認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(6)

前回は、何らかの原因があって過度の安静を強いられたり、日常生活の不活発や心身機能の不使用によって二次的に引き起こされる「廃用症候群」は高齢者で生じやすいけれども、これは自宅で自立した生活を送っている高齢者であっても、何らかのきっかけで生活が不活発になってしまうと、心身機能の低下とともに、さらに生活を不活発にさせるような要因も次々と生じやすくなるため、このような「負のスパイラル」が加速度的に進行して「廃用症候群」に陥りやすくなるからであるというお話をしました。

また、この「負のスパイラル」が始まるきっかけとしては、病気やケガといった突発的なアクシデントはもちろん、色々なストレスによる気分の落ち込み、急激な暑さ寒さや今回のコロナ騒ぎによる外出控え、認知機能の低下なども挙げられるけれども、生活動作が楽になる和式生活から洋式生活への切り替えも十分きっかけになりうるということもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

高齢者ではできるだけ早く「負のスパイラル」を断ち切る必要がある

高齢者ではちょっとしたことでも生活が不活発になりやすいので「廃用症候群」を発症しやすいというのは前回お話しした通りです。

誰でも生活が不活発になって日中の活動量が減ってしまえば、筋肉を使う頻度も少なくなるため、当然筋力低下が起こりやすくなります。

これは筋肉を使わなくなると、身体からは使わなくなった分の筋肉量は必要ないと判断され、筋肉を構成する蛋白の合成が低下したり、分解の亢進が生じてしまうからです。

これを「廃用性筋萎縮」と言います。

入院などによってベッド上で安静臥床のままでいると「廃用性筋萎縮」が進行して、1日に約1〜3%、1週間では10~15%の割合で筋力低下が起こり、3〜5週間では約50%の筋力低下が起こるという報告があります。

1週間で10~15%の筋力低下というのは、もともと体力が低下していてギリギリの状態で生活しているような高齢者にとっては、いわば「命とり」になりかねません。

これは安静臥床による筋力低下の割合ですが、そうでなくても心身の不調などによって、ずっと家で寝たり起きたりの生活を送っているような高齢者では、一定の割合で確実に「廃用性筋萎縮」による筋力低下が進行していくことになるでしょう。

その状態を放っておけば、前回お話ししたように加速度的に「負のスパイラル」が進行していってしまい、気が付いた時には「大ごと」になっていたりもします。

したがって、もし高齢者がそのような状態に陥っている場合には、できるだけ早く「負のスパイラル」を断ち切る必要があります。

そして上向きの「正のスパイラル」への転換を図るのです。

しかし、高齢者が自ら一人で、この「負のスパイラル」から抜け出すことは「まず難しい」と言えます。

身体の不調があるとなかなか無理できませんし、心身ともにどんどん弱っていく状態では、自ら前向きな気持ちになって日々の活動量を上げていこうなどというのは、高齢者に対しては無理な注文だと思われるからです。

そのため誰かの手を借りる必要があります。

そして、思い切って生活環境や生活習慣、1日の生活サイクルなどを変えてしまうのです。

それもできるだけ早く実行する必要があります。

「負のスパイラル」状態が長引けば長引くほど、「廃用症候群」はどんどん進行していってしまいますし、そうするとますます回復しづらくなるからです。

 

在宅生活のままで「廃用症候群」からの回復を図るためには

廃用症候群」から回復には、医療的な治療と並行しながら「リハビリ」をしたり「日中の活動量を上げる」ことが不可欠になります。

もし入院加療中であれば、すぐにリハビリを開始して回復を目指すことができますが、在宅生活のままで回復を図らなければいけないケースもあるかと思います。

そのような場合、とても頼りになるのが介護保険サービスになります。

介護保険サービスを利用することができれば、自宅まで医療スタッフが訪問してくれる「訪問看護」や「訪問リハビリ」はもちろん、週に何日か施設に行き、たくさんの人と交流しながら体操やアクティビティーを通じて心身活動を活性化させてくれる「デイサービス」やリハビリ専門職の理学療法士作業療法士などからリハビリを受けられる「デイケア」なども利用できるからです。

廃用症候群」からの回復には、とにかく日中は起きてもらって心身ともに活動量を上げていくことが必要です。

そのため、他人の手を借りてでも、まずはそうなるように生活そのものを切り替えてしまうのです。

この時、非常に有効なのが「デイサービス」「デイケア」といった通所サービスの導入です。

ただ、初めは起きているのがつらかったり、知らないところへ行くことになるので不安になったりして、本人が行くのを嫌がるということがほとんどです。

それでも同居している家族が腹をくくって、本人の意志関わらず、半ば強制的であっても通所サービスに通わせることが大事なのです。

認知症患者さんの場合もそうでしたが、「廃用症候群」から回復できるかどうかは、これに掛かっていると言っても過言ではありません。

それに初めは行かせるのが大変だったとしても、何度か通所サービスに通わせているうちに、あれだけ本人が嫌がっていたのにも関わらず、あちらではスタッフから丁重な応対を受けたり、色々な人たちとの交流やアクティビティーを楽しんだりしてきて、いつの間にか普通に通えるようになってくれたりします。

施設スタッフも通所サービスに行きたがらない利用者さんをたくさん経験しているので、家族も安心して対応を任せてしまっても良いと思います。

そして、本人に通所サービスへ通う習慣ができると、施設ではみんなが起きている中で自分だけ横になるわけにもいかず、少なくとも日中は起きて過ごす時間が増えることになるので、自然と「日中は起きて夜は寝る」という生活のリズムができてきます。

すると当然日中の活動量も増えてくるので、いつの間にか体力や筋力が回復してきて「廃用症候群」の状態から脱しやすくなるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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