血管の話 その① 〜体を巡る血管の働き〜【山吹薫の昔の話】

山吹薫の昔の話

遠くでサイレンが鳴っている。主任と二人きりのリハ室で山吹薫はそんなことを思った。目の前の石峰は薄い唇を三日月のようにして笑みを浮かべる。その大きく丸く開かれた瞳はまるで猫の様だと思った。

石峰 優璃
石峰 優璃

それで血管とはなんだ?

山吹 薫
山吹 薫

急かさないで下さい。噛み砕くのに時間が掛かります。本当にやるんですか?

石峰 優璃
石峰 優璃

それは君がしっかり理解できていない証拠ではないのか?

ムッと。山吹は眉を潜める。ああ言えばこう言う。口の減らない主任だと山吹は息をゆっくりと吐く。

山吹 薫
山吹 薫

血管とは極端に言えば、心臓から酸素や栄養を含んだ血液を全身に巡らせて、再び心臓に戻す働きがあります。そしてその途中で老廃物を回収し体外に排泄する器官ですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

おぉ中々良いじゃないか。続けて続けて。

山吹 薫
山吹 薫

大別すると動脈、毛細血管、静脈という流れで心臓に戻ってきます。体循環では酸素を含む鮮やかな赤色をしたものが動脈になります。

石峰 優璃
石峰 優璃

心臓から出るものを動脈。心臓に戻るものを静脈、その間で栄養や老廃物を交換や代謝するのが毛細血管だな。だから心臓から出て肺に向かう動脈はまだ酸素を受け取っていないから鮮やかな色とは言えないけれど肺動脈となり、酸素を受け取って心臓に戻る時には静脈というが鮮やかな赤色をしている。

山吹 薫
山吹 薫

大きく心臓からは二本の動脈が出ている訳ですね。右の心室からは肺へ向かう動脈。そして左の心室からは身体中に巡る動脈が出るという訳ですね。

なんとも言葉で説明するのは難しいと山吹は思う。いっその事図解して説明しようとしたが生憎自分は絵を描くのが苦手だ。頭に必死のそれを思い浮かべながら説明しよう。それしかない。

山吹 薫
山吹 薫

まずは心臓の詳しい説明をしましょうか。

石峰 優璃
石峰 優璃

まぁそれは追い追い聞こうか。物事を理解するのはまず全体像を大まかに説明しないとイメージはつき難い。

山吹 薫
山吹 薫

そうでしょうか?ならどうやって体に血が巡るかからですね。心臓の左室から出る動脈は弾性に富む三層の構造をしています。外と内、そしてその中間の弾性に富む中膜ですね。それが心臓が縮んだ時の圧力を受けて、広がり、そして体の隅々まで血液を巡らせます。

石峰 優璃
石峰 優璃

ポンプの先のホースの様な役割だな。心臓が収縮し、動脈は上行しつつ、両側へ分岐する。大きな血管は左側へと弓なりに走り、そして下降していくんだな。人の急所が左胸で、心臓が左にあると言われる所以かもな。

石峰は細くて長い人差し指で山吹の左胸をついた。なんの真似ですかと目を細める山吹に、子供の様な笑顔を浮かべるだけで石峰は応えた。

山吹 薫
山吹 薫

そして大動脈と呼ばれるそれらは胸から腹部へと走行して、それぞれの臓器へと枝を出していきます。

石峰 優璃
石峰 優璃

その前に心臓から上行する上行大動脈、その後に大動脈弓となる訳だが、体の中に血を巡らせる他にも重要な頭に血を巡らせなければならない。両手にだってそうだな。

山吹 薫
山吹 薫

上行大動脈の後に右手の方へ腕頭動脈、その後に右の総頚動脈、右の鎖骨の下の、鎖骨下動脈、椎骨動脈が分岐するのですよね。

石峰 優璃
石峰 優璃

左からは腕頭動脈はないが、同じ様に左の総頸動脈、鎖骨下動脈、左の椎骨動脈が走行するな。総頸動脈は前面から椎骨動脈は脊椎を通って後方から脳を栄養すると考えればイメージはつきやすいな。

山吹 薫
山吹 薫

そして鎖骨下動脈が上腕から前腕へと走行し橈骨動脈を経て指先にいくのですね。

中々言葉にするとややこしいと思う、まるで学校の講義だと思ったが、講義をしている相手が主任であるからタチが悪い。

山吹 薫
山吹 薫

そして大動脈は胸の肋間筋や気管支、食道に栄養を与え、その後腹部の大動脈となり肝臓や腎臓、脾臓、腸管といった重要な臓器へと栄養を与えます。そして子宮や膀胱、直腸を栄養する内腸骨動脈、と太ももから膝裏、そして腓骨や足背へと動脈は至り手先や指先へと至ります。

石峰 優璃
石峰 優璃

まぁ道路の様なものだな。心臓をスタート地点にして、大きな国道がそれぞれの臓器や筋肉に分岐しながら手足の末端へと進む。よく見る人体の図解に沿ってな。

山吹 薫
山吹 薫

本当に長旅ですね。すっかりと口が渇いてしまいましたよ。

石峰 優璃
石峰 優璃

我々と一緒でこの流れが阻害されると臓器が乾く。そして重要な脳もまたそうだ。例えば心肺が停止する。もしくは心臓が止まる。心筋梗塞後の致死的な不整脈とかだな。そうすると当然動脈の中の血液の流れも滞る。

山吹は口を結ぶ。ここに配属されてから何度もそれは見た。石峰は右手の指先を頭に当てる。

石峰 優璃
石峰 優璃

脳に向かう動脈が阻害されれば意識は消失する。そして各臓器に流れる血液が滞ればそれは重大な障害を与える。多臓器機能障害という訳だな。流れが滞るだけではなく破綻すると脳梗塞や大動脈の乖離、そして破裂と循環血液性のショックを呈する。

山吹 薫
山吹 薫

考えただけで恐ろしいですが、そもそもその道路が破綻したり詰まったりするとつまりは酸素や栄養どころじゃ無くなるってことですね。

石峰 優璃
石峰 優璃

生命を維持するのが困難となる。よって何かしら大動脈系の疾患があるとリハビリもまた厳密な血圧のコントロールを行いつつ介入しなければならない

山吹 薫
山吹 薫

運動負荷で血圧は上がりますからね。モニタリングされているのは安静時の血圧だからですね。

そうだな。と石峰はまっすぐと山吹を見る。こうやって説明して分かったが本当に語るべき事があるのだなと思う。そして語っていく内に頭の中でまとまっていく。そんな気分がした。

山吹薫の覚え書 2

・弾性に富んだ動脈は心臓の左室から出た血液を四肢末端、各臓器へと送り届ける。大動脈は国道でそこから分岐する私道の様なもの。

・大動脈の疾患がある場合には厳密な血圧の管理が必要。もちろん運動時の血圧もである。

・やはり知識を言葉にするのは難しい。

【これまでのあらすじ

内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事をを感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。興味がある方は下のリンクからどうぞ。

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