魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 79

  • 2020.06.30 Tuesday
  • 11:41

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 私は寝る前、ツィックル便でヨンベに、菜園界へもどってきたことの報告と、明日学校でね、というメッセージを送った。
するとすぐに返事がきて、そこには
「ポピー、お帰り! 無事でよかった! 明日も学校はお休みだから、また二日後に会おうね。ゆっくり休んでね。」
と書かれてあった。
 あ。そうか。
 明日は、今回地母神界へ行くことになった人たちのため、特別にもうけられた休みなんだ――忘れてた。
 私は肩をすくめながらすぐに
「忘れてた! また二日後にね。ありがとう!」
と送り直し、それからほっと息をついた。
 なんだか、じわじわとうれしくなってくる。
 そうか、明日はゆっくり寝ていてもいいんだ。
 わーい!
 私はめざまし時計のセットをよろこんで切った。
 そうして最後に、もういちど窓ごしに月をながめてからベッドに入り、ぐっすりと眠った。

 

 翌日はいい天気だった。朝はあっという間にくるんだよね。
 いちおう時計を見るとなんと、いつも学校に行く日より一時間以上も早くに目がさめていた。
 でも私はふたたび眠りおちたりせず、すぐにベッドから出た。
 お休みの日はふしぎと、早く起きられるんだよね。
 今からなにをしようかな、とわくわくしながら、着がえて下におりる。
 だれもいない。
 父は地下の書庫で、ふくろうのユエホワを写生しているか、疲れて眠りこけているかだろうと思う。
 けど母までが私より遅いなんてことは、もしかしたらはじめてかも知れない。
 いつも、お休みの日でも早起きして朝ごはんをつくってくれているもんね。
 なのでだれもいないキッチンで私は、つくりおきしてあったプィプリプクッキーと、かんたんにつくったレモネードをバスケットに入れ、大きな音をたてないようにしながら外へ出た。
 いい天気だから、朝の散歩をしようと思いついたのだ。
 右手にバスケット、左手にツィックル箒、そして背中には、リュックを背負って。
 庭に出て、うーんとのびをする。
 気持ちいいなあ!
 鳥が、ピイピイ、とかチュンチュン、とか鳴いている。
 ああ、菜園界の朝だ。
 そう思った。
 平和な世界の平和な朝だ!

 

「おっはよん」

 

 そのひとことを聞くまでは。
 声は、ミイノモイオレンジの木の上から聞こえた。
「ほら、朝めし」声の主の鬼魔はそういって、枝の上からオレンジ色の果物をなげおとしてきた。
 私はあわてて箒を小脇にかかえバスケットを腕にかけて、両手でそれを受け取り「パパは?」と鬼魔を見上げてきいた。
「寝てるよ」ユエホワは軽く肩をすくめた。「書庫で」
「ふうん」このムートゥー類はおそらく、あの“ことばにつくせないほど美しい”ふくろうの姿で、通気孔からどろぼうのようにはい出てきたんだろう――私は想像してふきだしそうになったけど、こらえた。
「どこいくの」ユエホワはそうきいたけれど、私はとくになにもきめていなかったので、
「別に」と答えた。「散歩」
「ふうん」こんどはユエホワがそういった。「リュックにバスケットに、大がかりな散歩だなまた」
「性悪鬼魔がすぐ出てくるからね」私はまっすぐ彼を見上げて答えた。「いつでも攻撃できるようにしとかないと」リュックをかるくたたく。中身はもちろん、キャビッチだ。
「あ、そうだ」鬼魔はするっと話を変えた。「行き先きまってないんならさ、いっしょにあそこ行こうぜ」
「どこ?」
「あのほら、あそこ」ユエホワはちらっと空をさす。「前に行ったとこ」
「ん?」私は首をかしげた。「チェリーヌ海岸?」
「いやいや」ユエホワはかるく手をふってヒテイしたあと、ばさっと木の枝から飛び上がった。「じゃあ俺について来いよ。行こうぜ」また空を指さす。
「ん?」私は首をかしげながら箒にまたがり、飛び上がった。
 ああ。
 ばかだった。

 

 ユエホワはときどき私をふりむいて見ながら、よく晴れた空をどこまでも飛んで行く。
 私は風が気持ちいいことに、微笑みまで浮かべて、なにもうたがわずその後をついていった。
 キューナン通りをぬけ、チェリーヌ海岸も過ぎ、森の上を飛びはじめた。
 どこに行くんだろう。
 一回行ったところ……前にユエホワがいちど、アポピス類につかまってしまいしばりつけられていた、あの森か?
 でもそんなところにいって、どうするんだろう?
 なにかめずらしい木とか、見たことない鬼魔の仲間とかを教えてでもくれるつもりなのかな?
 ああ。
 ばかな私はそんなことをのんきに思っていた。
 相手はユエホワだというのに。
 この、悪だくみとずる賢さにかけては鬼魔界ズイイチの悪徳ムートゥー類だというのに!
「よし」しばらく飛んだあとユエホワはそういって、こんどは上の方にむかって飛び上がりはじめた。「ここから上がってくぞ」
「ん?」私はのんきに後からついて上がっていった。
 空は本当に気持ちのいい色をしていて、箒の上で私はふうー、と大きく息をつき目をとじたのだった。

 

 そしてつぎに目をあけたとき、私は大きな門の前にいた。
 あたりはどす黒い景色に変わり、ずむむむむ、とか、ぎいいいい、とか、ごぶごぶごぶ、とかいやな音が聞こえてきて、そしてものすごく、くさかった。
「ん?」私はもはや、のんきに首をかしげてはいられなかった。
 そこがどこなのかがわかるまでに、十秒かかった。
「よし」その間にユエホワは、もはや私の方に目もくれず、門の前に片ひざをついてこうべをたれた。「陛下。私ユエホワが戻って参りました」
 ずももももも。
 三秒ほどその音がしたあと、
「ごくろう。ユエホワ」
という雷の音が鳴り響き、

 

 ごりごりごりごりごりごり

 

という耳がハカイされるかと思うほどのでっかい音をきしませて、私の前の門の扉がゆっくりと開いた。
「ここ」私は、ぶるぶるふるえつつ左右にひらいてゆく扉を目で追いながら言った。「鬼魔界?」
「さすが」ユエホワはひとことだけ言い「じゃ、行こ」と当たり前に歩き出した。
「いや」私もひとことだけ答えた。「帰る」
「まあまあまあ、あいさつだけだからさ」ユエホワはなぜかにこにこしながら私の機嫌をとろうとした。「今後のほら、地母神界との平和と友好のためにさ」
「――」私は目をきょろきょろさせて考えた。
 たしかに、それは必要なことなのかも知れない――
「さ、行こ」ユエホワが私の腕をつかみ、さっさと歩き出した。
「いやよ」私は引っぱられながらハンシャテキにキョヒした。「なんでせっかくの休みの朝に鬼魔界を散歩しなきゃいけないの」
「だからひとこと物いうだけだって」ユエホワは片目をぎゅっとつむってふり向いた。「このあと、アポピス類たちとひともんちゃくあるかもだけど、これこれこういうわけでしてー、みたいな。それがすんだらもう自由にどこでも行けるしなにやってもおとがめないしさ」
「――」私はユエホワの説明を頭の中で整理しなければならなかったため、その間にだいぶ奥まで金色の爪の手によって引っぱられていったことに気がつかなかった。「いや、べつにあたし、鬼魔じゃないから、鬼魔の王さまに物いわなくても自由にどこでも行けるし」
 やっとそう言い返すことができたとき、私はすでに鬼魔王の目の前に立っていた。
「陛下。ただいま戻りました」ユエホワがふたたび片ひざをついてこうべをたれる。
「貴様は、ポピーか」陛下が、突っ立ったままの私を見て言う。
「あ」私の頭のなかでいろいろなものごとがぐるぐると回転し、すぐに返事ができずにいた。
「このたびは、殊勝であった」陛下はそんな私に向かって、そうつづけた。

 

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