前回は、和式の生活様式は確かに不便で、人によっては身体に負担がかかる面があるため、高齢者では安全面を考えて洋式の生活に切り替えるケースが多いけれども、実は身体の健康維持にとって効果的な面もあるということをお話ししました。
今回はその続きになります。
よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える
人間の身体はうまくできていて、その人が日常生活で行う頻度の高い動作や生活環境にうまく適応するよう日々モデルチェンジしています。
つまり人間の身体は、生活の中で「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える」ようになっているのです。
これはいわば人間の限られた機能を、その人の生活環境に合わせて効率良く発揮させるために、もともと人間に備わっている仕組みだと言えます。
人によって生活様式や生活環境は様々です。
肉体労働の人やデスクワークの人では生活で必要とされる身体の機能は大きく違います。
また、プロの運動選手や音楽家などでは一部の機能が特化して発達しており、一般の人とは身体つきも脳の働き方も大きく違います。
目や耳の不自由な人や手足を欠損している人では、本来視覚や聴覚、欠損した手足の部位を司る脳領域が別の機能の活動を司るようになっていたり、目の不自由な人は聴覚を司る脳領域の活動が非常に活性化されていることも知られています。
しかし、これらの人ははじめから特定の運動や神経、脳活動が強化されていた訳ではありません。
何度も同じ動作や活動を繰り返すことによって、その都度何度も同じ筋肉や同じ神経を使うことになります。
すると、その筋肉を司る運動神経や脳神経の働きとそれらの連携がどんどん強化され、さらにその動作や活動に必要な筋や神経の働きを計画・実行・調整をする脳領域の活動も活性化されていくので、これらの人では一部の機能や能力が特化して発達するのです。
一方で普段あまり行わないような動作や活動に必要な筋肉や神経、脳領域の活動は徐々に衰えていくことになります。
それによって筋肉や神経、脳の活動などの限られた機能を、その人の生活様式に合わせて振り分け、全体として効率良く発揮できるようにしているのです。
脳の可塑性(かそせい)
このように「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える」という特性は人が生まれながらに持つものですが、この脳の神経生理学的特性のことを「脳の可塑性(かそせい)」と言います。
「脳の可塑性」は「神経系が環境に応じて最適の処理システムを作り上げるために、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げるという現象」と説明されています。
また「脳の可塑性」には、発達段階や脳障害の回復段階で顕著に発揮されやすいという特性があり、子供の成長期はもちろん脳梗塞や外傷などで脳神経が障害を負った後の数か月間においては「脳の可塑性」が促進されることが知られています。
つまり、成長期や回復期の人ほど顕著ではありませんが、成人した健康な人でも日々「脳の可塑性」は発揮されており、常に脳はモデルチェンジを繰り返しているということです。
これがプロの運動選手や音楽家などはもちろん職業別の技能として、特化した能力が産み出される由縁でもあります。
ちなみにリハビリではこの「脳の可塑性」を利用して、機能回復を目指しています。
正しい動作を何度も繰り返し行うことで、その動作に必要な筋肉や神経を何度も活動させ、筋力向上はもちろん知覚や平衡感覚などを含めた運動に関わる脳神経ネットワークの回復や新たな発達を促していくのです。
また脳梗塞や外傷などの場合では、できるだけ発症早期から集中的なリハビリを開始しますが、これは発症後数か月間は「脳の可塑性」が促進されるからです。
高齢の人から「こんな歳でリハビリしても良くなるの?」と聞かれることがあります。
しかし「脳の可塑性」は年齢に関係なく発揮されるものであり、たとえ90歳過ぎの高齢者であってもそれは例外ではありません。
したがって、高齢の人でもリハビリの効果は十分に期待できるのです。
同時に、その人が普段どのような生活を送っているのかといった生活習慣や生活環境なども、「脳の可塑性」のことを考えると、心身の健康にとっては非常に大切だということになります。
では、和式の生活を大きな問題なく続けてきたような高齢者の人が「洋式の生活は楽で便利だから」という理由だけで、洋式の生活様式に切り替えてしまったらどうなるでしょうか。
「楽をする」ということは「使わなくなる機能が出てくる」ということです。
当然「使わない機能は衰える」ことになるため、その後心身ともに様々な影響が出てくることが予想されます。
和式から洋式の生活様式に切り替える際には、この点についても是非考慮してほしいのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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