百年文庫『命』より。
しろあです。
最後は映画のような感動の物語。
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ヴァッサーマンの「お守り」。
主人公の女性は貧民街の裏路地で生まれ、親もわからない。
小さな頃から住み込みで働きながら暮らし、その中で人の裏の表情をつぶさに見てきた。
大人になり軍人と出会い付き合うが、結婚はしない。やがて生まれた子供も里親に出す。
隣国との緊張状態が高まりせんそうになると軍人は戦地へ。
軍人の友人がいいよってきてこどものために蓄えていたわずかなお金をむしりとられる。
それでも軍人が帰って来ればなんとかしてくれる、それまでは、と希望を紡ぐが戦死の報せが……
これでもかと不幸が折り重なり訪れ、その中で自ら子を殺し、不治の病いに冒されて床に伏していると、
全ての事情を理解した軍人(生きていた)はやってきて手を握り「結婚しよう」という。
主人公はお守りを握りしめ、それを軍人に託し息をひきとる。
辛い物語ですがラスト2ページでこれほど美しい情景を描くのか! と感涙。
「レミゼラブル」、「風とともに去りぬ」は長くて読むのは大変ですが、この作品は中編なので読みやすくおすすめです。
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物凄いドラマが展開されて小説としてもがっつり面白い作品です。
もしこの作品が長編だったなら「世界名作劇場」でとりあげられてもおかしくないんじゃないかな?
と思うくらい不幸と、それに負けずに生きる心の強さと、逆境と、ラストには救いがガンガン展開します。
嫌な奴も出てきます。
恋人が戦地へ行ってる時に、その友人が主人公を誘惑する。それのみならずなけなしのお金まで巻き上げる。
読者はこの男に殺意を覚えるんじゃないかと思えるくらい。
なけなしのお金はもちろん子供が大きくなってきた時に少しでも豊かな生活ができるように、というものだったんですけど、
そのお金がなくなり、さらに不幸に不幸、絶望に絶望が重なり自分の最愛の子を……孤児で結婚もしてないから唯一の家族を、
自らの手で殺す決断というのは本当に痛ましい。
ラストで主人公は死にますが、その死の間際に戻った恋人が放つ「結婚しよう」という言葉はどれだけの救いだったろう。
もしも病が癒え彼と二人で幸福な人生を送ったという大逆転のハッピーエンドという選択肢もなくはないかもしれませんが、
きっと読者は思うでしょう。
もう、彼女をこれ以上、生きさせることで苦しめないでほしい。
どんな ”生存して” のハッピーエンドよりもそこでの ”死” が彼女にとってもっとも幸福に思われる結末。
いまだかつてこういう心情には私もなったことがなかったので衝撃でした。
そしてその息を引き取る間際に、もっとも信頼する大好きな人がそばに現れ、自分を必要としているという言葉をくれる。
これは彼女の不幸な人生すべてを払拭し、彼女の生存を肯定してくれる。
生まれなきゃよかった、と思っていた死の間際までの人生が 「ああ、生きていてよかった」 と最後の最後で肯定できた主人公。
このラストシーンの美しさは見事。だからこそこの場面での死というのが彼女にとっての最大のハッピーエンドなんです。
やばい、泣けてきた。
決して長くないし読みやすく内容も難しくないので、読んでみてください。
おすすめの作品です。