孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ルワンダ  ジェノサイドがもたらした女性の地位向上 中国モデルによる「アフリカの奇跡」

2019-10-31 22:08:13 | アフリカ

(現在、女性議員は49人で全体の61%を占める(ここに写っているのはそのうちの33人)。女性議員の比率は世界最高だ。【1031日 ナショナル ジオグラフィック】)

 

【およそ600万人が生き残ったが、その大半は女性だった】

世界経済フォーラム(WEF)が発表している「男女平等ランキング」(「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap IndexGGI)」)というものがあって、毎年日本の順位が非常に低い、すなわち世界的に見て日本の男女格差が大きいとの結果が話題になります。

 

2018年の上位10番目までを順番に並べると(括弧内は昨年順位)

1位アイスランド(1) 2位ノルウェー(2) 3位スウェーデン(5) 4位フィンランド(3) 5位ニカラグア(6) 6位ルワンダ(4) 7位ニュージーランド(9) 8位フィリピン(10) 9位アイルランド(8) 10位ナミビア(13

 

もちろん様々な要素が絡み合う男女格差を一つの数値で表現することは限界があり、あくまでも一つの指標です。

また、相対的な男女格差が対象になっているもので、女性の絶対的幸福度みたいなものを示すものでもありません。(110位の日本女性より5位ニカラグアの女性が恵まれている・・・という話ではありません)

 

北欧諸国が上位に並ぶのは“常識的”として、ニカラグア、ルワンダ、フィリピン、ナミビアといった途上国が上位にランキングされているのは毎年意外な感じを与えています。

 

こういう数値の限界は認識しつつも、「どうして日本の評価は低いのか?」ということを考えてみるのは有意義なことでしょう。

 

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日本は、2015年が101位、2016年が111位、2017年が114位と順位を落とし、2018年は110位に多少挽回した。

 

日本の評価は、項目ごとに優劣がはっきりしている。読み書き能力、初等教育、中等教育(中学校・高校)、出生率の分野では、男女間に不平等は見られないという評価で昨年同様世界1位のランク。

 

一方、労働所得、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育(大学・大学院)、国会議員数では、男女間に差が大きいとの評価で世界ランクがいずれも100位以下。

 

その中でも、最も低いのが国会議員数で世界130位(昨年は129位)。その他の項目でも50位を超えるランクは、男女賃金格差のみ。(中略)

 

日本では、国会議員、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育(大学・大学院)等、社会のリーダーシップを発揮すべき分野で、ダイバーシティが評価が著しく低い。【同上】

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日本における女性の地位の問題を取り上げたらきりがありませんが、今日の話題は日本の問題ではなく、毎年上位にランキングされているアフリカ・ルワンダの話。

 

ルワンダで連想されるのは1994年に起きた痛ましいジェノサイドです。

“正確な犠牲者数は明らかとなっていないが、およそ50万人から100万人の間、すなわちルワンダ全国民の10%から20%の間と推測されている”【ウィキペディア】

 

その後はポール・カガメ大統領のもとで、ジェノサイドの背景となったツチ・フツの対立を克服して国民融和をはかる方向で、国内改革が推し進められていることはしばしば取り上げられるところです。

 

一方で、カガメ大統領は、2017年に98.8%の得票率で再選された、かつてのツチ族反政府勢力指導者で、20年以上も権力の座におり、2015年の国民投票によって任期の規則が改定されたことで今後も当分の間大統領職に留まると見られています。

 

ヒューマンライツ・ウォッチ他のサイトへのような国際人権NGOは、人権を侵害し、反体制派を弾圧しているとしてカガメ大統領を非難し続けているように、その政治姿勢への批判もあります。

 

ルワンダで女性の地位が高いという数値が出るのは、ジェノサイドの悲劇の結果でもあります。

 

****大虐殺後に女性躍進、ルワンダで何が起きたのか****

1994年に約100日間続いたその大虐殺の引き金となったのは、ある飛行機の墜落事故だった。ルワンダ大統領だったジュベナール・ハビャリマナとブルンジ大統領だったシプリアン・ンタリャミラを乗せた飛行機が撃墜され、二人とも死亡したのだ。

 

ハビャリマナ大統領はルワンダの人口の約85%を占める民族フツの出身だった。フツの過激派は、飛行機を撃墜したのは少数派民族ツチだと非難し、以前から緊張状態にあった両民族の間で壮絶な殺し合いに発展した。この大虐殺で、100万人近いツチと、数千人のフツが命を落としたとされている。

 

性暴力の被害者となった女性は少なくとも25万人、孤児となった子どもは95000人を超すといわれる。紛争が終わったとき、およそ600万人が生き残ったが、その大半は女性だった。

 

紛争の後、人口の8割を占めていた女性たちは、必要性と現実に迫られ、国の指導部に生まれた空席を埋めていくことになる。

 

そして、女性のためのNGOの支援を受け、世界で最も女性に配慮した政策が策定されていった。

 

世界で最も女性国会議員の比率が高い国

1999年には、相続に関する長年の因習を覆した。遺言がなくても女性の相続が認められるようになり、かつては兄や弟に相続権を独占されていた地方の女性たちも、地主になれるようになった。

 

また、女性も土地を担保に融資を受けられるようになった。教育面でも待遇が改善され、大学に進学する女子が増加。従来は男性の領域となっていた分野にも女性が参入できるよう、奨励策が設けられた。

 

こうしてルワンダは、2003年以来ずっと、世界で最も女性国会議員の比率が高い国となっている(現在は下院の約6割が女性)。また、7人の最高裁判事のうち、副裁判長を含む4人が女性だ。

 

大虐殺の後にルワンダで起こった変化の大部分は、大勢の男性が死亡した結果もたらされたものだ。ルワンダの女性たちは今の権利を自ら闘って手に入れたわけではない。それは法改正によって得られたものであり、改革の効果は社会全体に広がっていくことが期待されている。

 

2018年に国会議員に初当選したエマ・フラハ・ルバグミヤは、この国と女性たちがここまで来られたことを誇りに思う一方で、ルワンダがこれから目指すべき未来を見据えている。

 

「枠組みはできています。政策も、法律も、それを執行する仕組みもあります。長い道のりでしたが、素晴らしい成果を上げてきました。でも、もっと先に進まなければなりません。男女間の不均衡が完全になくなる、その日まで」【1031日 ナショナル ジオグラフィック】

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もちろん、“大虐殺の後にルワンダで起こった変化の大部分は、大勢の男性が死亡した結果もたらされたものだ”とは言っても、その後の女性の地位向上・社会参加を促す「改革」がっての現在です。

 

議員に関しても女性に対する議席割り当て制度によって、女性の社会参加が保証されています。

 

****女性への議席割り当て制度*****

「ルワンダは女性に対する議席割り当て制度を導入しており、この制度が女性が政治分野で大きな進歩を遂げる助けとなっている」とドゥレールさん(スイス連邦内務省男女均等待遇局(EBG/BFEG)局長)は指摘し、「このような措置は国際的にはよく採用されているが、スイスにはある種の不信感がある。約20年前に行われた国民投票では、議席割り当て制度の導入に国民は明確に反対した」と説明する。

 

90年代、ルワンダ議会に占める女性の割合は平均18%に過ぎなかった。しかし、その後、03年憲法に最低30%の議席を女性に割り当てることが定められた。

 

「議席割り当て制度は必要だ。女性議員が非常に少なければ、どこから始めればよいのか分からない」と、ルワンダのジェンダー監視局局長のローズ・ルワブヒヒさんは話す。

 

「後押しがあることが非常に重要だった。その結果、我々女性は議会で意味のある人数を確保することができた」と付け加える。「上手く機能していることが見て取れるし、女性に必要な議席が議会にはあるのだから、成果は出ている」

 

さらに、ルワンダの内閣も男女のバランスが取れており、司法も概ね半分は女性だとルワブヒヒさんは言う。

「これは重要なことだ。政府機関に女性がいることが外部の少女や女性に見えるからだ。これは、国の意思決定に女性も参加することができるという非常に強いメッセージを送ることになる」とルワブヒヒさんは強調する。【45日 swissinfo.ch

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日本でも、制度的“後押し”がないと、なかなか現状の改革は進まないでしょう。

 

【「アフリカの奇跡」を支える中国モデルの国家体制 言論統制も】

現在ルワンダは中国と緊密な関係があります。

 

****「イー、アル」の声に合わせルワンダ軍が中国式行進を披露****

中国紙・環球時報(英語版)は6日、アフリカ東部ルワンダの兵士らが中国軍の訓練を受け、7月の軍事パレードで中国式の行進を披露したと伝えた。中国が軍事面でアフリカに浸透する実態を示すものだ。

 

環球時報によると、パレードは首都キガリで開催された。ルワンダ側の要請で、中国軍の儀仗兵6人が4月に派遣され、兵士ら2000人に1日8時間訓練した。

 

中国中央テレビの映像では、兵士らは「前向け、1(イー)、2(アル)」と中国語のかけ声に合わせ、中国の儀仗兵に似た膝を伸ばすスタイルで歩いた。(後略)【88日 読売】

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上記は中国に傾斜するルワンダの現状のほんの一例です。

 

****「虐殺の歴史」を背負ったルワンダに進出する中国のリアル****

安田峰俊・チャイナフリカを往く①

 

いたるところに、漢字、漢字、漢字が

「你好! 安田先生!(こんにちは!安田さん)」

小さいが清潔感のある空港から外へ出ると、私の名字が書かれた紙を持っている青年が流暢な中国語で声をかけてきた。彼の中国語名は子辰。(中略)

 

子辰と握手を交わした私のすぐ横を、機内で隣席に座っていた中国国営企業(資源系)に勤務する北京出身のビジネスマンの集団が歩いていく。(中略)

 

現地の通貨を下ろすためにATMの列に並んでいると、またもや目の前に漢字があった。私の前に並ぶ男が、なぜか中国内陸部のインフラ企業・四川省電力公司アバ支社のサッカーチームのレプリカユニフォームを着ていたのだ。

 

さらにミネラルウォーターのボトルを捨てる場所を探すと、中国語で「リサイクル」「その他のゴミ」と書かれたゴミ箱があった。

 

そもそも、カタールのドーハで飛行機を乗り換えて以来、私はほとんど中国語しか使っていない。(中略)

だが、私が来た場所は北京でも成都でもない。東アフリカの内陸部に位置する山岳国家・ルワンダの首都のキガリである。(中略)

 

習近平は素晴らしいリーダーだ!

「最近のルワンダはアメリカと少しギクシャクしているけれど、中国との関係はすこぶる良好だ。いまのルワンダにとっていちばん重要な国は中国だと思うよ」空港からのタクシーの車内で、ピーターがそう説明してくれた。

 

1990年生まれの彼はルワンダ虐殺で父を失ったが、内戦後は母子家庭のなかで勉学にはげみ、成績優秀者を選抜するルワンダ国家の奨学金を得て同国では数少ない高等教育機関であるルワンダ国立大学を卒業した。

 

やがて2015年に中国政府奨学金留学生として北京科技大学に留学して、バイオ燃料にかかわる論文で修士号を取得している。(中略)

 

「習近平は素晴らしいリーダーだと思うね。中国のリーダーはロング・タームでものを考えて、実行できている。多くのアフリカのリーダーも見習うべきだろう」

 

その経歴からしても当然、ピーターは親中派である。もっとも、こういうエリート層は最近のルワンダ(のみならずサブ・サハラ各国)ではそれほど珍しくない。(中略)

 

中国語とソロバン、広がる影響力

孔子学院はあくまでも語学教育プロジェクトであり、日本で一般に思われているほどゴリゴリのイデオロギー教育がなされているわけではない。

 

ただ、ルワンダにとって最大の輸入相手国である中国の言語を教え、さらに奨学金を通じて「先進国」中国への留学の機会を提供してくれるので、現地のインテリ層の対中好感度を上げるうえでは一定の役割を果たしている。

 

201812月現在、アフリカ全土で孔子学院は59施設、より小規模な孔子課堂が41施設あり、のべ140万人以上が学んだとされる。ルワンダだけでも孔子学院・課堂は約20施設があり、ガットが教えているのはキガリからバスで3時間ほどの距離にある地方都市の教室だ。

 

ルワンダの孔子学院で、学生側が負担する費用は入学手続き料の30000ルワンダ・フラン(約3600円)のみ、入学後の学費は完全に無料だ。学位は取得できないとはいえ、将来を切り開く上ではかなりお得な教育機関だと言っていい。

 

孔子学院以外にも、私が目にした中国のソフトパワーを紹介しておこう。それはピーターの仕事である。彼は現在、北京に本社を置いて世界展開するソロバン教育塾チェーン「Shenmo(神墨)」グループのルワンダ・ブランチの運営にたずさわっているのだ。

 キガリ郊外にある教室に遊びに行くと、611歳の子ども十数人が、一心不乱にソロバンの玉を弾いていた。一通りソロバンを使わせた後は暗算である。算数の基礎能力を付けるうえでは、ソロバンは有効だ。(中略)

 

虐殺25年後の強権と経済発展

(中略)近年、カガメは強力なリーダーシップのもとで「アフリカのシンガポール」を目標にルワンダの国家改造を進めている。

 

カガメはかなり独裁的だが、ジンバブエのムガベや中央アフリカのボカサのような、従来のアフリカにありがちな国家を私物化するタイプのリーダーではなく、あだ名は「ルワンダのCEO」だ。植民地時代から行政や教育現場で用いられてきたフランス語も、英語に置き換えられた。

 

ルワンダの一人当たりGDPはまだ750ドル程度で、国家予算の3割を援助に頼る。だが、ルワンダの汚職の少なさや政府の行政能力、良好な治安、起業の容易さなどは国際的にも高く評価されている。国外からの投資も集まり、2008年〜2017年の10年間のGDP成長率は約7.5%に達した。人口も虐殺当時の倍以上となる約1220万人まで増え、社会には若者が多く活気がある。

 

カガメ政権下では従来の民族対立も強引に押さえ込まれ、いまや「ツチ」「フツ」はもちろん「民族(ethnicity)」という単語すらおおやけに語ることはタブーだ。

 

もっとも実際のところ、内戦前は人口的に多数派のフツ系が支配層だったが、内戦後はカガメ自身を含めたツチ系のリーダーたちが台頭するようになっている。

 

現在、ICT分野で起業をしたり、中国に留学したりするような「意識の高い」ルワンダ人の青年エリートは(ピーターはフツ系だが)多くが幼少期に虐殺を生き延びたり、亡命先から母国に戻ってきたツチ系の人たちである。彼らはそれぞれカガメを手放しで称賛する。(中略)

 

中国人から「言論の自由がない」と評される国

ルワンダではカガメについて「褒める」以外の評価が許されていないとはいえ、かなり多くの国民が本気でカガメを支持しているのも確かだ。これはピーターやガットのようなエリート層だけに限った話でもない。

 

ただし、カガメ政権は経済発展以外の分野でもシンガポールや中国を参考にしているらしく、マスメディアを強力に統制し、野党を強力に弾圧している。さらに2015年には、憲法を改正して大統領任期を事実上17年間も延長してしまった。

 

ルワンダの報道統制は凄まじく、中国系の民間シンクタンクが昨年8月に発表したレポート『非洲国家民衆眼中的中国形象盧旺達(アフリカの国家・民衆から見た中国の姿:ルワンダ)』のなかでも「言論の自由は相対的に制限されている」「(現地メディアは)民衆の真実の感想や視点を反映したりよく伝えたりすることが比較的少ない」という記述がある。中国人が見てすら「言論の自由がない」と感じてしまうほどの国なのである。

 

従来、欧米各国はルワンダ虐殺への配慮もあってカガメ政権への批判を手加減してきたが、近年はさすがに批判が強まり、ルワンダの対米関係も悪化しつつある。

 

ただ、それゆえに専制体制を気にせずに仲良くしてくれる「大国」の存在は歓迎される。つまり中国のことだ。

 

CNNによれば、中国は過去12年間でルワンダに4000億ドル(約43900億円)を投資してきた。ルワンダの道路状況は地方を含めてかなり良好だが、こうした国内道路の7割は中国企業の建設によるという。

 

昨年7月、習近平は中国の国家主席としては初めてルワンダを訪問して一帯一路構想への参加を歓迎し、一説には道路建設に12600万ドル(約138 億円)規模ともいう融資を決め、さらに病院や新空港の開発でもルワンダ政府と合意に達した。

 

ルワンダの目覚ましい復興は「アフリカの奇跡」として国際的にも高い評価を得ている。だが、その成功を支えるものは、広い意味での中国モデルの国家体制である。

 

「虐殺」の後には中国きたる

(中略)虐殺の後には中国きたる――。この構図はカンボジアのみならず、ルワンダもまた同様だ。(中略)

 

中国に「新冷戦」を本気で戦い抜く覚悟と体力があるかは不明だが、近年の中国の国際的プレゼンスの拡大を受けて、第三世界の諸国のなかには、かつての毛沢東時代さながらに中国側へなびく国が出てきている。

 

ルワンダをめぐってはかつて冷戦下の1960年代に、西側寄り(フランス寄り)のフツ系政権を牽制する目的から、複数のツチ系反政府勢力がソ連や中国の支援を受けていた歴史がある。現在の中国とツチ系のカガメ政権との関係は、半世紀前の共闘の構図が新冷戦の時代に装いを変えて復活したもの、という見方もできるだろう。(後略)【615日 安田峰俊氏 現代】

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