うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

疫病について

 ウイルスの流行を受けてこれまで読んだ本を思い出した。

 

 

 ◆密集地帯――軍隊、都市

 パールハーバー基地ではスポーツジム利用者の中でコロナ患者が発生し、基地全体が閉鎖された。

 文書が出され、兵隊たちは頭髪を整えておかなくてよいという処置になった。床屋がウイルス感染の可能性が高く、閉鎖されたためである。

 軍人とその家族はいっさいの遠方外出や転勤、海外赴任・帰国をストップされた。

 

 現在は任務に不可欠な整備員等を除いて自宅待機している。

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祖父たちの戦争と自分たちの戦争

 

 

 

 

 軍隊や戦争は昔から疫病の発生源・拡大源である。これは、不十分な衛生状態で多くの人間が密集しなければならないからである。

 同じように、都会は昔から病気の巣であり、例えば江戸時代の江戸は地方に比べて死亡率が非常に高かったという。

 一方、こうしたウイルスや菌に対する免疫のない地方出身者や地方の人々は、感染してすぐに死亡する事例が非常に多かった。

 

 都市はウイルス、バクテリアの温床であり、田舎からの人口流入が不可欠だった。十九世紀の軍隊では、栄養失調の都市貧民よりも、健康な田舎青年のほうがずっと疫病による死亡率が高かった。

 田舎の高出生率と、都市・軍隊の高死亡率が均衡を保っていないと、文明は傾くが、この保持は容易ではない。人口と文明の盛衰とのあいだには相関があり、その人口を左右するのは疫病である。

(『疫病と世界史』マクニール)

 

 

 

 ◆人間と生態系、疫病と生態系

 

 

 ロンドン市長から、感染者が出た家を封鎖し、監視員をそこに置くことが告知された。召使も含めて感染者を出した家のものは強制的に軟禁されたが、監視員を殺して死ぬ前に脱走するものも多かった。

 死者数が爆発的に増加してからは、形式的な葬儀は中止され、死人車で死体を穴に運ぶ作業だけがおこなわれた。語り手はこの穴を見物に行ったが、これは建物一個分、深さ数十メートルにおよぶ巨大な墓穴で、ここに無造作に死体が投げ込まれていた。

 感染者のみならず、発狂するもの、感染したとわかって死ぬ前に人に撒き散らそうと出歩く者、死体からものを剥ぐものなど、悪党たちが続々と現れる。また、未熟な手術の最中に死ぬものもいた。曰く、「看護士は病人の死を早める手助けをしていた」、「貧民は感染しているにもかかわらず仕事に行き雇い主たちに被害をおよぼした」。

 ロンドンから逃れてきた貧民や、港に住んでいたものたちは、近郊に疎開しようとするが、住民たちはペストをおそれて受け入れないこともあった。こうして難民たちがキャンプをつくり、歩哨もたてて生活する光景が見られた。

 

 

 

 

 けれども、疫病の問題が根絶されたわけではない。インフルエンザは変異をおこしやすい生物で、スペイン風邪の流行では数百万人が短期間で死亡した。また、疫病の脅威が減ったことで人類の人口増加が加速し、食糧問題をひきおこしている。また、過度の清潔さのためにポリオなど特定のウイルスが強力な毒性を帯び、小児麻痺をひきおこす例がある。生物兵器としての疫病の利用の可能性はゼロではない。

 著者いわく、人類は寄生生物の侵入には脆弱であり、これからも疫病は人類にとっての決定要因だろう。

 

 


 ニューヨーク、ロンドンでは、生物テロが発生した際の準備に取り組んでいるが、検知、ワクチン配布、隔離、治療等、すべての分野において対応は不十分であり、甚大な被害が想定される。

 大都市を舞台にした演習はすべて悲惨な結果となったため、非公表となった。

 

 

 

 コレラが蔓延したときは、感染した女工に無理やり毒薬を飲ませ殺した。まだ絶命していない者もまとめて焼却炉に持っていき焼き殺した。 

 

――むかしはコレラも、赤痢も、チフスも、すべて疫病とよんで1つにしていたように、それぞれの流行病の正体はほとんど暗黒のなかにあった。したがって防疫の方法も皆目立たず、疫病は暗黒のなかで、無力な人びとにむごい力をふるったのである。

 

 

 ◆むかしの日本

 

 

 宗門改帳を分析することでいくつかの意外な結果がみられる。ひとつは、人口推移が西高東低ということである。関東は停滞しているのに対し、近畿以西は人口が増加していることが判明した。

 もうひとつは、北関東と近畿における人口減少である。京大阪江戸という世界でも稀な大都市を抱えながら、なぜ人口が減っていたのだろうか。

 著者は「都市アリ地獄説」という仮説を立てて説明する。ヨーロッパでも見られた現象で、インフラや衛生設備の整備がされていない近代以前には、都市は人間の寿命を縮める場所であったというのだ。

 

 

 ◆理科の勉強

 ウイルスや細菌の性質は非常に不思議である。

 

 

 

 2003年にヒトゲノム(ヒトのDNA塩基配列)が解読された。その結果、全体の1.5パーセントがタンパク質の設計図であり、全体の半分以上がウイルスに由来する塩基配列であることがわかった。

 レトロウイルスが逆転写したDNA由来の配列を「レトロトランスポゾン」、DNAウイルスがヒトゲノムの中に残った配列を「DNAトランスポゾン」という。

 ほ乳類の胎盤機能をはじめとして、かつて動物に寄生したウイルスのDNAが生物の進化に寄与している例が見られる。

 生殖的には全く無関係の他の生物種へと遺伝子が移動する「水平伝播」という現象には、ウイルスが関与している可能性が高い。

 

 

 

 ゲノム解読の結果、ヒトの遺伝子はアブラナよりそう多くはないということがわかった。なぜヒトの遺伝子は意外に少ないのか。

 

 ――私は、知的だからこそ遺伝子は少なくてすむのだと考えたい。知的であるおかげで……わずかな数の遺伝子で複雑な機能を実現できるのではないのだろうか。わたしたちは脳を持つので、眼のない小さな線虫と比べて、感覚も鋭く、運動能力も大きく、取りうる反応の種類も多い。

 

 一方、植物は行動の選択肢が少ないため、様々な環境に対処するために多数の遺伝子をもたなくてはならない。

 ヒトのような複雑生物は外部から物質を取りこまないよう設計されている。

 一方、細菌は激しい化学変化にさらされるため外部の影響に適応するようつくられている。このため、高温環境や無酸素環境、太陽の影響の全くない場所で生きられる種が存在する(「極限環境微生物」)。