ちょっと研究に区切りがついたところで、Spineに載った興味深い論文を読んでみます。選択バイアスについての記述研究?なかなかエッジが効いたtitle。

Potential Selection Bias in Observational Studies Comparing Cervical Disc Arthroplasty to Anterior Cervical Discectomy and Fusion

研究疑問  :前方固定(ACDF)と人工関節置換(CDA)の患者背景に差があるか?
研究デザイン:過去起点コホート
セッティング:米国勢調査からのデータベース
*2004~2014のdataを使用

P 頚椎前方手術患者(側弯や外傷以外)約29万人
I  CDA 1.8%
C ACDF 98.2%
O 費用、死亡、合併症
*調査した背景特性
 - 人種、収入、保険、退院時並存症(Charlson指数)
 - 検定で差を検出
*単純なモデルと、それに背景情報を加えたモデルを比較
*欠測は除外?

頚椎人工関節置換術(CDA)が登場し、1つの質が高いRCTで効果が検証された。その後多くの非RCTが追証しているが、CDA/対照群の背景差が大きなバイアスになっている。実際にどの程度背景差があるか?の情報は非RCTの解釈に重要なので調べてみました!という研究。結果のまとめは

・CDAはより若く、並存症が少なく、社会的地位が高い
・単純モデルと調整モデルの比較は
 - CDAコスト:単 $549 → 調整 $574(調整するとACDFよりCDAが高コスト)
 - 合併症:単OR 0.63 →調整OR 0.93

などで、CDA/ACD群には背景差があり、調整するとCDAの優位性は消えるとの結論。

【批判的吟味】★★★
どう選択バイアスを可視化するのか?と期待して読んだのですが、単純に単変量解析 vs 多変量解析で結果が異なることを述べただけでした。そして選択バイアスじゃなくて交絡の話…介入の効果をみる観察研究で、介入/対照群の特性差があることはアタリマエで、とくに術者の嗜好(臨床判断)による適応交絡:confounding by indicationが比較の質を決定的に下げることは、必ず考慮しなければいけないところ。本研究は、きつい言い方をすると、ただの負け戦を趣向をかえて発表しただけです。ただし、脊椎領域では適応交絡を考慮した研究はほぼ皆無であることも悲しい現実。適応交絡の重要性をアナウンスするという意味では重要な研究です。なお、研究のフレームとか、欠測の扱いや変数選択で粗い部分が目立ちますが、今回はそっとしておきます。

【コメント】
この論文がSpineに載る時点で、脊椎外科領域のEBMがかなり遅れていることが示唆されます。この論文がきっかけになって、交絡を気にした研究が増えることを願います(他力本願)。てか、結果でなかった観察研究もこうすれば発信できると。ある意味賢い…しませんけど。