認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「てんかん」から「認知症」を診る(1)~「認知症」と「てんかん」~

前回までにお話しした「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似性についての中で、認知症の方は頭皮脳波測定では検出できない「てんかん性異常放電」が頻発している可能性が高いことをお伝えしました。

そしてこの「てんかん性異常放電」によって、記憶障害や「意識の変容」、幻覚、妄想、易怒性、睡眠障害、ムズムズ脚症候群、しびれ、神経痛などの様々な症状が引き起こされている可能性があることに触れ、もしそうであるならば「てんかん性異常放電」は投薬治療によって抑制できることが多いので、認知症の治療にも有効ではないかとお話ししました。

今回からは、改めて「てんかん」の症状や特徴を整理することによって、「認知症」の様々な症状と重複している部分を探りつつ、認知症症状の中には「てんかん性異常放電」が原因で生じているものが少なくないのではないか、という仮説を検証していければと思います。

 

てんかん」とは

世界保健機関(WHO)では、てんかんは「脳の慢性疾患」で、脳の神経細胞に突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返す発作(てんかん発作)を特徴とし、それに様々な臨床症状や検査異常が伴う、と定義されています。

てんかん発作の症状は実に多彩であり、手足や身体を強張らせる強直発作、短時間だけれども突然意識が消失する欠神発作、全身または手足がピクッと動くミオクロニー発作、感覚異常・感情変化・行動異常といった様々な症状が生じる複雑部分発作などがあります。

てんかん性の異常放電が起こりやすい部位としては側頭葉が挙げられますが、異常放電は脳のどこの部位にでも起こりうるものです。

そのため異常放電が起こった脳の部位が司る機能に応じて、当然現れる症状も変わってきます。

そのこともてんかんの症状を多彩にしているのだと思われます。

認知症を伴う神経変性疾患においても、障害された脳の部位に応じて多彩な症状を出すのと同じだと言えます。

 

てんかんの「部分発作」と「全般発作」

てんかん発作は、異常放電が起こった部位や電気的な興奮の拡がり方によって「部分発作」と「全般発作」に分けられます。

①部分発作

まず「部分発作」は、異常放電が脳の一部に限定されて起こる発作になります。

ただ「部分発作」の中には、続いて「全般発作」に発展するものもあります。

さらに「部分発作」は、意識がはっきりしている「単純部分発作」と、意識障害が伴う「複雑部分発作」に分けられます。

「単純部分発作」では本人の意識がはっきりしており、発作中の症状を覚えていることが多いとされています。

また異常放電を起こす部位によって、運動機能や視覚・聴覚の異常、自律神経の異常など多彩な症状を引き起こします。

一方「複雑部分発作」では、意識障害を伴うため、記憶障害があることが多くなります。

ただ発作中に転倒するようなことは少ないとされ、急に動作が止まってボーっとするような発作(意識減損発作)や、ふらふら歩き回ったり、手を叩いたり、口をモグモグさせるといった「自動症」が現れることがあるとされています。

②全般発作

大脳の広範囲で過剰な興奮が起こることで発生し、発作中はほとんどの場合、本人に意識はありません。

以下のような発作のタイプがあります。

・強直間代発作

突然発症して、強直発作(突然意識を失って、歯を食いしばり、呼吸が止まって、手足を伸ばした状態で全身を硬直させ、それが数秒〜数十秒間持続するような発作。全身を強直したまま激しく倒れることもあります)と間代発作(手足をガクガクと一定のリズムで曲げたり伸ばしたりする痙攣が起こり、数十秒~1分以上続くような発作)を起こすとされています。

発作直後は意識がもうろうとすることが多いので事故や怪我に注意する必要があります。

発作後は、自然睡眠(終末睡眠)と呼ばれる30分〜1時間くらいの眠りに移行することがあるそうですが、その後は以前の状態に戻るそうです。

・脱力発作

全身の筋肉の緊張が低下・消失して、崩れるように倒れてしまう発作だとされています。

発作の持続時間は数秒以内と短く、発作と気づかれにくいこともあります。

・欠神発作

数十秒間にわたって意識がなくなる発作ですが、痙攣を起こしたり、倒れたりすることがない発作だとされています。

会話中や何かをしている最中に、突然意識がなくなるので、急に話が途切れたり動作が止まったりします。

注意力がない、集中できない、ボーっとするなどと思われて、周囲の人がてんかん発作に気が付かないことも多いようです。

学童期や就学前に症状が現れることが多く、女児に多い傾向があるようです。

また「突然意識がなくなり、ボーっとした目つきになる」「眼球が上転する」「まぶたがピクピクする(1秒間に3回程度の頻度)」「動作が止まる」「呼びかけにも反応しない」などの症状が現れることもあるそうです。

・ミオクロニー発作

全身あるいは手足などの一部の筋肉が一瞬ピクッと収縮する発作だとされています。

瞬間的な症状のため、自覚が少ない発作のようですが、連続して数回起こることもあります。

また転倒してしまうほど症状が強いこともあるそうです。

光によって誘発されることがあり、寝起きや寝入りに起こりやすい傾向があるとされています。

 

認知症の症状」と重複している「てんかん発作の症状」

このように「てんかん」の定義、発作の種類とその特徴について改めて整理してみますと、やはり「認知症の症状」と極めて似ていたり、一部は重複しているのではないかと思われます。

これは「てんかん」でも「認知症」でも障害された脳の局在部位に応じて症状が出現するので、当然といえば当然なことなのかもしれません。

そのことを踏まえた上で、重複している症状を整理してみますと、まず「単純部分発作」では、異常放電を起こす脳の部位に応じて、運動機能や視覚・聴覚の異常、自律神経の異常が起こるとされています。

認知症疾患の多くで、ふらつきや動作緩慢などのパーキンソン症状や自律神経障害が合併し、さらにそれらの症状は時間帯や日によって波があり、良い時と悪い時があることが多いことが分かっています。

これらの症状は「単純部分発作」で見られる運動機能や自律神経の異常と重複していると言えます。

また以前ご紹介した「認知症チェックリスト」のところでもお話ししましたが、パーキンソン症状も自律神経障害も出現する症状は非常に多彩であることが特徴であり、その点についても「てんかん」の特徴と似ています。

また視覚・聴覚の異常については、レビー小体型認知症(DLB)や嗜銀顆粒性認知症(AGD)などで頻繁に見られる幻視や変形視、幻聴などの感覚異常と重複しているのではないでしょうか。

 

さらに「複雑部分発作」や「欠神発作」、「ミオクロニー発作」の症状と重複しているものもありますが、それらについては次回お話しいたします。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain