海外進出に失敗しやすい経営者 | 米国公認会計士のフィリピン税金や法律のあれこれ

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こんにちは、米国会計士の橋本です。

 

私は海外進出をする日系企業の支援を行っています。 支援している企業様というのは日本の東証1部上場企業様から小資本の零細企業様まで多様な会社がいらっしゃいます。その中でも思うのは海外進出を失敗しやすい経営者というのも本当に多いと思います。日本でよく言われているのが、起業から3年以内に倒産する割合は7割或いは5年以内に倒産する企業は9割あるといわれていますが、海外進出するにあたってもそれと同等か或いはそれより高いくらいだと肌感覚で感じています。

 

 「日本では5年で9割が倒産するといわれているのに海外だと倒産する確率がもっと高いのか?」

 

という反応が大多数だと思います。そもそも海外進出しようという企業というのはある程度の資本規模をお持ちの会社が行うことなので、そう簡単には倒産しないだろうとお思いだと思います。確かにそうです。日系企業の海外子会社が倒産というのは少ないかもしれません。しかし撤退というのは十分あり得ることなのです。その理由は利益を出せないからという単純なことなのです。すなわち経済的合理性がないから閉めるというのが撤退の主な理由なのです。

 

 ではなぜ、利益を出せなかったのでしょうか? それは理由があります。その原因は主に経営者の資質によるものなのです。

 

海外進出に失敗する主な理由を並べておきます。もし、今から海外展開しようとお考えやすでに進出されている方々が当てはまっているようなら今からできることはしておいたほうが良いと思います。

 

 1.リサーチ不足

   海外進出するには、その国の人口構成や市場動向、現地での競合、税制、先進情報、市場規模などの情報を集めずにスタートされる企業がたとえ大企業であっても本当に多いと思います。日系企業がターゲットにする市場はまずは進出済みの日系企業に売り込みをかけることが一般的です。しかしそれでは市場規模が小さすぎて採算ラインを越えてくるのは非常に難しいでしょう。やはりある程度の売り上げや利益を出そうと思えば、現地企業や現地の人々に受け入れられることが条件となります。そうなるとやはり現地情報を収集して自分の商品が売れる可能性があるかどうかを調べておく必要がありますが、そのような事前の調査なく何となく日本製だから高品質だから受け入れられるだろうという安易な希望的観測で進出する企業の多くはローカルへの売り込みに失敗しています。

 

 2.金と時間の使い方が下手

   事業の立ち上げ時はお金と時間はいくらあっても足りません。しかし限られた予算で結果を出そうすると、まず最初に考えることは支出をいかに抑えるかだと思います。 お金には活きた金と死んだ金があります。活きた金の使い方の上手い企業は支出に対する効果を最大限発揮できます。しかし死んだ金を使う経営者のいる会社は単なるコストセンターとなり下がります。

   では活きた金とは何か? それはつまり投資効果を最大限に引き出せる支出と経営者のことを指します。 同じお金の使い方をしていてもそのお金が活きるか死ぬかは経営者次第なのです。 例えば、2人の経営者が同時に10万円の家賃の事務所を借りたとしても、立地や利便性、経営効率を上げられるレイアウトかどうか、その使い方、何をするか、その事務所が稼ぐ収益との比較によって10万円という家賃が高いと感じるか安いと感じるかはその人次第だと思います。 また時間についても同じことが言えます。 朝9時から夕方5時まで働きますが、その間何をするか、その時間を有効活用するために、支出をすることによって時間をどれだけ省略できるか、効果をどれくらい発揮できるかをきちんと見積もっておかないとそのお支出もまた活きたお金にはなってくれないでしょう。

  

 3.戦略が雑

   事業を行っていると、売れ筋や流行りのものを売ろうとします。またそれらの商品群やサービスに比重を置いて事業を行っていると気づくのは、概してそれらの商品やサービスは付加価値が低いということが挙げられます。テレビやネットで騒がれている商品というのは外国にもありますが、それら売れ筋商品やサービスは、競合他社や同様の商品やサービスも増えてきます。そうなってくると商品やサービスに含まれる付加価値が低くなってしまいます。または自社だけでなく競合をも受け入れてくれるだけの巨大な市場があってそこに参入したとしてもやはり付加価値は低いものとなってしまいます。巨大なマーケットというのは、大きく見えるだけで実際に利益は一位から三位までの企業が総取りしていきます。4位以下の企業はこぼれてくるわずかな利益を得るのみになります。 単に市場が大きいからとか売れているからという理由でその市場に参入しようとして海外進出してこようとするとほとんどの企業が挫折を味わうこととなります。

 

 4.パートナー選びが下手

   フィリピンをはじめとする東南アジア企業には外資規制というものが存在しているため、現地企業との合弁がよく行われます。しかし外国人と日本人はビジネス文化や考え方、言葉、経営方針も異なり、それらを一つ一つ解決するためのコミュニケーションコストも多額になりがちで安易にパートナーを選ぶと運営方法や利益配分、経費の計上の仕方やお金の使い方など様々なことでトラブルや衝突が起こります。 パートナー選びに失敗して会社がつぶれたという企業主案外多いものです。

 

 5.先入観を持ちすぎ・どうでもいいことにこだわりすぎ

   意外と多いのが日本でも売れているから外国でも売れるはずだという先入観を持ってこられる方々です。例えば私のお客様の一人でありましたが、日本では繁盛していたサロンを経営していた女性経営者がいらっしゃいます。まつ毛のエクステンションを手掛けていらっしゃいましたが、フィリピンでは自身が手掛けるような長持ちする高品質のエクステをするサロンはまだ少ないので売れるだろうという予測を基に展開されていました。しかしそもそもまつ毛エクステをする人が圧倒的に少ないのが今のフィリピンです。ご自身の技術に自信がおありのようでしたが、結局は顧客開拓に失敗してわずか数年で撤退されました。ある意味リサーチ不足ともいえることかもしれません。 日本料理店を開く方もいらっしゃいますが同じことが言えます。自身のお店の味のわかる方にだけ来てもらいたいというのは本音かもしれませんが、お客様がお店に合わせるのではなくて、お店の商品やサービスをお客様の求めるものに近づける必要がありますよね。 理解してもらえる人にだけ商品を売っていても利益は出せないと思います。 常に新しいお客様を求めて、どのような商品を求めているかを確認して、求めるものに近づけることが重要です。

 

 6.改善しない

   海外進出というのは、非常にセンシティブなものだと思います。日本で売れている商品をそのまま海外に持ってきて売れるかというとそうではありません。日本人が購入できる価格帯と外国人が現地で購入できる価格帯には差異がありますし、選ぶポイントも日本人と外国人とでは違います。そのような場合、最初から自社の商品が売れないのもある意味当然起こりえます。しかしそこからどうやったら売れるようになるか、支持されるようになるか、喜んでもらえるかを考えることが重要になります。 その地で実際に住んでみて、顧客の反応を肌で感じて、それを改善につなげていかなければ売れる商品とはなっていかないでしょう。 現地企業に販売委託するのも同じことで、自身は日本に住んでいて販売だけを現地の企業に委託したとしても、自社の商品やサービスのどこを改善すればいいのかが分からなければ、単に時間とコストを無駄に使ってしまっただけになります。

 

 7.すぐ諦める 

   海外進出しても数年は必ずと言っていいほど黒字化しません。その間、コストを払い続けることになります。コストを払い続けながらも、少しでも受け入れられるように戦略を随時見直し、商品やサービスを改善して一日でも早く黒字化できるように努めなければいけません。その間も支出はかさんでいくことになりますが、その期間を「死の期間」といったりもしますが、赤字の期間を乗り越えられるかどうかも海外進出で結果を出せるかどうかのポイントとなります。その期間の長さにもよりますが、会社がすぐに結果を求めたり方針を転換するような企業は成功しずらいことでしょう。

 

  8.学習しない

   学習とはなにか?と思われる方も多いことでしょう。それはいろいろな意味があります。その国のルールであったり税金のこと、労働法やその他の法律、文化や宗教的背景、言語、考え方や仕事に対する考え方など様々です。 一見仕事には直接的に結びつきそうにないことであっても勉強していると必ず役に立ちます。以前会社の取引先の方と食事に行ったことがありますが、私が感心したのはその日本人のお客様は拙いながらもタガログ語で弊社のスタッフや自身の部下と話していました。フィリピン人はタガログ語で話すときはオープンマインドになってくれます。 それを知っているので一生懸命現地の言葉を勉強しているようです。 そういった仕事には直接影響しそうにないけど、仕事に関連することを勉強していると必ず役に立ったり自身がそれに助けられたりします。逆に何も勉強しようとしていないとどこかで足元をすくわれるものです。 私の知っている他の日本人の一人で、フィリピンに来てすでに数年経過しますが税金に関する知識が全くない人がいます。その会社は年商わずか1億~2憶程度の小さな会社ですが、現地の会計士に会計税務のことは任せっぱなしになっていました。弊社がそれを引き継いだのが2017年の11月くらいからでしたが、今年に入り税務署が2017年度の調査に入ったところ、税務署から言われたのが経理の不備や無配当などの件で約4000万円の追徴課税を言い渡されました。わずか1億の売上の会社に単年調査で4000万円を追加課税されたら倒産するしかありません。 それは会計士に税務や会計を任せっきりにしておいて自身は全く勉強しないことの危険性を意味しています。おそらく税金には興味がなかったのだと思いますが、天文学的な追徴金額を見て少しは勉強してくださいという私の言っている意味を理解してもらったようです。 まさしく「不勉強は会社を潰す」という言葉がそのまま当てはまる事例でした。

 

 海外には成長力や潜在的な可能性を持った市場がまだまだあります。しかし、進出した当初はそこで生きていくためのスキルや能力が圧倒的に不足しています。 その不足した部分をどうやって補っていくかが支出の腕の見せ所であって、そしてそのお金で会社や自身が成長していかなければいけないということでしかそのお金の価値を測るすべはありません。本気で学ぼうと思えばたとえ専属の先生がいなくても学べることは多いと思います。情報を集めることや学ぶこと、そしてそれらを基に決断することでしか、生き残ることはできません。

 

 単にお金もうけをするために海外に出てきているわけじゃなくて、自身や会社が時には壁にぶち当たり、時には挫折しながらも学習し大きく成長するチャンスでもあると思います。その可能性を持っているのも海外進出の面白さの一つと言えそうです。

 

 それでは今日はこの辺で失礼します。