2019年10月14日
親娘程の年の差の二人、警固公園で茶をしばく(笑)
藤田「へえ、じゃその監督さんって私にとっても師匠筋にあたる、と」
秋穂「何それ」
藤田「だって師匠の師匠はみな師匠。世界に広げよう師匠の輪!」
小早川「ふっる。どこのテレフォンショッキングよそれ」
秋穂「そもそも師匠の輪とかイミわかんないし」
翠川「モーターボート振興協会?」
つ「ほらほらまあた話が迷走するー」
藤田「でも、先輩の師匠っていうんなら会ってみたいなあ」
秋穂「…それ無理だから」
藤田「ええー?オランダ拠点だからですか?」
南「…地理的な問題とは違うかな…」
ち「まあ、そうね」
藤田「???なんか皆さん、えらく歯切れが悪いような」
神谷「あのね、藤田ちゃん。その人は10年、100年かけても会えないところにいるのよ」
藤田「なんだか納得行かないなあ?ケンカしたとか破門された、とかですか?」
翠川「ケンカはしたんだっけ?」
秋穂「それ清水さんですよ。一方的にブン殴った、とも言うけど(笑)」
つ「藤田ちゃん、ちょっと耳貸して」
藤田「え?……あ、それは…」
秋穂「まあ、草葉の陰ってヤツ。そゆこと」
藤田「御愁傷様です」
神谷「もう今更だけどね(笑)」
秋穂「何それ」
藤田「だって師匠の師匠はみな師匠。世界に広げよう師匠の輪!」
小早川「ふっる。どこのテレフォンショッキングよそれ」
秋穂「そもそも師匠の輪とかイミわかんないし」
翠川「モーターボート振興協会?」
つ「ほらほらまあた話が迷走するー」
藤田「でも、先輩の師匠っていうんなら会ってみたいなあ」
秋穂「…それ無理だから」
藤田「ええー?オランダ拠点だからですか?」
南「…地理的な問題とは違うかな…」
ち「まあ、そうね」
藤田「???なんか皆さん、えらく歯切れが悪いような」
神谷「あのね、藤田ちゃん。その人は10年、100年かけても会えないところにいるのよ」
藤田「なんだか納得行かないなあ?ケンカしたとか破門された、とかですか?」
翠川「ケンカはしたんだっけ?」
秋穂「それ清水さんですよ。一方的にブン殴った、とも言うけど(笑)」
つ「藤田ちゃん、ちょっと耳貸して」
藤田「え?……あ、それは…」
秋穂「まあ、草葉の陰ってヤツ。そゆこと」
藤田「御愁傷様です」
神谷「もう今更だけどね(笑)」
「『この世界観』…?」
藤田は秋穂に連れられて警固神社付近までやって来た。停められたキッチンカーのボディに描かれた文字を見て藤田は怪訝そうに呟く。
「変わった名前ですねえ」
「なんでも難波千日前から進出、だとかでね。味は確かよ?…あ」
腰の高さくらいの黒板が立てかけられ、メニューが載せられていたが秋穂はそれを見ると顔を曇らせ、慌ててキャップを目深に被る。藤田はその様子を不思議に思ったが、秋穂の視線を追って納得し、爆笑する。
メニューには手書きの紙が貼り付けられ、そこには『春日SSS秋穂選手御用達!!』 とデカデカと書かれていたのである(笑)
…なお、「この世界観」は難波千日前、道具屋筋に実在するが、九州に進出した事実は今の所、ない(笑)
「いやー、秋穂さんのお陰で売り上げ倍増ですよ!」
「……」
恵比寿顔の売り子の前で秋穂は酢を飲んだような顔。握手を求められたりしている(笑)
「…たく、なんだかねー」
「いつも自分で言ってるじゃないですか、地域社会との密着は大事だって」
「それとはなんか違う気がする…」
ぶつくさ言いながら2人は注文の「ミルクのやつ」と「ほうじ茶のやつ」(ちなみにどちらもその名前で売っている)を受け取るとすぐ近くの警固公園に入り、ちょうど空いていた木陰のベンチを見つけると二人して座る。ドリンクを飲みながら藤田は大きく息をついた。
「いやあ、もう、ホント。一息付いたって感じです」
「博多から天神まで歩いたくらいで何言ってんの」
「あ…今日のことではなく」
藤田は苦笑するー
「これまでのことを思うと、やっぱ」
にこやかなその笑顔を見ながら、秋穂は目の前の少女が間違いなく地獄を見て来た事を思い知る。
初の最年少、しかも中学生でキャプテン、そして味わった連敗、最下位、降格の危機。…正確にはそれらの危機は脱したわけではないが、秋穂が復帰してからの連勝で一息付ける順位にまで上がっている。
そしてそれは十数年前にも自分が味わったものだった。
あの時自分が味わった苦しみを、痛みを。あの時の自分よりさらに年下である藤田が受けているという事実は秋穂を暗澹たる気分にする。
秋穂自身は、あの年があったから今の自分があるーと昇華しているが、決して嬉しく楽しい思い出では、ない。
であれば、藤田がこれ以上その痛みを受けないようにしてやるべきなのか?
少なくとも、今の自分にはそれが出来る。
秋穂の脳裏には様々な想いが去来したが、ふいに藤田の言葉が耳朶を打つ。
「わ!ストローにタピオカが入って飲めませんよ!?」
「頑張って吸い込みなさいよ、肺活量は大事よ」
「タピオカティー飲むのまで努力ですか」
全くもう、と苦笑しながら藤田は一息に吸い込む。
「うわー息苦しー」
「なんだかねーこの子は」
あはは、と軽く藤田は笑いータピオカティーの入ったタンブラーを自分の横に置き、真剣な眼差しで秋穂を見た。
「…いろいろ考えたんですけど、やっぱ今私がキャプテンやってちゃマズイです」
秋穂は無言でタピオカティーを飲み、何となく空を見上げる。曇ってはいるが、お陰で夏の暑さをあまり感じないで済む、過ごしやすい日だ。無言の秋穂に、藤田はさらに続けた。
「やっぱ、こんな小娘じゃいかんでしょ?先輩帰って来てから快進撃!なんだし先輩がやった方がー」
「逃げるんだ?」
それが何故なのか、秋穂自身も後からどれだけ考えても分からなかったのだが、その言葉はそれまでの秋穂の想いとは裏腹に、反射的に口から飛び出した。ぐ、と藤田は言葉に詰まりー両膝に手を付くと俯く。
「…何と言われてもしょうがないです。でも、私のせいで降格、なんて」
「そういう事を聞いてるんじゃない」
ずい、と秋穂は身を乗り出すー
「逃げるつもりでいる、ってことなの?」
「だから逃げるとか逃げないとかそういうことじゃなく」
「いいや、そういうことだよ」
ふう、と秋穂はゆっくり息を吸うと人差し指を振り、藤田の目の前に突きつける。
「自分のやったことの後始末もせず逃げる、ってこと」
「ええ、そうですよ!」
藤田は窮鼠猫を噛むの勢いで秋穂を睨みつけた。
「逃げます!それで降格が免れるなら、何を言われたって構うもんか!!」
しばらく二人は黙って睨み合い、ややあって藤田が目を逸らした。
「…先輩やみんなが守って来たこのクラブを、私のせいで降格なんてさせられませんよ…」
悄然と。藤田はそう言って俯く。秋穂はまだ睨んでいたが、大仰に自分の額を叩くと、次に藤田の肩を叩く。
「あのさ?別にこのクラブは既に何度か降格してる」
「でも」
「そりゃそうよ、だから降格しても構わないーなんて理屈もない。けどね」
秋穂はもう一度膝を乗り出し、藤田と正対した。
「あんた、ここで逃げたらクセになるよ?」
「…」
「まあ、実際にさ?私だとか瑛花、若葉。楠に菅野とか…あ、今のナシ、菅野だけはナシ」
「意外といい人ですよ」
「チャランポラン過ぎるのよ!アイツ!!…でも、ずっと他人に頼っていられない」
「じゃあ、どうしろとー」
「落とし前付けるしかないんじゃない?」
聞きようによっては物騒な事を秋穂は言い、藤田は首を傾げた。
「だからさ、クラブにいるのはあんただけじゃないでしょ?他のみんなもいるんだから、一緒にやって行こう!と、何で言えないかねー」
「…」
「いい?キャプテン、ったって選手の一人。しかもまだ中坊なんだから、言えば誰でもなんぼでも手ェ貸すっての」
ぽかんとする藤田に、秋穂は声のトーンを落とした。
「あんた一人で背負い込むことはない。ただしーあんたが中心になって、やんなさい」
「それが落とし前…ですか」
「自分のせいで順位を落とした、ってんなら引き上げればチャラ、って理屈でしょ?」
「すごいなあ…」
しみじみと藤田は呟いて首を振った。
「…とてもそんな風に考えられないです。やっぱ気持ちが強い、っていうんですかね…敵わないや」
「別に私だって、ずっとこうだったわけじゃない」
「でも実際、先輩入って雰囲気変わるのはそういう気持ちの強さ、ってある気がするなあ」
秋穂は黙ってタピオカを啜る。
「…他人が言うならまだしも、当事者が気持ちで勝ち負けを言っちゃダメよ」
「でも、」
「そもそも、さ?大して勝ちたくもない、なんて気持ちでピッチに立つヤツいる?」
「そりゃ…そうですけど」
「それにね?ずっと勝ちたくて勝ちたくてしょうがないのにやっぱ勝てないのは気持ちが足りなかったから、なの?」
その一言で片付けるのが悔しかった。
だから、何故負けたのか、どうすれば勝てるのかーそれをひたすら考え、追い求めてきた。
自分で考えろー常々言われていた言葉だったが、秋穂の境遇であればそう言われずとも考えるようになっていたかもしれない。
「気持ちが足りないから負けた、じゃダメだよ。敗因を突き止めて、どうやったら失くせるのか、失くせないならどうやってそれを無効化できるか?とにかく考えて考えてプレーして、最善を尽くして。そこでやっと気持ちがどうだ、って言える」
藤田は秋穂に連れられて警固神社付近までやって来た。停められたキッチンカーのボディに描かれた文字を見て藤田は怪訝そうに呟く。
「変わった名前ですねえ」
「なんでも難波千日前から進出、だとかでね。味は確かよ?…あ」
腰の高さくらいの黒板が立てかけられ、メニューが載せられていたが秋穂はそれを見ると顔を曇らせ、慌ててキャップを目深に被る。藤田はその様子を不思議に思ったが、秋穂の視線を追って納得し、爆笑する。
メニューには手書きの紙が貼り付けられ、そこには『春日SSS秋穂選手御用達!!』 とデカデカと書かれていたのである(笑)
…なお、「この世界観」は難波千日前、道具屋筋に実在するが、九州に進出した事実は今の所、ない(笑)
「いやー、秋穂さんのお陰で売り上げ倍増ですよ!」
「……」
恵比寿顔の売り子の前で秋穂は酢を飲んだような顔。握手を求められたりしている(笑)
「…たく、なんだかねー」
「いつも自分で言ってるじゃないですか、地域社会との密着は大事だって」
「それとはなんか違う気がする…」
ぶつくさ言いながら2人は注文の「ミルクのやつ」と「ほうじ茶のやつ」(ちなみにどちらもその名前で売っている)を受け取るとすぐ近くの警固公園に入り、ちょうど空いていた木陰のベンチを見つけると二人して座る。ドリンクを飲みながら藤田は大きく息をついた。
「いやあ、もう、ホント。一息付いたって感じです」
「博多から天神まで歩いたくらいで何言ってんの」
「あ…今日のことではなく」
藤田は苦笑するー
「これまでのことを思うと、やっぱ」
にこやかなその笑顔を見ながら、秋穂は目の前の少女が間違いなく地獄を見て来た事を思い知る。
初の最年少、しかも中学生でキャプテン、そして味わった連敗、最下位、降格の危機。…正確にはそれらの危機は脱したわけではないが、秋穂が復帰してからの連勝で一息付ける順位にまで上がっている。
そしてそれは十数年前にも自分が味わったものだった。
あの時自分が味わった苦しみを、痛みを。あの時の自分よりさらに年下である藤田が受けているという事実は秋穂を暗澹たる気分にする。
秋穂自身は、あの年があったから今の自分があるーと昇華しているが、決して嬉しく楽しい思い出では、ない。
であれば、藤田がこれ以上その痛みを受けないようにしてやるべきなのか?
少なくとも、今の自分にはそれが出来る。
秋穂の脳裏には様々な想いが去来したが、ふいに藤田の言葉が耳朶を打つ。
「わ!ストローにタピオカが入って飲めませんよ!?」
「頑張って吸い込みなさいよ、肺活量は大事よ」
「タピオカティー飲むのまで努力ですか」
全くもう、と苦笑しながら藤田は一息に吸い込む。
「うわー息苦しー」
「なんだかねーこの子は」
あはは、と軽く藤田は笑いータピオカティーの入ったタンブラーを自分の横に置き、真剣な眼差しで秋穂を見た。
「…いろいろ考えたんですけど、やっぱ今私がキャプテンやってちゃマズイです」
秋穂は無言でタピオカティーを飲み、何となく空を見上げる。曇ってはいるが、お陰で夏の暑さをあまり感じないで済む、過ごしやすい日だ。無言の秋穂に、藤田はさらに続けた。
「やっぱ、こんな小娘じゃいかんでしょ?先輩帰って来てから快進撃!なんだし先輩がやった方がー」
「逃げるんだ?」
それが何故なのか、秋穂自身も後からどれだけ考えても分からなかったのだが、その言葉はそれまでの秋穂の想いとは裏腹に、反射的に口から飛び出した。ぐ、と藤田は言葉に詰まりー両膝に手を付くと俯く。
「…何と言われてもしょうがないです。でも、私のせいで降格、なんて」
「そういう事を聞いてるんじゃない」
ずい、と秋穂は身を乗り出すー
「逃げるつもりでいる、ってことなの?」
「だから逃げるとか逃げないとかそういうことじゃなく」
「いいや、そういうことだよ」
ふう、と秋穂はゆっくり息を吸うと人差し指を振り、藤田の目の前に突きつける。
「自分のやったことの後始末もせず逃げる、ってこと」
「ええ、そうですよ!」
藤田は窮鼠猫を噛むの勢いで秋穂を睨みつけた。
「逃げます!それで降格が免れるなら、何を言われたって構うもんか!!」
しばらく二人は黙って睨み合い、ややあって藤田が目を逸らした。
「…先輩やみんなが守って来たこのクラブを、私のせいで降格なんてさせられませんよ…」
悄然と。藤田はそう言って俯く。秋穂はまだ睨んでいたが、大仰に自分の額を叩くと、次に藤田の肩を叩く。
「あのさ?別にこのクラブは既に何度か降格してる」
「でも」
「そりゃそうよ、だから降格しても構わないーなんて理屈もない。けどね」
秋穂はもう一度膝を乗り出し、藤田と正対した。
「あんた、ここで逃げたらクセになるよ?」
「…」
「まあ、実際にさ?私だとか瑛花、若葉。楠に菅野とか…あ、今のナシ、菅野だけはナシ」
「意外といい人ですよ」
「チャランポラン過ぎるのよ!アイツ!!…でも、ずっと他人に頼っていられない」
「じゃあ、どうしろとー」
「落とし前付けるしかないんじゃない?」
聞きようによっては物騒な事を秋穂は言い、藤田は首を傾げた。
「だからさ、クラブにいるのはあんただけじゃないでしょ?他のみんなもいるんだから、一緒にやって行こう!と、何で言えないかねー」
「…」
「いい?キャプテン、ったって選手の一人。しかもまだ中坊なんだから、言えば誰でもなんぼでも手ェ貸すっての」
ぽかんとする藤田に、秋穂は声のトーンを落とした。
「あんた一人で背負い込むことはない。ただしーあんたが中心になって、やんなさい」
「それが落とし前…ですか」
「自分のせいで順位を落とした、ってんなら引き上げればチャラ、って理屈でしょ?」
「すごいなあ…」
しみじみと藤田は呟いて首を振った。
「…とてもそんな風に考えられないです。やっぱ気持ちが強い、っていうんですかね…敵わないや」
「別に私だって、ずっとこうだったわけじゃない」
「でも実際、先輩入って雰囲気変わるのはそういう気持ちの強さ、ってある気がするなあ」
秋穂は黙ってタピオカを啜る。
「…他人が言うならまだしも、当事者が気持ちで勝ち負けを言っちゃダメよ」
「でも、」
「そもそも、さ?大して勝ちたくもない、なんて気持ちでピッチに立つヤツいる?」
「そりゃ…そうですけど」
「それにね?ずっと勝ちたくて勝ちたくてしょうがないのにやっぱ勝てないのは気持ちが足りなかったから、なの?」
その一言で片付けるのが悔しかった。
だから、何故負けたのか、どうすれば勝てるのかーそれをひたすら考え、追い求めてきた。
自分で考えろー常々言われていた言葉だったが、秋穂の境遇であればそう言われずとも考えるようになっていたかもしれない。
「気持ちが足りないから負けた、じゃダメだよ。敗因を突き止めて、どうやったら失くせるのか、失くせないならどうやってそれを無効化できるか?とにかく考えて考えてプレーして、最善を尽くして。そこでやっと気持ちがどうだ、って言える」