認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(7)

前回は、認知症患者さんと同居されている方が、どうしても本人の気持ちを落ち着かなくさせてしまうような言動をしてしまい、それを改められない場合には、自宅でその方と2人だけで過ごす時間を減らしていくことが必要であり、そのためには介護保険サービスを利用するのが現実的であるというお話をしました。

そして利用をお勧めしているサービスには訪問型と通所型があり、それぞれにメリットがあるのですが、前回は訪問型サービスのメリットについてお話ししました。

今回はその続きになります。

 

デイサービスやデイケアの導入は非常に有効

当院で利用を一番お勧めしているのが、デイサービスやデイケアといった施設へ通いながら受ける通所サービスです。

実は、認知症の治療を進めていくうえで、デイサービスやデイケアといった通所サービスの導入は非常に有効であり、これができるかどうかが、その後の本人の病状を大きく左右するといっても過言ではありません。

通所サービスのメリットとして一番に挙げられるのが、何といっても認知症患者さんを定期的に自宅から外へ連れ出す機会を確保できるということです。

これによってまず、どうしても不適切な対応をしてしまう同居家族と本人とを、定期的に一定時間引き離すことができるようになります。

すると本人は、不適切な言動を繰り返す同居家族から離れることができて、気持ちを波立たされることなく穏やかに過ごせる時間が確保できるようになり、それに伴って病状も落ち着いてくるのです。

通所サービスの導入によって認知症患者さんが受けられる恩恵はそれだけではありません。

まず、通所サービスに関わるたくさんのスタッフや同年代の他の利用者さんと交流する機会ができ、その交流を通じて脳が活性化されます。

訪問サービスではどうしても交流できる人数が限られていますし、またなかなか同年代の方とお話しする機会もできませんが、通所サービスでは交流できる人数や人種が格段に増えるので、脳への刺激量も一気に増えると言えます。

 

心身の活動量が上がると生活リズムも整いやすい

また、自宅にいるままだと、どうしてもいつもの場所に座ったまま動かず、テレビを観ながらうつらうつらしたり、ボーっとしている時間が増えてしまいます。

これでは心身ともに不活発になって、頭の働きばかりか足腰まで確実に弱っていってしまいます。

その点、通所サービスを利用すれば、多くの人たちと交流しながらちょっとした作業のお手伝いをしたり、ストレッチや運動などのプログラムが取り入れられたりしているので、ずっと座ったままでいるという訳にはいきません。

自宅にずっといる場合に比べて、確実に心身の活動量が増えることになります。

また自宅にいると、ついつい日中居眠りしたり、横になって1時間以上も昼寝をしてしまったりして、夜間眠れなくなったり、睡眠の質が落ちやすくなります。

それが生活リズムの崩れにつながり、ひどい場合には昼夜逆転してしまう場合もあります。

日中はたっぷり昼寝をして、夜は眠れないので睡眠薬を使って寝るけれども、次の日に少し睡眠薬の効果が残ってしまってボーっとしてしまい、また居眠りしてしまう・・・といった悪循環に陥っており、これでは認知症を発症するのも当たり前だと言える症例も実際にありますが、いずれにしても夜間しっかり眠れないというような生活が続くと、間違いなく認知症の病状はどんどん進行していってしまいます。

それが通所サービスを導入することで心身ともに活動量を上げられるので、身体に適度な疲労をもたらし「日中はしっかり起きて夜はぐっすり寝る」といった人間本来の生活リズムを取り戻しやすくなるのです。

ちなみにアルツハイマー認知症では、脳にアミロイドβタンパクというタンパク質のゴミが多く沈着しているのですが、これは夜間しっかり眠ることで脳を循環する脳脊髄液が効率良く排出してくれることが分かっています。

そのため夜間何回も目が覚めて眠りが浅かったり、よく寝言を言ったり、夢を見たり、大きなイビキをかいたりしている場合は、睡眠の質が落ちているため、アミロイドβタンパクが排出されずに脳に沈着しやすくなり、病理的に認知症が発症・進行しやすくなるのです。

また認知症を伴う神経変性疾患では、ドーパミンセロトニンといった心身の活動に不可欠な神経伝達物質が不足していることが多いのですが、実はこれらの神経伝達物質の大部分は腸内神経叢によって作られています。

睡眠時は本来、心身ともにリラックスした副交感神経優位になるため、毎日良質な睡眠がとれていれば、寝ている夜の間はずっと腸の活動も活発になり、腸内細菌叢もたくさん働いて神経伝達物質を充分に補充してくれるはずですが、睡眠の質が落ちているとそれもうまくいかなくなります。

さらに夜間、よく夢を見て寝言を言ったり、身体を動かしたりすると、補充されるはずのドーパミンを逆に消費してしまうことになり、翌日はドーパミンが足りなくなるので心身ともに動きが鈍くなって(=パーキンソニズムが増悪して)しまうのです。

 

通所サービスのメリットについてはまだまだありますので、それらは次回お話しすることにします。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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