力関連施設に関する最近... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ラテンアメリカ」カテゴリの最新記事