孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  最高裁判事後任人事をめぐる問題  あらゆるものを政治化するトランプ政治

2020-09-22 22:52:26 | アメリカ

(後任人事として名前が挙がっているシカゴの連邦高等裁判所で判事を務めるエイミー・コニー・バレット氏 画像は【9月22日 Bloomberg】

現在48歳のバレットが終身制の判事に就任すれば、数十年はその座を保持できるかもしれない。 トランプが最初に任命した2名の最高裁判事ニール・ゴーサッチとブレット・カバノーはどちらも50代だ。 トランプ任命の判事が、何世代にもわたって最高裁の3分の1を代表する可能性が出てきたことになる。【9月21日 COURRIER JAPON】)

 

【早ければ25日にも女性候補を発表か】

激戦のアメリカ大統領選挙は、かつてない規模の郵便投票による開票の遅れで「混乱必至」の状況ですが、ここにきて、18日にリベラル派の象徴的存在だったギンズバーグ最高裁判事が死去したことで「最高裁判事の後任指名」という新たな要因が加わり、ますます混迷の度を深めているのは多くのメディアが報じているところです。

 

周知のように、中絶、銃規制、移民、オバマケアなど国論を二分する問題が最終的には最高裁で決着するアメリカでは、大統領の最大の仕事が自派の最高裁判事を送り込むことで、その点ではトランプ大統領はすでに保守派判事2名を送り込み大きな実績を示しています。

 

更にもう1名・・・ということになれば、保守・リベラルのバランスは圧倒的に保守に傾き、任期4年の大統領と違って終身制の最高裁判事だけに、トランプ再選以上に今後のアメリカの進む道に影響を与えることになるようにも思えます。

 

とりあえずの情勢としては、早ければ今月25日にもトランプ大統領から女性候補が発表されるのでは・・・とのこと。

 

****トランプ大統領 最高裁判事指名25日にも 与党からも反対の声****

アメリカの連邦最高裁判所の女性判事が亡くなったことを受けて、トランプ大統領は今月25日にも後任を指名したいという考えを明らかにしました。ただ、大統領選挙前に後任を選ぶことには与党・共和党の一部からも反対の声が上がっていて、論議を呼ぶことになりそうです。

 

FOXニュースの番組電話出演で

トランプ大統領は21日、FOXニュースの番組に電話で出演し、今月18日に死去した連邦最高裁判所のリベラル派の判事、ギンズバーグ氏の後任について「指名は今週の金曜日か土曜日になると思う。敬意を表すためにも葬儀が終わるまでは待つべきだ」と述べ、葬儀が終わったあとの、今月25日か26日にも指名したいという考えを示しました。

しかし、銃規制や人工妊娠中絶の是非など、アメリカ社会を二分する問題を判断する連邦最高裁判所の判事の指名については、投票日が40日余り後に迫った大統領選挙で選ばれた次の大統領に託されるべきだという考えから、野党・民主党に加えて、与党・共和党の一部からも急ぐべきではないという声が上がっています。

9人いる連邦最高裁判所判事はリベラル派のギンズバーグ判事が亡くなったことで保守派が5人、リベラル派が3人となり、トランプ大統領が保守派を後任に指名すると保守化が一層進むことになり、大統領選挙前の指名は論議を呼ぶことになりそうです。【9月22日 NHK】

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人選については、女性のエイミー・コニー・バレット米高等裁判所判事の名前が取り沙汰されています。

 

****トランプ大統領、最高裁判事候補をバレット氏に絞り込む-関係者****

トランプ米大統領は連邦最高裁判所の判事に、シカゴの連邦高等裁判所で判事を務めるエイミー・コニー・バレット氏を指名する方向に傾いていると、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

 

指名すれば、18日に死去したギンズバーグ最高裁判事の後任候補となる。トランプ氏は一方で、最大5人の候補者を検討していると21日に述べている。

 

(中略)バレット氏は人工中絶反対派からの支持が厚い。中絶反対の活動家らは、バレット氏を指名するようホワイトハウスやトランプ氏に積極的に働き掛けている。共和党のマコネル上院院内総務に近い複数の関係者によれば、マコネル氏もバレット氏を推している。

  

バレット氏を推す人々はホワイトハウスに対し、カトリック教徒である同氏を指名すれば、トランプ氏は中西部のカトリック票を確保でき、民主党候補のバイデン前副大統領にリードされている「ラストベルト(中西部地域と大西洋岸中部地域の一部にわたる脱工業化が進んでいる地帯)」や五大湖周辺州での巻き返しに役立つと指摘している。(後略)【9月22日 Bloomberg】

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【共和党内にも強行への異論・・・とは言うものの】

大統領選挙前の承認について、共和党内部にも異論があるということに関しては、強行することへの世論の反発を警戒するもののようです。

 

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共和党上院からも「速やかに承認手続きを行うことができるのは(野党・民主党の)最大限の協力が得られる場合で、今はそうではない」(コーニン上院議員)などと手続きを慎重に進めるべきだとの声が出ている。

 

採決を大統領選前に強行すれば批判が高まり、大統領選や上院選で民主党を利することになりかねないとの懸念があるためだ。【9月22日 毎日】

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決定権を持つ上院の情勢は微妙。賛否同数で副大統領が決定という場面もあるかも。

あるいは、票読みに自信がもてなければ採決回避も。

 

****駆け込み補充、共和2人反対=トランプ氏戦略に暗雲―米最高裁人事=****

ギンズバーグ米連邦最高裁判事の死去を受けた後任の選定を遅滞なく行うトランプ大統領の方針について、与党共和党のマカウスキ上院議員が20日、支持しない考えを表明した。反対論を唱えた共和党議員は2人目。現任期中に駆け込みで保守派判事を最高裁に送り込みたいトランプ氏のシナリオに暗雲が漂い始めた。

 

マカウスキ氏は、2016年にオバマ前大統領が指名した最高裁判事候補の承認を、当時上院を支配していた共和党が「次期政権まで待つべきだ」として拒否したことに言及。「われわれは2カ月足らずで大統領選を迎える。同じ基準を適用する必要がある」と主張した。

 

19日には、共和党のコリンズ上院議員も「選挙で選ばれた大統領が後任を指名すべきだ」として反対している。

 

定数100の上院で53議席を持つ共和党は、反対を3人に収めれば、可否同数の場合に副大統領(ペンス氏)が投票に加わる規定で人事案を承認できる。ただ、米メディアによると、トランプ氏と対立するロムニー上院議員ら3人がまだ態度を明らかにしていない。【9月21日 時事】 

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このあたりの票読みは、裏でホワイトハウス主導のし烈な駆け引き・政治取引が行われていると推測されますので、部外者には今後の展開は全くわかりません。

 

【米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けている】

冒頭にも触れたように、最高裁判事のバランスは国内の政治・社会に極めて大きな影響を持ちますが、より広い視点に立てば「最高裁をはじめとする米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受ける」という問題が指摘されます。

 

****最高裁「政治化」の代償、広がる制度不信****

視野を狭くして言うと、米国民にとっての喫緊の課題は、最高裁判事の後任人事とその行方が選挙にどう影響するかだ。

 

だが、より広範な問題の方がおそらく重大な意味を持つだろう。最高裁をはじめとする米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けるこの時代をどう乗り切るかという問題だ。米機関の立場と社会における役割はここにきて、政治的圧力に脅かされている。

 

もちろん、最高裁が政治から完全に切り離されていたことはこれまで一度もない。だが、ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去に伴う後任人事を巡る攻防は「最高裁の政治化」の時代がその極みに達していることの表れとも言えそうだ。

 

米国では1987年、民主党が最高裁判事に指名されたロバート・ボーク氏の人事案を阻止する方向に動いたことで、「政治化」時代の幕が開けた。

 

共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州)は、2016年にはバラク・オバマ前大統領が指名した最高裁判事候補の人事案を阻止した一方で、ドナルド・トランプ大統領が2020年に指名する候補者の承認手続きは迅速に行う構えだ。

 

マコネル氏はこうした行動を通じて、大統領選の年に最高裁判事に空席が出た場合、人事手続きを進めるかどうかは、どちらの政党が連邦政府のどの権力を握っているかによって完全に決定されるとの前例を確立した。

 

こうした事例が示すように、民主・共和両党はいずれも、最高裁判事について、司法判断を下す人物としてではなく、イデオロギー的に望ましい結果をもたらす政治的な立場にある人物だとの見方を強めている。この現状は、指名を受けた判事候補を直接選挙で決める方法の「一歩手前」にあるように感じられる。

 

しかも、このサイクルは今後も延々と続く可能性がある。共和党がギンズバーグ氏の後任の承認にこぎづけ、その後の大統領選で敗北すれば、民主党指導部は、自らも「核兵器」を駆使して対抗するよう求める支持層からの巨大な圧力にさらされるだろう。

 

具体的には、民主党支持派の活動家は、最高裁判事の数を増やす法律を制定するよう要求している。その上で、民主党が支持する判事を送り込み、「最高裁判事を大きく右派に傾けた共和党の不当な行動」を相殺するよう求めている。

 

司法制度の原理ではなく、政治の力が最高裁の勢力を決定する大きな要因になりつつあるのだ。

 

幸いなことに、最高裁は任務を遂行するその姿から、国民の信頼を十分に維持できているとみられる。米国の機関に対する信頼感を調べたギャラップの年次調査によると、最高裁を大いに、もしくはかなり信頼しているとの回答は40%と、ボーク氏を巡る攻防が繰り広げられていた当時の52%からは低下したものの、少なくとも過去10年は一定した支持を維持している。

 

他の機関はこれ以上にひどい結果だ。議会、大統領、大企業、銀行、新聞・テレビ報道に対する信頼は過去20年に低下の一途をたどっている。ギンズバーグ氏の後任人事を巡る与野党の主戦場となる議会に対する信頼感は13%にすぎない。

 

しかも、怒りと両極化したポピュリスト(大衆迎合主義)に特徴づけられる今の時代においては、米国のあらゆる機関が批判の矢面に立たされている。

 

トランプ氏やその支持者から、反トランプ派の既得権益層による「ディープステート(闇の政府)」の一派として非難を浴びるものもあれば、リベラル派から人種差別社会の名残として批判の矛先を向けられるものもある。単に党派対立のあおりを受けるものもある。

 

米連邦捜査局(FBI)は、ヒラリー・クリントン氏の個人メール使用問題に加え、前回の米大統領選でロシアがトランプ陣営を支援したとされる干渉疑惑の双方への対応を巡り、民主・共和両党から恨まれる存在となった。かつて党派争いを超越していた機関はもはや、その一部と化してしまった。

 

米国務省の外交局、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)のメンバーはいずれも、かねて超党派プロ集団のとりでだと考えられていたが、今ではトランプ政権を取り巻く党派対立の混乱に巻き込まれてしまった。

 

トランプ氏やその側近は、忠誠心に欠けるとして外交局およびNSCのメンバーを公然と批判。一方で、両機関のメンバーはトランプ氏や同氏のチームによる「不適切、あるいは弾劾に相当する」とみる行為について、内部告発を後押ししている。

 

情報当局者たちも同じような圧力にさらされており、トランプ米大統領はその仕事ぶりや忠誠心について、公の場で疑問を投げかけている。

 

一方、民主党内では、過去10年の大統領選で一般投票の得票数では上回りながら2度も敗北を喫したことに不満を強める左派が、選挙人制度を廃止し、大統領を直接選挙で選ぶことを唱え始めている。これには労力のかかる憲法改正が必要で、激しい議論を呼ぶことになるのは必至だ。

 

さらに、黒人男性ジョージ・フロイドさんがミネアポリス警察の手によって殺害された事件は、米国の制度全般における人種差別の名残を巡る議論を高めるきっかけとなっただけでなく、予算削減要求を含めた地元警察への具体的な攻撃にも発展した。

 

これらすべての機関に共通することは、厳しい時代や政情不安の時期にあっても米国と政府の結束を維持できるよう、背後で支えてきたという点だ。こうした機関が今後も同じような行動を続けられるかが、今まさに改めて問われている。【9月22日 WSJ】

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最高裁判事の数を増やす法律を制定・・・そういう「核オプション」もあるんですね・・・。

 

米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けていることに関しては、コロナ禍のもと、政治ではなく科学に基づくべき米食品医薬品局(FDA)と米疾病対策センター(CDC)においても顕著で、大きな混乱を招いています。

 

****ホワイトハウスから「前代未聞」の圧力、米2大保健機関に 専門家ら警鐘****

米国のドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染症のワクチンを11月の大統領選までに実用化できるかもしれないと述べている。だがそのワクチンは安全かつ有効なのか?

 

専門家らは、ワクチンの承認と流通プロセスの監督に責任を持つ世界的に有名な米保健機関が、政治的圧力によっていっそう妥協を強いられつつあり、人の命を犠牲にすることにもなりかねないと懸念している。

 

問題の渦中にあるのは、米食品医薬品局と米疾病対策センターだ。歴史的に派閥対立を超越した存在とみなされてきたこの2つの機関は、世界の科学界から幅広い尊敬を集めてきた。

 

だが両機関の専門家らは今、トランプ氏のトップ補佐官らから深い疑念の目で見られている。大統領が進める経済再開策に抵抗しているとみなされているのだ。

 

これまで公衆衛生上の危機の際には定例会見を開いてきたCDCの上級科学者らは、今回の新型コロナウイルスに対しても最初に警鐘を鳴らしたが、3月以降は脇へ追いやられている。

 

長らく世界基準とみなされてきたCDCの公式ガイドラインにこの夏、不可解な改訂があった。学校の対面授業再開を強く奨励するようになったこと、それからCOVID-19患者との接触者でも無症状であれば検査の必要はないと助言したことだ。

 

特に後者の動きが言語道断とみられているのは、科学的根拠が何も示されていないことに加え、トランプ氏が発言している検査数を少なくしたいという意向に沿ったものだからだ。(中略)

 

同報告(CDCの「週間疾病率死亡率報告」)の編集委員であるウィリアム・シャフナー氏はAFPの取材に「米国の政治指導層が、これらの機関の科学的機能を侵犯するのは前代未聞だ」と語った。

 

■「恐怖の風潮」

一方、FDAの信頼も損なわれているというのは、米スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長だ。同氏は医薬品規制機関として世界で最も影響力を持つFDAの信頼性が揺らいでおり、パンデミック(世界的な大流行)に関する最も重要な決定、つまり最初のコロナワクチンをいつ承認するかという決定に大きな影響を及ぼしかねないと警告する。

 

トポル氏は重要な出来事があったとして、次の2つを挙げた。まず3月にFDAは、COVID-19への治療効果の証拠がないにもかかわらず、トランプ氏が熱心に推奨する抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの緊急使用を承認した。だが安全性への懸念から、この承認は6月に取り消された。

 

またトランプ氏が共和党全国大会へ向けて準備をしていた8月にはFDAは、COVID-19から回復した患者の血漿(けっしょう)を用いた治療を緊急許可した。その発表の際、FDAのスティーブン・ハーン長官は血漿が生命救助に大きな効果を持つことをデータで示したが、この引用は不正確で、ハーン氏は後に謝罪と撤回に追い込まれた。

 

ハーン長官はFDAがホワイトハウスから圧力を受けているのではないかとの批判を否定し、審査プロセスには独立した専門家らが加わっていると強調している。

 

さらに9月上旬にはツイッターへの投稿で「これらの(新型コロナウイルスの)ワクチンやその他のワクチンに関し、われわれの科学に基づく独立した審査に対する国民の信頼を脅かすことはしない。危険すぎることだ」と述べた。

 

現在、ワクチンの臨床試験は最終段階にあるが、トランプ氏がいう10月いっぱいまでに十分なデータが入手できる可能性は低い。また実用化のめどが十分に立っていない医薬品で、製薬企業が自社の評判を危うくすることもありそうにない。

 

だが専門家らは今も懐疑的だ。彼らが懸念材料として挙げるのは、米医薬品大手ファイザーの最高経営責任者が早ければ数週間以内にも承認申請を行うと、連日のように発言していることだ。

米ハーバード大学の疫学者マイケル・ミナ氏は、「承認を迫る不穏な圧力運動が起きているのだと思う」と語った。

 

スクリプス研究所のトポル氏は、CDCとFDAが「トランプ政権下のホワイトハウスの面々に従属してしまっている」と指摘し、「失職することに対する恐れや、大統領とその支持者らによる敵意あるツイートの標的になることを怖がる『恐怖の風潮』がある」と批判した。 【9月21日 AFP】

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本来、政治から独立していることを求められる機関への政治圧力というのは、今も昔も常にあったことではありますが、それを露骨に、公然と行うという話になれば、その危険度のレベルは数段増します。

 

国民をひとつにしようとしない、その素振りすら見せないことに加え、こうした政治圧力を隠そうともせず、むしろ力を誇示するかのように見えることはトランプ政治の大きな問題であり、アメリカ民主主義を全く別物に変容させるものであるように思えます。

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