前回から、「てんかん」の症状や特徴を整理しながら「認知症」の様々な症状と重複している部分を探りつつ、認知症症状の中には「てんかん性異常放電」が原因で生じているものが少なくないのではないか、という仮説について検証していますが、今回はその続きになります。
前回の終わりに「単純部分発作」の症状で「認知症の症状」と重複するものについてお話ししました。
次に挙げる「複雑部分発作」の症状は、「認知症の症状」と重複する部分がさらに大きくなると言えます。
「複雑部分発作」では、急に動作が止まってボーっとするような発作(意識減損発作)が見られるというのですが、これは認知症の方のほとんどに合併する「意識の変容」の症状そのものだと言えます。
「意識の変容」で覚醒度が落ちると、突然動作が止まって固まってしまったり、一点を見つめてボーっとしたりしますが、これは「複雑部分発作」で見られる「意識減損発作」にそっくりだからです。
認知症の方では急にスイッチが入って、目つきが変わり、烈火のように怒っていたかと思ったら、そのうちにケロッとして、さっきのことなどは嘘のように忘れているようなことがありますが、これもある種の発作のようであり「てんかん発作」と深く関連しているような気がしてなりません。
「複雑部分発作」の中には、不意に始まっていつの間にか終わっているものが少なくないと言われているからです。
また「意識の変容」で覚醒度が落ちると、当然その間の身体・精神活動全体に影響が出ることになり、認知症の方では、その他の認知症症状を増悪させてしまったり、新たな症状を引き出してしまうことがあるので、多くの認知症症状のベースには「意識の変容」があるのではないかということは以前からお話ししてきました。
したがって「意識の変容」によって覚醒度が落ちると、記憶や認知機能も低下しやすくなり、その間に起きたことがいわば「あいまい」になるため「もの忘れが出てきた」と表現する方も少なくありません。
このことも「複雑部分発作」では意識障害が合併することによって「記憶障害」が出現しやすいとされていることに一致します。
また「意識の変容」では、覚醒度が低下しても、失神して転倒してしまうほど強い症状が出ることは「まれ」であり、「複雑部分発作」では発作中に転倒するようなことは少ないとされていることにも一致しています。
「複雑部分発作」で見られる「欠神発作」も「意識の変容」の症状と大きく重複しています。
「欠神発作」では数十秒間にわたって意識がなくなるけれども、痙攣を起こしたり倒れたりすることがなく、会話中や動作中に突然意識がなくなって止まってしまうことについて、周囲からは(もちろん本人も)注意力がない、集中できない、ボーっとするなどと思われるだけで、まさか病気の「症状」だとは気付かれにくいとされています。
これも「意識の変容」の症状があるとよく聞かれるエピソードであり、一致しています。
また「ミオクロニー発作」は全身あるいは手足などの一部の筋肉が一瞬ピクッと収縮する発作だとされていますが、認知症を伴う神経変性疾患ではミオクローヌス(急に手指、手足、顔面、まぶたなどの身体の一部がピクッと動いて一瞬だけ動く)などの不随意運動(自分の意志とは関係なく身体が勝手に動く)が合併することがたびたびあります。
そうすると認知症疾患で観察される不随意運動の中にも、実はてんかん性のものがあるのではないかと思われます。
このように「認知症の症状」と「てんかん発作の症状」には、その主要な症状の多くが重複していると言えないでしょうか。
「てんかん発作」に関連した精神症状
てんかん発作が原因で生じる精神症状の多くが「複雑部分発作」の際に見られ、発作の前後に興奮して怒りっぽくなったり不安感が出ることがあると言われています。
つまり実は「てんかん発作」が原因でも様々な精神症状が起こるのです。
ここで「てんかん発作」によって起こりやすい主な精神症状について挙げてみます。
・意識障害:意識が変わる(意識変容)、もうろうとする、意識が混濁する
・感情障害:不機嫌になる、怒りっぽくなる
・性格変化:まわりくどくなる(迂遠、冗漫)、しつこくなる(粘着性)
・精神病様状態:幻覚が見える、妄想的になる
・行動異常:無意味な動作を繰り返す(自動症)、異常な行動、暴力的、犯罪的
いかがでしょうか。
いずれの症状も認知症の症状と言われているものばかりです。
特に「意識障害」について「意識が変わる(意識変容)」とされているのには驚きました。
「幻覚・妄想」の他に、認知症ではいわゆる前頭葉症状とされている「性格変化」や「異常な行動、暴力的・犯罪的行動」も「てんかん発作」に関連した精神症状とされています。
このように「認知症」と「てんかん発作」の両者で見られる主な精神症状についても一致しているものが多く、やはり両者の病態の一部は同一のものではないのかという考えがますます強まります。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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