歴史とドラマをめぐる冒険

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NHK「大戦国史」・織田信長の「自己神格化」・日本側に史料がないのは当然のこと

2020-09-27 | 麒麟がくる
NHKの「大戦国史」、私はどんな史料からも、一次でも二次でも、戦国遺跡でも、フロイスの「日本史」でも、あらゆる史料から真実を掘り出すのが当然だと思っているので、大変面白く思いました。

「織田信長の自己神格化」については、日本側に史料がないこと、宣教師の叙述に「偏見」があること、天皇とのかねあいがややこしくなること、そもそもフロイスの日本史を原語で読める人など滅多にいないこと、などが理由でしょうか。否定的な見方をされてきたわけです。

それに対してNHKは「検討すべきだ」と訴えているように感じ、その態度自体は適当なものだと思います。私はクリスチャンじゃないですよ。

日本側に史料がないのは当然で、日本人にとって神となることなど「たいした問題ではない」からです。信長以前には菅原道真、崇徳天皇、平将門などまあ「そこそこ」いますし、徳川家康も豊臣秀吉も死後神になりました。光秀を「祀る」神社もあります。「まつる」という次元で考えれば、神になった人間などウヨウヨいます。

だから信長が神になっても、しかもそれが生前でも、たいした問題ではない。「あっそう」ぐらいの事態です。特に書き残すべき事態でもなかったでしょう。と予想します。

後述しますが、神になったからと言って、日本では「人が支配できる」わけではない。神の代理人、司祭や使徒とは違うのです。実際、天皇はこの時代、神だったかも知れませんが、「人を支配」はしていません。「人を支配する神」かどうかが非常に大きな問題です。

西洋人にとって自ら神になることは、唯一神への挑戦です。驚天動地の出来事です。ところが日本人にとっては、たいした問題じゃありません。そもそも日本では死ねば仏になるのです。神仏習合なら、死ねば神になるということになります。

信長は無神論者ではない、なんて言い方もされますが、それも当然で、当時の西洋人にとって「無神論者」であることはキリストやヤハウェへの挑戦です。いや社会への挑戦と言ってもいい。

しかしキリスト教国でなく、多神教の国である、しかも「神も仏も同じ」(神仏習合)という国である日本には、「無神論者は存在できない」というか「無神論者かどうかなんて問い自体が成立しない」のです。

日本の代表的キリスト教神学者である加藤隆さんは「西洋、キリスト教国家権力、人間集団」の本質を「人による人の支配」だと考察します。キリスト教国家は「神による人の支配を目指したが、結果として出来上がったものは神の代理人である人が、人を支配する社会であった」と。

これは特殊な用語で、いわば主人と隷属者の社会を表します。「強い支配」という意味で使われます。一部の者が特権(例えば多額の金銭)を持ち、多くが特権者に奉仕するような形で存在する。日本社会にはかつては、ある一時期を除いては、なじまなかったものです。グローバル化以後、徐々に日本でも「人による人の支配」が強まっているように感じます。そのことへの漠然とした違和感が「上級国民・下級国民」という言葉を生み出したのかも知れません。

さて信長は、キリシタンにはなりませんでしたが、キリスト教へは強い興味を持ちました。当然、キリスト教国家の政体、支配形態について聞くこともあったでしょう。そして「人による人の支配」、「神の代理人による支配」について何か感じることもあったかも知れません。そして自己神格化へ興味を持った。全くありえないこととも思いません。そもそも宗教への関心が高い人です。安土宗論なんぞもやっている。宗教をいかに「政治に利用するか」について、かなりの関心を持っていた人間だと思います。

強引に「まとめる」と、

人々にとって信長が神になることは、ああそうぐらいの問題であった。「生き神様か、ありがたや」程度のこと。しかし信長は西洋的=キリスト教国家的な意味、つまり「人が人を支配する」原理としての神格化を考えていたのかなと。

後半は全て「かも知れません」と書いているのでお分かりでしょうが、この意見を人に押し付ける気はありません。まだ思考中の問題であり、私が考えてみたい。ただそれだけです。フロイスの「日本史」は極めて具体的な記述に満ちており、信長公記のそっけない記述とは比べるべくもありません。しかも後輩の為に、後輩の布教の「たし」になるよう書かれたものです。そこに故意に嘘を書くでしょうか。困るのは後輩です。もちろん変な記述はありますが、それなら信長や秀吉の手紙だって、武威を誇るために「ホラばかり」書いています。ということで、予約しておいた「完訳フロイス日本史」が図書館に届いているようなので、あとで取りにいこうと思います。図書館が林立する東京のわが区にしてからが、所蔵図書館が1つしかないという現状。フロイスさん、許してね。

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