放課後…


同じ実習生の達哉と美緒が帰る支度をしている間、結月はまだ指導案を書いていた。




「三池先生、まだ帰れなさそう?」

美緒が心配して声をかけてくれた。

「うん…冨田先生にダメ出しされたからね…」

「冨田先生ってさ、三池先生に厳しくない?」

「そうなのかな?大学の先輩だから、なんとなくそうなるのかな?」


「どうかなぁ…私たち、先に帰るよ」

「あ、お疲れ様!」


達哉と美緒は、お疲れ様〜と2人で帰って行った。



準備室で1人になると、急に静かになる。



外から運動部のかけ声が聞こえる。

トランペットの音出しの音も聞こえる。

木管楽器のスケールの練習の音も聞こえる。



だけど、それらの音が一層

結月の周りが静かだと感じさせる。



指導案を頭をひねり、うーんと考えながら何気なく祥希の机の上を見ると、今朝のドビュッシーの楽譜が置かれていた。


あれ?


なんとなく…祥希が物を出しっぱなしにしているのが珍しい気がした。

いつもすぐ片付けるのにな。



ちょうどその時、祥希が準備室に戻ってきた。



「お疲れ様です。三池先生。
どうです?できそうですか?」


そう言って祥希は、結月の向かいに椅子を引っ張ってきて座った。


「あの…あと、少し、です」


結月はドキドキしながら答える。


今朝のあの急接近が思い出されて仕方ない。

しかし祥希はそんなことにはおかまいなく、結月の向かいがわから頬杖をついて、じっと見てくる。


そんなに見られると、書きづらい!


すると祥希はニヤと笑い

「早くしないと今日中に帰れませんよ」

いや、そこに冨田先生がいるから…

「どうしました?」

「あ、いえ…」

「三池先生、実習生と言えど、先生ですよ。
少し前髪切った方がいいんじゃないかな?」

そう言って、祥希は右手を結月の前髪に伸ばしてきた。

思わず目をつぶってしまう…


微かに祥希の指が触れたような気がする。

気のせいかな?


そっと目を開けると、左手で頬杖ついている祥希と目が合った。



ニッと笑って祥希は

「ミィってさ、彼氏いるの?」

「い、いますっ!」

「へぇ…男慣れしてなさそうなのに」


男慣れって…

「早く指導案、仕上げてくださいね。
あんまり遅くまでいられると、僕が校長に怒られてしまう」

そう言って祥希は立ち上がった。


先ほどのイタズラっぽい表情と違い、少し怒ったような声色だ。


ちょうどその時、1人の女子生徒が準備室のドアを開けた。


「先生!パート練習終わりました!お願いします!」

「はい、今行きます」

祥希は準備室を出て行った。

祥希の後ろを先ほどの女子生徒がついて行きかけて、ふと結月の方を振り返った。


一瞬、冷たい視線を送られてたような気がしたけど…


確か彼女は吹奏楽部の2年生。

高橋真亜紗、フルート担当だったかな?




翌日、結月が学校に行くと、職員室の雰囲気が異様なことに気がついた。






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