前回は、日本認知症学会誌「Dementia Japan」(34:76-85,2020)に掲載された「一過性てんかん性健忘症候群」についての研究報告をご紹介しながら「認知症」と「てんかん」の類似性についてお話しし、認知症をはじめとする様々な病態のベースに「てんかん性異常放電」があることを示す研究報告が増えてきていることから、それらの病態の診断や治療、予防に対応できるよう「てんかん」の診断的な概念も拡がってきているとお話ししました。
今回も「一過性てんかん性健忘症候群」についての研究報告を引用しながら、「認知症」と「てんかん」の類似性についてお話ししていこうと思います。
発作間欠期の「てんかん性の異常放電」がもの忘れ症状を引き起こす
明らかなてんかん発作がないものの、脳波検査では異常放電が認められることから、いわゆる発作間欠期(発作が治まっている期間)に神経細胞の異常放電が起こり、それが認知障害を引き起こしている可能性があるということが分かってきました。
「一過性てんかん性健忘症候群」についての研究報告によれば、脳波検査で側頭葉に継続的な異常放電が認められるけれども、臨床上は明らかなてんかん発作が認められない認知障害のある高齢者に対して、AED(自動体外式除細動器:リズムが乱れて細かくブルブル震えるだけで血液を全身に送ることができなくなった心臓に対して電気ショックを与え、正常なリズム取り戻させるための医療機器のこと)を使用したところ、認知機能障害が著しく改善したという症例報告が相次いでいるそうです。
心臓は、右心房にある洞結節から規則正しいリズムで発生した電気信号が、房室結節を通じて心室全体に伝えられることで規則正しく拍動しています。
AEDは心不全に陥った心臓に電気ショックを与えることで、乱れた電気信号を整える作用をするのですが、AEDの電気ショックは心臓だけでなく当然脳神経にも届きます。
「てんかん性異常放電」も脳の電気信号の乱れであり、それがAEDの電気ショックによって整えられるのではないかと考えられるのです。
つまり、AEDの使用によって認知機能障害が著しく改善したということは、発作間欠期の「てんかん性異常放電」が認知機能障害の原因の一つであった可能性が高いということになります。
昔から精神科では「電気けいれん療法」が行われている
AEDの使用によって認知機能障害が著しく改善する症例があることを知り、すぐに思い出したのが精神科で行われている「電気けいれん療法」のことです。
「電気けいれん療法」とは1938年以来、多くの精神疾患患者さんに行われ、多くの改善をもたらしている精神科専門療法の一つであり、電気で頭部を刺激する(通電する)ことで、痙攣と同じ変化を脳の中に起こし、脳に様々な変化を生じさせることによって障害を受けた脳の機能を回復させようとする治療法のことです。
「電気けいれん療法」は、様々な原因で起こるうつ状態やそう状態、興奮、幻覚、妄想などに加え、一部の慢性疼痛にも効果があることが分かっており、自殺の危険が切迫したうつ病などでは第一選択の治療法とされているとのことです。
主たる適応はうつ病であり、中でも中高年以降の妄想伴う拒食や拒薬、自殺念慮が強い重症の症例に対して明らかな効果が得られているそうです。
ちなみに通電する際は、患者さんが苦痛に感じることがないよう麻酔医から静脈麻酔薬を投与された上で、しっかり全身管理されながら行われるそうです。
通電後はしばらくぼんやりしていますが、約2時間後には覚醒して食事が摂れるほどまで回復するとされています。
「電気けいれん療法」が「うつ状態やそう状態、興奮、幻覚、妄想などに加え、一部の慢性疼痛にも効果がある」こと、さらに「症状の強い症例では明らかな効果が認められている」というのは、とても興味深いことだと思います。
なぜなら、これらの症状は精神科疾患の多くで認められるものですが、その原因の一つが「てんかん性異常放電」である可能性が示唆されているからです。
前回もお話ししたように頭皮脳波検査からでは検出できない「てんかん性異常放電」があり、それが頻発して「意識の変容」をベースにして様々な症状を引き起こしたり、さらに脳神経を変性させることで病態を進行させる可能性が高いということも分かってきました。
たとえ通常の頭皮脳波検査で「てんかん性異常放電」が認められなくても、実は脳内では「てんかん性異常放電」が頻発しており、それらが原因で精神疾患や認知症の症状を引き起こしたり、さらには病気を発症・進行させている可能性があるということです。
これはとても重要なことだと言えます。
なぜなら「てんかん性異常放電」は投薬治療によって抑制できることが多く、「てんかん性異常放電」が原因で起こっている症状であれば、治療できる可能性が高くなるからです。
次回からは「てんかん」によって現れる症状や特徴などについて整理しながら、「認知症」の症状との関連性についてさらに探っていきたいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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