真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 パンティの穴」(1990/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:佐野正光/撮影助手:片山浩/照明助手:恵応泉/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:橋本杏子・しのざきさとみ・岸加奈子・早瀬美奈・芳田正浩・小林節彦・下元史朗)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 何処ぞ東京のど真ん中の画に、「世の中平和である」。切り口のぞんざいさも兎も角、ナレーションの主が小林節彦といふ意表を突いてタイトル・イン。老はさて措き、若男女の中オジサンが一人負けしてゐる状況を適当に組み立てた上で、朝六時四十五分の津田スタ。妻の明子(ショートカットの橋本杏子)は眠りこける傍ら、園山高志(下元)が目覚ましを止める。そんな訳で通勤電車、コバレーションによるオジサンの条件が、曰く麻雀とカラオケが好きな巨人ファンでおしぼりで顔を拭いて下らない洒落をいひ、「そして痴漢をする」。空前絶後の、“そして”感。どうせ苗字は黒崎にさうゐない悦子(しのざき)に、園山が電車痴漢。改札を出たロングで悦子に捕獲された園山は最初白を切りつつ、悦子が続きを希望してゐると知るや、宣誓でもする形で手の平を立て「私ですー痴漢したのは」。この件、掌の返しぶりの鮮やかさは面白かつた。もしくは、鮮やかさだけは。
 配役残り改めて小林節彦は、十八齢の離れた久美子(早瀬)と結婚した轟渉、共稼ぎ。岸加奈子は電車痴漢を介して轟が偶さかミーツする、浮気性の人妻。芳田正浩は、毎晩遅い久美子の帰りに猜疑を募らせる、轟が頼つた興信所の探偵・岩淵。小林節彦・下元史朗と三人並んだ名前を見た時点で、よもや芳田正浩が探偵役だとは予想だにしなかつた。
 最早そこにしか弾が残つてゐない、新東宝の痴漢電車を片端から見て行くかとしたところ、予想通り深町章映画祭の火蓋が切られた模様の1990年第三作。さうはいつても、近年深町章は痴漢電車撮つてないよな?とも思ひ調べてみると、さんざ撮り倒した末に飽きたあるいは厭きたのか、深町章最後の痴漢電車は、1998年第四作「ノーパン痴漢電車 まる出し!!」(主演:相沢知美/ex.青井みずき/a.k.a.会澤ともみ)まで遡る。
 尺を二等分した後半の轟篇に際しては、今度は下元史朗がナレーションを担当する。かといつて電車痴漢がフランクな底の抜けた世界観を共有する以外には、二篇が一欠片たりとて交錯するでなく。“女元気時代”と、“男ショボ暮れ時代”。二年目の分際で、平成の世をさう総括してのける粗雑な着地点には、呆れるのも通り越し直截に腹が立つ。ベクトルの正負はこの際等閑視するとして、映画が突発的に煌めくといふか揺らぐのは、大概唐突に岸加奈子が飛び込んで来る瞬間。事前の轟家電車内夫婦生活が観客のミスリードを目した周到な伏線であつたならば、鮮やかな妙手といふほかない。あくまで、さうであつたならば。形式的には早瀬美奈よりひとつビリングが優位とはいへ、純然たる濡れ場要員に限りなく近い岸加奈子を、その発言を以て岩淵に橋を渡すのは、ギッリギリの救済策。もう一点特筆すべきなのが、“パンティの穴”だなどと屁のやうな公開題を、誰も別に気にしてゐなくとも何らおかしくないにせよ、カッ攫ふかの如くキシカナが回収して行くのは何気なサプライズ。

 に、してもだな。一応順番上最後といふ意味に於いてのみともいへ、締めの濡れ場たるカーセックスに関して。幾ら何でも、午前様間際にしては車の外が薄らぼんやり明るすぎるだろ。白夜かよ、何時から東京はそんな高緯度になつたのか。


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