意識障害の話 その① 〜ヒトの意識が清明であるという事〜

意識障害

ふーむ。白波は休憩室までの廊下を腕を組んだままに歩く。先日急変した先輩の患者さんはまだ目を覚まさない。どうにかしたいと思った。

そしてゆっくりと休憩室のドアを開ける。

沢尻 悠
沢尻 悠

百合ちゃーん!いらっしゃーい!

白波 百合
白波 百合

おわっ沢尻さん何してるんすか?

山吹 薫
山吹 薫

なんだ面識があるのか?

沢尻 悠
沢尻 悠

あれ?気になっちゃう感じー?

山吹 薫
山吹 薫

特に興味はない。

デスクに座る山吹の隣に沢尻がいた。白波は二人を交互に見る。

白波 百合
白波 百合

二人ともお友達だったんすね!

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁねー。この人友達少ないから。

山吹 薫
山吹 薫

いつから友達になったんだ。白波君が来る前にこの病棟にいた理学療法士だよ。

白波 百合
白波 百合

へぇぇ。だからウチの事も知ってたんすね。

沢尻 悠
沢尻 悠

先に言っちゃう感じ?もっと秘密を抱える男を演出しようとしてたんだけどなー。

山吹 薫
山吹 薫

人に言えない秘密なら沢山あるだろう。

ふん。と山吹は笑ってみせる。そのやり取りも慣れた様子である。自分とは違う感じっすねと。白波は思う。そして丁度良いとも思った。

白波 百合
白波 百合

ちょっと今日は聞きたい事があるっす!

沢尻 悠
沢尻 悠

なになにー何でも聞いてねー!

山吹 薫
山吹 薫

そう前のめりになるな。で何が聞きたいんだ?

白波 百合
白波 百合

意識障害についてっす。

山吹の体がピクリと動いた気がした。露骨すぎたっすかね。白波は体を少し縮ませる。沢尻はそんな二人の顔を交互に見た。

沢尻 悠
沢尻 悠

いいよいいよー!百合ちゃんのためなら何でも教えてあげるー

白波 百合
白波 百合

ありがとうっす!

山吹 薫
山吹 薫

なら今回はお前が語るんだな。

沢尻 悠
沢尻 悠

うぇっ!薫さんの前で?

山吹 薫
山吹 薫

当たり前だ。

ひゅーう!と沢尻は人差し指で山吹を指し謎の相槌を打つ。そして、さてと・・・と白波の方を向き直る。

沢尻 悠
沢尻 悠

先ずは意識って何か分かる?

白波 百合
白波 百合

えぇと目を覚ましている事っすかね?

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁそうなんだけどねー。ただ目を開けているのが意識が清明だとは言えないよねー?例えば酔っぱらい過ぎて、ぼんやり同じ話を繰り返すなんて、意識が清明とはいえないね。

白波 百合
白波 百合

確かにっすね。ちゃんと目が開いていて周りの事が分かっているって事っすかね?

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう頭良いじゃん!いつ、どこで、誰がといった風に考えられて表出できないと意識が清明だとは言えないんだよー

山吹 薫
山吹 薫

白波君何をニヤニヤと。意識という言葉は命という言葉と同じくら今でも議論されていて明確な答えは出ていないが、今は沢尻の表現で正しい。

だよねー。と沢尻は指先を山吹に向ける。ふん。と山吹は鼻を鳴らす。なんだか進藤さんとは全然違うっす。と白波も笑顔になる。

山吹 薫
山吹 薫

単純に意識といっても考え方は膨大にある。意識と無意識、随意や不随意、注意や認知。様々な要素が関わる。厳密にいうと全てが分かっている訳でもない。

沢尻 悠
沢尻 悠

そこまで難しく考えずに最初は脳幹網様体賦活系ってわかるかい?

白波 百合
白波 百合

確か学生の時に聞いた覚えが・・・

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁそんなもんだよねー。読んで文字のごとく脳幹の網様体っていう部分。まぁいろんな神経が入り乱れている部分にね人の目を覚まさせるニューロン達がいるんだよ。それが働くことでオレ達は目を覚ましていると言われているの。

白波 百合
白波 百合

確かにそうっす!そこから脳全体に刺激を与える・・・上行性網様体賦活系って言ったっすよね?

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。難しいことは先ずは置いておいて、脳幹網様体から脳全体に刺激が行っていわゆる目が覚めている。といった事になるねー。

ふむふむ。と白波はメモを取る。むっと先輩が口を結ぶのが見えた。

山吹 薫
山吹 薫

まぁそうだとして、ここまでの話で意識を保つ条件がわかるな。

白波 百合
白波 百合

えぇと、脳幹網様体が障害されていない事、脳全体が障害されていない事・・・っすかね。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。良い感じだねー!あとはそれを伝える神経群が障害されていない事。

白波 百合
白波 百合

あっ知っているっす電解質異常っすね!

山吹 薫
山吹 薫

そうだな。それらは代謝性脳症と呼ばれる。他にもいろいろな理由があるからそれもまた知っておくと良いな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうそう。でも意識障害があるという事はそれだけで重大な障害だからよく注意しないとねー。いつもと違うと感じたら要注意だね。

白波 百合
白波 百合

そうっすね・・・場所が場所っすもん。

うん。と山吹がうなずくのが見えた。自分の後輩二人が話しているのはどんな気分っすかね。と白波はそれが気になった。

沢尻 悠
沢尻 悠

まぁ。酔っ払いすぎて同じ話を繰り返す薫さんの姿も、普段の姿から見れば重大な障害かなー。

山吹 薫
山吹 薫

おい。それは今は関係ないだろう。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうかなー。だって急性アルコール中毒でも意識障害は起きるでしょー。この人に呑ませすぎたら面倒だから覚えといてー。

山吹 薫
山吹 薫

中毒になるまで呑んではいない!

白波 百合
白波 百合

えへへ。そんな先輩も見てみたいっすけどねー

お前ら。と山吹は腕を組む。自分もいつかこんな風に先輩と話せるようになるっすかね。白波は少しだけ羨ましい気分で沢尻と山吹を眺めていた。

白波百合のノート 33

・意識が清明とは、目が開いているだけではなく自分と周りの事が解っている。という事。

・意識には脳幹網様体が大脳全体にニューロンを通して脳のいろんな場所に刺激を伝える事に良り目が覚める。

・脳幹網様体自体の障害、大脳自体の広範な障害、伝えるニューロンの障害。大まかにこの三つで意識障害は起こると考えておこう。

・いつか酔っ払う先輩も見てみたい。

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