孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナによる経済混乱に拍車をかける東アフリカなどのバッタ「蝗害」 深刻な食糧危機に

2020-05-25 23:10:33 | 食糧・飢餓

(【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【バッタ「第2波」 より大規模に】
「第2波」襲来といえば新型コロナの話のようですが、今回は「バッタ」の話。

東アフリカを中心とするサバクトビバッタ大発生の「蝗害」については、以前も取り上げたことがあります。
(3月8日ブログ“バッタによる「蝗害」 東アフリカから南アジアに拡大 70年に一度の危機 コロナとバッタで混乱拡大”)

数千万匹~数百億匹ものバッタの「蝗害」は、全ての作物を食べつくして人々を飢餓に追いやる、新型コロナ以上の脅威となります。2019年後半から年初の「第1波」に続いて、当時からすでに予想されていたように、今「第2波」が起きています。しかもより大規模に。

****アフリカでバッタ大量発生の第2波、食料不足の危機****
「この…大群は…恐ろしい」
 
アルバート・レマスラニ氏は4月、アフリカ、ケニア北部で息を弾ませながらこう言った。レマスラニ氏は自身を撮影した動画のなかで、サバクトビバッタの群れをはたきながら歩いている。体長5センチ余りのサバクトビバッタは厚い雲のように同氏を取り囲み、1万組のトランプが一斉に切られているかのような羽音を立てる。

「数百万匹はいます。あちこちで…食べています…悪夢が現実になったような光景です」。レマスラニ氏はうめくように語った。

最大2500万人が食料不足に
レマスラニ氏(40)はケニア中部の村オルドニイロに家族と暮らし、ヤギの世話をしている。ヤギたちは低木や高木を食べて生きている。

レマスラニ氏は地元の言い伝えでしかサバクトビバッタを知らなかった。ところが2020年、食欲旺盛なサバクトビバッタの大群が数十年来の規模で東アフリカに押し寄せた。
 
サバクトビバッタは底なし沼のような食欲の持ち主で、農業に壊滅的な被害をもたらす恐れがある。成虫は自身の体重と同じ量の植物を1日で食べることができる。サバクトビバッタの体重は約2グラムだ。

群れはニューヨークを埋め尽くしても余りある規模の700億匹に達することもあり、その場合、約13万6000トンもの作物が1日で失われる計算になる。もっと小さな4000万匹の群れでも、3万5000人分の1日の食料に匹敵する量の植物を1日で食べてしまう。
 
今回の大量発生は、エチオピアとソマリアでは過去25年、ケニアでは過去70年で最悪の規模となっている。

一帯は作物の生育期を迎えており、新型コロナウイルスの影響で対策が難航している間に、サバクトビバッタの群れは増殖している。国連食糧農業機関(FAO)は、東アフリカの最大2500万人が2020年、食料不足に見舞われると試算している。
 
FAOによれば、エチオピア、ケニア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの約1300万人がすでに「深刻な食料不安」に陥っているという。深刻な食料不安とは、丸1日何も食べられないか、食料が底を突いている状況のことだ。
 
レマスラニ氏は「私たちは将来の心配をしています。このような大群が押し寄せれば、家畜を食べさせることができなくなるためです」と語る。農業従事者は作物の心配もしている。「神がバッタを消し去ってくれるよう、私たちは祈りをささげています。新型コロナウイルス感染症と同じくらい恐ろしい存在です」

群生タイプに「変身」 
サバクトビバッタは湿った場所に産卵するため、乾燥地域に大雨が降ると大発生する。植物が近くにある砂地に産卵すれば、幼虫は羽が生え餌を求めて飛び立つまで、そこで生き延びることができる。
 
サバクトビバッタは通常、分散する空間があれば、互いを積極的に避ける。しかし、環境が良好な場合、個体数は3カ月ごとに20倍まで増える。個体数の急増によって密度が高まると、ある行動の変化が誘発される。「孤独相」から社会的な「群生相」に変わり、大群を形成するのだ。(中略)

近年、繁殖と移動の条件はただ良好なだけではない。まさに理想的な条件だ。2018年から2019年にかけて、海水温の異常な上昇と関連づけられているサイクロンがインド洋から次々と上陸し、「何もない一角」と呼ばれるアラビア半島の砂漠が水浸しになった。その後、サバクトビバッタが急増した。(中略) 

2019年6月までに、サバクトビバッタの大群は移動し、紅海を渡ってエチオピアとソマリアに到達。そして、10〜12月に東アフリカで降り続けた異常な大雨に助けられ、南のケニア、ウガンダ、タンザニアまで拡大した。
 
バッタたちが東アフリカに上陸してからは良好な繁殖条件が続いているため、群れはその規模を拡大し続けている。FAOで東アフリカの回復チームを率いるシリル・フェランド氏は「20倍かどうかはわかりませんが、(個体群は)はるかに大きくなっています」と話す。FAOは、サバクトビバッタの状況を世界規模で監視している。 
 
2019年後半、サバクトビバッタの第1波が到来したとき、ほとんどの作物は成熟期に達していたか収穫後だった。しかし、第1波より大規模な現在の「第2世代」は、何よりタイミングが気掛かりだ。 
 
東アフリカでは、主要な作物の生育期が3月中旬ごろに始まる。この時期はバッタの攻撃を特に受けやすいと、慈善団体ファーム・アフリカで農業技術の責任者を務めるアナスタシア・ムバティア氏は言う。「(バッタに)新芽を食べられたら、作物は生育できません。種をもう一度まくしかありません」。しかし、生育に最適な天候はもう終わっているため、2度目の栽培は失敗する可能性が高い。
 
殺虫剤の散布も困難 
バッタの爆発的な増加を食い止めるため、政府はしばしば空中あるいは地上から殺虫剤を散布する。しかし、FAOのフェランド氏は、新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しいと述べている。

「供給の遅延が発生しています。航空便が世界規模で減少しているため、今は(殺虫剤の在庫)管理が通常と全く違う状況になっています」 

 バッタの大発生をあまり経験したことがないケニアのような場所では、殺虫剤をどこに散布すべきかの判断がさらに難しくなっている。バッタの飛行パターンは主に風によって決まり、1日に約130キロの距離を移動することもある(1988年には、サバクトビバッタがわずか10日間で西アフリカからカリブ海に到達している)。 
 
長距離を高速で移動するバッタの群れを追跡するため、FAOは現地に暮らす人々からの情報を頼りにしている。レマスラニ氏も情報提供者の一人で、1月に自らバッタの大群の追跡を開始した。 

レマスラニ氏は広範な人脈を活用し、バッタの群れを見かけた人から電話をもらうようにしている。電話を受けたらバイクタクシーに乗って群れがいる場所に急行、eLocust3mというモバイルアプリに座標を入力している。

eLocust3mは米ペンシルベニア州立大学のプラントビレッジ・プログラムを主催するデイビッド・ヒューズ氏らがFAOの依頼で開発したアプリ。追跡データは政府と共有され、政府が最善策を判断することになる。(後略)【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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【新型コロナ重複で対応はより困難に】
新型コロナ禍と重なったことで、国際支援も滞っています。

“今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。 
 
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。 
 
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる ” 【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

そうした状況に加えて、物理的にも物資輸送がストップする状況で、上記のように“新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しい”事態にもなっています。

【「新型コロナ」「蝗害」で深刻な食糧危機に 「ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ」】
被害は作物を食い荒らされる農家だけの問題ではありません。

農産物供給が減少すれば食糧価格は上昇し、多くの人々が十分な食料を入手することができなくなり「飢餓」が発生します。

更に、新型コロナの感染拡大による経済活動停滞が、こうした食料危機を更に深刻化させることも容易に想像できます。

もともとある貧困、そこにのしかかる新型コロナによる経済混乱、更に東アフリカなどではバッタの「蝗害」も・・・ということで、“ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ”ことも危惧されています。


****食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か WFPが警鐘****
新型コロナウイルスの感染拡大により、最低限の食料の入手さえ困難になる人が今年は世界で倍増し、2億6500万人に上る可能性がある。国連世界食糧計画(WFP)が21日、そんな内容の報告書を発表した。ビーズリーWFP事務局長は「飢餓パンデミックの瀬戸際にいる」と警鐘を鳴らす。
 
WFPなどが公表した「食料危機に関するグローバル報告書」によると、2019年は、55カ国・地域の1億3500万人が深刻な食料危機に陥っていた。主な理由は紛争(7700万人)や天候(3400万人)、経済危機(2400万人)だった。地域別ではアフリカ(7300万人)、中東・アジア(4300万人)が特に多かった。
 
今年は新型コロナの感染拡大によって各地で経済活動が停滞しており、深刻な食料危機に苦しむ人の激増につながることが懸念されているという。
 
エチオピアやソマリア、ケニアなどの東アフリカ諸国では最近、サバクトビバッタの大量発生により、作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
 
21日に国連安全保障理事会の会合に出席したビーズリー氏は「我々が直面しているのは世界規模の健康被害だけでなく、人道的な大惨事だ。ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬという現実的な危険性がある」と指摘。

安保理がリードする形での停戦の実現のほか、世界各地で1億人に食料や個人用防護具を配布しているWFPへの支援を訴えた。 【4月23日 朝日】
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“安保理がリードする形で”・・・とてもそんな状況にないのは周知のところ。世界をリードすべき米中両国は非難の応酬、責任のなすり合いに終始しており、救済どころではないようです。

バッタの問題はアフリカだけではありません。
バッタは海を越えて移動しますので、パキスタン・インドの南アジアに、更には中国にも。

****アフリカでバッタの大群第2波発生、中国も警戒―仏メディア****
2020年4月29日、仏国際放送局RFIは、東アフリカ地域で大量のバッタが農作物を食い荒らす被害の第2波が発生しており、中国政府も警戒を強めていることを報じた。(中略) 

そして、中国農業科学院植物保護研究所の張沢華(ジャン・ザーホア)研究員が「6月ごろに中国大陸もバッタの高リスク期に入る」との見方を示したことを紹介した上で、国家発展改革委員会、農業農村部、国家糧食・物資儲蓄局など11部門が先日連名で今年の食糧安全性確保に関する通知を出し、新型コロナウイルスの影響で食糧供給が滞り、社会の安定が揺らぐことのないようにするため5つの「重点任務」を打ち出したとしている。 

記事によれば、5つの重点任務は、食糧生産の総合能力強化、栽培面積と生産量の基本的な安定確保、食糧備蓄の安全管理強化、食糧の市場や流通の管理徹底、食糧の緊急対応能力強化となっている。【5月1日 レコードチナ】
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食品価格上昇・食糧難が起きると、必ずそれは政治混乱を招きます。
政治混乱は、更なる経済混乱を・・・とスパイラル的に悪化することも。

日本はコロナ禍については“一息”ついたところですが、世界のコロナ禍に伴う食糧難、それに拍車をかける東アフリカなどの「蝗害」による混乱・犠牲はこれから本格化すると見た方がよさそうです。

 

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