認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(5)

前回は「使わない機能は衰える」ことの分かりやすい例として、しゃがんだ姿勢を楽にとれない人が増えてきているけれども、これは今では洋式トイレが主流になって和式トイレを使う機会が減ってしまったことが影響しているのではないかというお話をしました。

また和式生活をしている高齢者の人がベッドを導入しようとする際には、日中の活動量が減って体力が落ちたり、昼寝が増えて生活リズムが崩れやすくなるといったリスクがあることも心に留めておいてほしいというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

廃用症候群」とは

皆さんは「廃用症候群」という診断名を聞いたことがあるでしょうか。

廃用症候群」とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を強いられることによって生じる、身体機能の大幅な低下や精神状態への悪影響などといった様々な症状を総称したものになります。

そのため「廃用症候群」とは、何らかの原因があって過度の安静を強いられたり、日常生活の不活発や心身機能の不使用によって引き起こされる二次的な病態であるとも言えます。

前回も、入院したら日中も寝て過ごす時間が増えてしまって、心身ともに衰えてしまったという高齢者の人が少なくないというお話をしました。

高齢者が入院して治療を受けることには少なからずリスクが伴うのです。

入院による生活環境の急激な変化や点滴・手術といった治療・処置などによって心身が受けるストレスというのは、意外に大きいからです。

高齢者ではそれまでしっかりしていたような人でも、入院初日の夜に落ち着かなくなったり、妄想や幻覚が出たりする「せん妄」状態を起こすことがあるほどです。

また、安静臥床を強いられたりすると、たとえ1週間の入院であっても驚くほど体力が落ちてしまったりします。

実際に、入院したら認知症が進んでしまった、足腰が一気に衰えてしまったという高齢者が非常に多いため、そのことを知っている医療・介護従事者の多くが高齢者はできるだけ入院させないようにしようと考えています。

もし具合が悪くなったとしても、在宅のままで何とか治療ができないか模索するのです。

それでもどうしても入院が必要になった場合には、治療と併行してできるだけ早期からリハビリ介入してもらうことで、「廃用症候群」の出現・進行を予防していかなくてはなりません。

入院して病気は治ったけれども、歩けなくなってしまったというのでは全く意味がないからです。

 

廃用症候群」は普段の生活でも十分生じうる

しかし「廃用症候群」を生じさせるきっかけになるのは、何も入院や病気・ケガだけに限ったことではありません。

前回までに人間の身体には「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える」という特性があることや「脳の可塑性」についてもお話ししてきました。

つまり「使わない機能は衰える」ことが重なって起こるのが「廃用症候群」になるので、「廃用症候群」は普段の生活でも十分に起こりうるということです。

実は「廃用症候群」には別名があり、「生活不活発病」といいます。

実際に高齢者では、生活が不活発になることで「廃用症候群」を発症し、日常生活に支障をきたすまでに心身機能が低下しまうということが珍しくないのです。

高齢者の中には、いわばギリギリの心身状態で何とか自立して生活をしているという人も少なくないため、そういった人ではちょっとした心身機能の低下が生活動作の自立を困難にさせたり、活動量を大きく低下させかねないからです。

そのため、自宅で自立した生活を送っている高齢者であっても、何らかのきっかけで生活が不活発になり、「廃用症候群」に陥ってしまうということが十分ありうるのです。

 

廃用症候群」をもたらす「負のスパイラル」

高齢者が「廃用症候群」を発症する時には、必ず何らかのきっかけがあります。

例えば「最近動くのがおっくうになってきたな」というちょっとした思いであっても、きっかけになりうるのです。

動くのがおっくうなのであまり動かないでいたら、いつの間にか全身の筋力や体力が落ちてしまって動作が不安定になり、それでさらに動くのがおっくうになってしまって生活がもっと不活発になる。すると、さらに全身の筋力や体力が落ちてしまってもっと動作が不安定になり・・・といったような「負のスパイラル」に陥ってしまうと容易に「廃用症候群」の発症に至ってしまうのです。

また、筋力低下によって膝痛や腰痛が誘発されやすくなったり、心肺機能の低下によって動悸や息切れなども出現しやすくなってしまうので、それらが出現するとさらに生活が不活発になりかねません。

もちろん身体の具合が悪くなると、外出して人に会う機会も少なくなったりして、精神的にも気持ちがどんどん内向きになってうつっぽくなったり、活力や意欲も低下しやすくなってしまいます。

このように「負のスパイラル」が進行していくと、生活を不活発にさせる要因が、さらに新たな負の要因を出現させるといったように、「負のスパイラル」の進行が加速していきやすくなるのです。

そのため、高齢者がいったんこの「負のスパイラル」に陥ってしまうと、なかなか自力では抜け出すことが困難になります。

そして気が付いた時には、自立した生活や在宅での生活が困難になるほど弱ってしまったというように、高齢者では比較的短期間に重大事態に陥っていたりすることも珍しくはないのです。

そもそもこの「廃用症候群」をもたらす「負のスパイラル」が始まるきっかけというのは、生活を不活発にさせうる要因であれば何でもいいのです。

病気やケガといった突発的なアクシデントはもちろん、色々なストレスによる気分の落ち込み、急激な暑さ寒さや今回のコロナ騒ぎによる外出控え、認知機能の低下などのほか、和式生活から洋式生活への切り替えによって生活動作が楽になることも十分きっかけになりうるということです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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