2019年8月10日土曜日

お肉屋さんの職人としての私。

お肉屋さんの職人としての力量


職人歴17年目。


 その実力や如何に?(笑)


 お肉屋さん猟師という題名で書かせて頂いているこのブログ。つまりお肉屋さんの職人が書いているという事です。僕の働いているお肉屋さんは法人化していますので、(有限会社)技術職のサラリーマンという事になります。主な業務は仕入れと食肉加工、そして人事管理です。


 仕入れは枝肉と呼ばれる皮を剥いで、半分に切った物を主に仕入れています。下の画像はその枝肉の様子。












 アキレス腱の所にフックをかけて、吊り下げています。この状態が枝肉と呼ばれています。黒毛和牛、牛一頭当たり平均で500kgもの重量があります(!)僕達の会社で取り扱っているのはもう少し小さくて420kgぐらいです。

 この枝肉を検品するために、必ず決められた位置で断面が見えるように切ります。これを胴切りと言います。この胴切りは必ず左側を切ります。この断面を見て格付けを行ったり、品質を見極めたりするのです。

 下の写真はその胴切りを行った後。写真に写っているのは神戸ビーフです。kg辺り4500円もします!!しかも骨付きですから、骨や脂を取り除くと、とんでもない金額に。一般庶民のお口にはめったに入らない代物になってきました。

 価格高騰の理由として、都市部などでの富裕層の消費拡大と最大の理由としてインバウンド需要が上げられます。訪日外国人観光客に絶大なる人気を誇ります。神戸の南京町などに行くと外国人がわんさか。ステーキ、しゃぶしゃぶやすき焼きに舌鼓をうっています。

 





 上の写真の ”このぶぶん” と印を入れてある部分は ”ロース” と呼ばれる部分。前半を ”リブロース” 後半が ”サーロイン” という部位名で呼ばれています。この名前なら聞いたことがあるのではないでしょうか。このロースをさばいている人が・・・






 お恥ずかしい(/ω\)不生わたくしです。包丁を入れているところはヘレ肉を取り外しにかかっている所。このロースは左側です。ヘレ肉はロース肉の内側にぴったりと張り付いていますので、短い包丁を使って少しずつ切り剥がしていきます。ご存知柔らかいお肉の代表、ヘレ肉。

 柔らかいので少し力加減を間違うと、裂けてしまいます。僕達小売りで捌きを覚えた職人は、このヘレを切り分ける作業を行う時には細心の注意を払います。これが量をこなさなければいけない卸売り業者さんなら、柔らかいヘレ肉なんのその、少し切り込みを入れて引っぺがしてしまうのです・・・

 更に余談ですが外国の卸売り業者さんの捌き風景をビデオで見て絶句!ヘレ肉を正に引っぺがしていました!!この作業は枝肉の状態で宙づりになっている時にワイヤーのような物を引っかけて剥がしていました。このような事が出来るのも屠畜して直ぐに捌くから可能なのでしょう。

 屠畜、とは家畜を食肉化するために屠場で処理する事です。筋肉は死後、徐々に硬直していきます。死後硬直と呼ばれるものです。例えば魚だと1日、鶏肉は2日、豚肉1週間、牛肉2週間が死後硬直をしている期間です。(種類により前後あり。全ておおよその期間。)

 この期間を経ると、生前の筋肉の柔らかさに戻ります。つまり屠畜直後は死後硬直が始まっていない、柔らかい状態なので骨から身が剥がれやすく、ワイヤーで引っ張るという荒療治が可能な訳です。日本で同じことを行わないのは流通させるときの目的が違っていたり、少し前だとBSE(狂牛病)の検査のために必ず1日流通を待たなければいけない事情があったため、などです。

 余談ですがこのヘレ肉、実は内臓肉の仲間です。特に写真の中で手前側に位置する部分は正に内臓肉の働きをしています。ヘレ肉の中でもっとも脂肪が少なく、そして熟成しません。ヘレ肉の頭、なんてステーキ屋さんで呼ばれたりしていますが、熟成しない、という事実をご存知の方はごく少数でしょう。

 正面から見ると下の写真のようになります。





 表面が黒くなっているのは熟成期間中に酸化しているからです。僕達の会社ではだいたい2週間ほど枝肉の状態で置いています。こうする事により風味が増して肉が美味しくなります。この熟成期間やどういった状態で冷蔵庫に置いておくのか、またどのような機能のある冷蔵庫に置いておくのかは、熟成をする企業さんの価値観により様々な方法が行われます。

 京都の有名なお肉屋さんだと2か月間(!)もの期間僕達が置いている状態と似通った方法で熟成させる会社もあります。あと大事な事ですが、熟成を施す牛肉の品質もその熟成の結果に重大な影響を及ぼします。低品質な牛肉だと僕達が行っている方法だと途中で腐敗、つまり腐ってしまいます。

 数年前から熟成ブームが来ていて、様々な飲食店で試食してきましたが、8割以上の飲食店さんは方法を間違えていたり、管理不足で腐敗しかけているものを提供しているという感触です。えっ!!!!腐敗しているものを食べているんですか、貴方は?と仰る方いるかもしれませんが、腐敗の定義はなかなか難しいのです、科学的に定義しようとすると。

 お腹壊しませんか?という意見も聞こえてきそうですが、実はお腹を下したり、いわゆる食中毒になる原因と、腐る原因を作っている菌は違うのです。子供やお年寄りなどは腐敗菌でも下してしまう事はありますが、腐っている物を食べてお腹を下すことは凄く難しい事です。

 なぜかと申し上げますと、腐っている物は基本的に喉を通りません!!人間の防衛本能です。実はそういわれて試したことがあるのですが(笑)危険なレベルで腐敗している物は本当に喉を通りませんでした・・・オエッ


 目も覚めるような強烈な刺激臭と胃が裏返るかのような、いや口のところにまで来ているのではと思うほど受け付けてくれません。これは完全に腐っている場合ですが、ああ腐敗に向かっているな、というレベルの時は意外と食べれます(笑)この状態を熟成肉です!といって販売しているお店の多い事!

 大気中で熟成させる場合、少しの温度変化が命取りになります。また熟成期間が長ければ長いほどお肉は温度の変化を微妙に感じ取ります。例えば厳密な4℃で1か月大気中で熟成させたお肉を切り分けて、飲食店の冷蔵庫で保管したと仮定しましょう。

 切り分ける事で表面積が格段に増えて、一気に酸化、熟成が進みます。そして大事な温度ですが、営業時間中の冷蔵庫は扉の開閉により温度は常に一定ではありません。冷蔵庫内の冷えた空気は扉の開閉により奪われ、急激に温度上昇します。これは家庭用冷蔵庫でも同じです。

 冷蔵庫の設定温度が冷蔵庫内の温度ではありません。どれほど優れた冷蔵庫でも熱伝導率の低い空気を冷やすには一定の時間がかかり、庫内の温度は激しく乱降下。これでは一気に熟成が進み、腐敗していくということになってしまいます。

 ちょっと長くなってしまいましたが、僕達が熟成期間を枝肉は2週間程度でコントロールしているのもこのような事を防ぐためです。経済的にも長すぎる熟成をしたお肉は不可食部分が多くなり高額になってしまうので、僕たちは行っていません。その後の熟成は真空包装をして行っています。

 ただし本当に良い品質のお肉はもう一週間ほど大気中で熟成させます。こうするとえもしれぬ良い香りが漂い始めます。このようなお肉を食べると、一生忘れられない思い出の味になるでしょう。ヨダレ🤤この香り、香気成分は食事を始める前からお部屋に漂うので、良いお肉は食事の前から楽しむことが出来ます。

 この香気成分なんですが、加熱してしまうと揮発して失われます。面白いことに食事中は美味しそうな匂いだな、と思っていた香りは嗅がずに、別の香りを嗅いでいるのです、不思議ですね~。別の香りも高温は苦手。すき焼きやしゃぶしゃぶをとびきりのお肉で作るときはあまり焼きすぎない、お湯にくぐらせすぎない、沸騰させないよう気を付けると更に美味しく召し上がれるという事です。


 おお!


 気がついたら30分も経っていました。やはり本職、お肉の事を語り始めると止まりません。今日はこれまで。またいろいろお伝えできればと思います。m(__)m













2 件のコメント:

  1. お店にか商品として出るまでには
    やっぱり大変な作業があるんですね。
    熟成肉食べたくなりました。

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    1. コメントありがとうございます。僕にとって初めて頂戴したコメントです!!お礼というにはおこがましいかも知れませんが、熟成について記事を書いてみました。良かったらまた見て下さい!

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