実習2日目。
結月は少し早めに出て、学校へ向かった。少し調べ物をしたかったのだ。
今日は雨か…
来週は自分で授業をしなければいけない。
内容は「合唱指導」
伴奏譜のコピーと楽曲について内容を把握しておきたかった。
「おはようございます」
職員室で声をかけ、音楽準備室のカギを受け取ろうとしたが、既にここにはない。
結月はそのまま音楽準備室に向かう。しかし、準備室の中は暗く、人がいる気配はない。
カギが開いているということは、祥希はすでに学校に来ているのだろう。
トイレかな?すぐ来るかもしれない。
結月は準備室の中に入り、カバンを自分の机の上に置き、本棚からお目当ての楽譜を探した。
「えっと…あ、これかな?」
楽譜を取り出そうとして、ふと手を止めた。
「ん?」
祥希の性格だろうか?本棚の楽譜はきちんとジャンル分けで整頓されている。
上半分には、教材に関するもの。
下半分には吹奏楽の楽譜。
この吹奏楽の楽譜たちの中に、なぜか…
ピアノの楽譜?
薄くて一瞬、わからなかったけど
ドビュッシーの曲集だよね?
なんでこれだけがここに?
結月がその楽譜に手を伸ばしかけた時…
「何してるの?ミィ…」
びっくりして振り返ると、背後すぐのところに祥希が立っていた。
「あ、いや、ピアノの楽譜がここにあったから…」
「ん?どれ?」
祥希がグッと近づいてきた。
わ、近い…
そのまま、結月を本棚に押しつけるような形になったまま、祥希は両腕を本棚に伸ばしたので、結月は逃げられなくなってしまった。
そして本棚に顔を近づける。
必然的に、結月にも顔が近づいてくる。
近いって!
思わず結月は目をつぶってしまった。
「ああ、これ…ほんとだ、なんでここにあるんだろう…」
祥希は楽譜を抜き出すと、すっと結月から離れた。
やっと解放された結月は、大きく深呼吸をする。
すると祥希はチラと結月を見て、フッと薄く微笑んだ。
メガネの奥の瞳がいたずらっぽい光を帯びている。
『なんでドキドキしてんの?」
えっ⁈
「し、してません!」
「そう?」
そう言って、また祥希が近づいてきた。
「僕にはそうは見えないけどな」
グッと覗きこむ祥希の、整った顔立ちに一瞬めまいを起こしそうになる。
廊下の方で声がした。
あと2人の実習生、遠藤達哉と塩沢美緒が来る気配がした。
祥希がすっと離れる。
結月はまた、2回目の深呼吸をした。
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